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"打率10割超え"の世界を生きる

まがりなりにも編集長という仕事をしてきたので、編集やメディアについてお話させていただく機会はそれなりにあります。

そこでよく話すのが、"情報のファストフード化"についてです。これはオランダの新興メディア「De Correspondent」の話から引用したものですが、まずは普段どんな情報に触れているのかを自覚することが、情報を発信する側に立つための最初の一歩だと思っています。

情報の打率を上げる

そしてもうひとつ、必ず話すようにしているのは、"いい情報と出会う打率を高めよう"ということです。

いちおう補足しておくと、打率とは野球の打者における記録の一つで、ヒットの数÷打数で計算されます(打率が高ければ高いほど好選手)。

そして、それを情報で置き換えると、こうなります。

情報の打率 = 自分にヒットする情報の数÷(意図的に情報を探しているときに)自分が触れた情報の数

ここで分母はあくまで(意図的に情報を探しているとき)の話であり、「街を歩いていてポスターなどで偶然知った」といったケースはカウントしていません。一方、分子は意図的であるかどうかは置いといて、とにかく自分にヒットした情報の総数としています。大切なのは、意図の有無よりも結果だからです。

では、情報の打率を高めるためにはどうしたらいいのでしょうか。その鍵はまず、(野球とは違って)分母を減らすことにあります。分母である情報ソースを断捨離したり、調整していくだけで、当たり前のことですが必然的に打率は上がっていきます。

その上で、分子のヒットの数を挙げていくには、しっくりくる情報ソースを積極的に見つけていく必要があります。自然といい情報が集まってくる、そんな環境に身を置くように工夫するのです。

そのためには、一時的に打率が下がってもいいので、いろんな情報をフォローしてみるのもオススメです。そして一週間くらい経ったあとに、その情報を本当に求めているかどうか、その情報のために本当に自分の貴重な時間を費やしたいかどうか、を振り返ります。

つまり打率アップのコツとは、自分の味の好みを知るように、自分の"情報の好み"を知ることといえます。その指標となるのが、情報の打率なのです。

ちなみに特定のジャンルに限っては、打率が10割を越えることもありえます。それは例えば、僕が弘法大師・空海を好きだと知っている友人たちから、「空海のいい本が出たよ」「展覧会はじまったね〜」というメッセージが届く、というようなことです。

500打数600安打、打率12割。打席に立ってすらいないのに、向こうからヒットがやってくる。調べてもいないのに、ブレイクスルーとなるような情報がめぐってくる。これこそ情報収集の究極の形といえるかもしれません。

人生で受け取る恵みの打率を上げる

そんなことを話しているうちに、この"打率10割超え"という話は、実は情報の取捨選択だけでなく、人生にも応用できるのかもしれない、と最近思うようになりました。

その打率とは、人生で受け取るあらゆる恵みの打率です。

人生で受け取るあらゆる恵みの打率 = 自分が恵みを受けとったと感じる機会の数÷(意図的に)恵みを得ようとする機会の数

この式においても、先ほどと一緒で分母が減ると必然的に打率は上がります。それはつまり、意図的に恵みを得ようとすることを手放す、ということです。

私たちはどうしても自分の意図で何とかしようとがんばってしまいますが、実際はほとんど思い通りにはいきません。そしてこの「思い通りにしよう」という考え方こそが私たちの迷いの大元であると、仏教では説かれています。

お馴染みの「一切皆苦」の「苦」とは、「思い通りにならないこと」を意味すると聞いたことがあります。仏教の見立てでは、すべてはうつり変わるものであり、思い通りになるものは何もないのです。とはいっても、それは決して悲観することではありません。執着する心を手放したとき初めて、すべての可能性をオープンに迎え入れることができるようになるからです。

意図を手放すことで分母が減るだけでなく、恵みへの感受性が高まることで分子が増えていく。そうした先に"打率10割超え"の世界が開かれます。そしてそんな世界を生きるとは、自分はすでにたくさんの優しさや恵みを受け取っている、というとてもシンプルな真実に、ただ気付いているということなのかもしれません。

はじめまして、勉強家の兼松佳宏です。現在は京都精華大学人文学部で特任講師をしながら、"ワークショップができる哲学者"を目指して、「beの肩書き」や「スタディホール」といった手法を開発しています。今後ともどうぞ、よろしくおねがいいたします◎