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〈ほしい未来〉を明確にするヒントとしての「存在目的」

ソーシャルデザインの多くは、モヤモヤから始まります。

そして、そんな日々の煩悩を〈ほしい未来〉に転じる力を身につけるためには、「何が気になる?」「何を断ち切る?」「何に応える?」「何を願う?」という4つの問いがヒントになる、と僕は考えています。

まずは、何にモヤモヤをしているのか吐き出し、しっかりと受け止める。そして、モヤモヤに振り回されないように現状を正しく理解して、本当のニーズを探る。さらに、カラダとココロの声に耳を傾けて、自分にとって大切なテーマを見極め、最後に自分がコミットできそうなことを言葉にしていく。そんなプロセスが必要だと思うのです。

第三回に続いて今回は、よっつめの問い「何を願う?」と向き合うための一冊をご紹介したいと思います。キーワードは「存在目的(Evolutionary Purpose)」です。


誰もが〈本来の自分〉を生きる時代へ

前回の「何に応える?」ではジョアン・ハリファックスさんの「Standing at the Edge」を教科書に、自分がどんな役に立てそうなのかを見極め、そこから〈ほしい未来〉の方向性に気づくヒントをご紹介しました。

今回はさらに歩みを進めて、〈ほしい未来〉をより明確に、できる限り"自分の言葉"として語れるようになることを目指したいと思います。そのヒントとなるのがフレデリック・ラルー『ティール組織 ― マネジメントの常識を覆す次世代型組織の出現』(2018、英治出版)のキーワードのひとつ「存在目的」です。

"ティール"とは色のことで、マフィアやギャングのように、力、恐怖による支配を行う衝動型(レッド)、教会や軍隊のように、規則、規律による階層構造がある順応型(アンバー)、多国籍企業のように、予測と統制によって効率的に成果を生み出す達成型(オレンジ)、物質主義の反動としてのコミュニティ型組織である多元型(グリーン)に続く、信頼をベースとした新たな組織が進化型(ティール)と呼ばれています。

進化形(ティール)組織の特徴(本では"突破口")として挙げられているのが、次の3つです。

自主経営(Self-Management)
進化形(ティール)組織は効果的に機能するための鍵を見つけ出した。大組織にあっても、階層やコンセンサスに頼ることなく、仲間との関係性のなかで動くシステムである。

全体性(Wholeness)
進化形(ティール)組織は、私たちの精神的な全体性があらためて呼び起こされ、自分をさらけ出して職場に来ようという気にさせるような、一貫した慣行を実践している。

存在目的(Evolutionary Purpose)
進化形(ティール)組織はそれ自身の生命と方向感を持っていると見られている。組織のメンバーは、組織が将来どうなりたいのか、どのような目的を達成したいのかに耳を傾け、理解する場に招かれる。

『ティール組織』フレデリック・ラルー、p92

これらが象徴しているのは、意思決定の基準が名声や成功といった外的なものから、内的なものへと移行しているという時代の気分といえるでしょう。

ラルーさんの言葉を借りれば、人生は自分の本当の姿を明らかにする旅であり、これからの時代は「自分が何者で、人生の目的は何か」という内省の時間がますます重要となるのです。


使命としての「存在目的」

人生の究極の目的は成功したり愛されたりすることではなく、自分自身の本当の姿を表現し、本当に自分らしい自分になるまで生き、生まれながら持っている才能や使命感を尊重し、人類やこの世界の役に立つことなのだ。

『ティール組織』フレデリック・ラルー、p76

進化形(ティール)組織の3つの突破口のうち、この章では「存在目的」に注目してゆきます。

改めて存在目的とは、「私が人生でなすべき使命とは何か?」「本当に達成しがいのあることは何か?」といった深い問いから導かれるものであり、果たすべき使命といえそうな、とても壮大な概念です。そして進化形(ティール)組織においては、存在目的こそが組織のエネルギー源となるのです。

原文では"Evolutionary Purpose"と表現されていますが、この"パーパス"というキーワードなら聞き覚えがある方もいるかもしれません。最近では、DIAMOND ハーバード・ビジネス・レビュー2019年3月号でもパーパス特集が組まれるなど、"ミッション"、"ビジョン"に続く新たなキーワードとして注目されています。

その特集によれば、自分たちの存在意義を示すミッションにはアイデンティティ型ミッションパーパス型ミッションの2種類あるとしています。そして「自分たちは社会の中でどうありたいのか」が前者だとすれば、「自分たちが社会に何を働きかけたいのか」を表明することで組織の求心力を高めることがパーパスの役割なのです。

このようなパーパスが求められている背景には、SDGsの広がりとともに、より切実に"サステナビリティ経営"に取り組まなければならないという事情もありますが、もっと深いところでは先ほどの"外から内へ"という大きな時代の転換期が影響しているといえるでしょう。

というのも、いくらトップが崇高な"ミッション"を掲げたとしても、社員ひとりひとりにとってそれが"自分の言葉"として落とし込まれるまでには、大きなギャップがあるからです。

だからこそパーパスにおいても、これまでのように「会社は何のために存在するのか」をトップダウンで定着さえようとするのではなく、社員ひとりひとりが「何を実現するために、この組織で働きたいのか」を振り返る機会をつくり、会社のパーパスと個人のパーパスをできるだけ一致させていくことが大切なのです。

個人と組織の存在目的が共鳴し、お互いに強化し合うと驚くべきことが起こるかもしれない。「これぞ天職だ」と言える仕事と出会う。(…)人はしばしば神の恩寵に包まれた気分になる。自分に羽が生えた感じがする。内なる力が湧いてきて、努力しなくてもなんでもできるような感覚を抱き、かつてないほどの高い生産性を挙げている気分になる。

『ティール組織』フレデリック・ラルー、p370

ちなみにラルーさんは、ミッション・ステートメントが空疎に響くのは、自社の存在目的よりも「勝利」を重視しているからと鋭く指摘しています。そのような勝利至上主義は、達成型(オレンジ)組織に典型の原動力でした。

しかし、使命と呼べるほどの大きな願いに向かっている進化形(ティール)組織においては、"競争"というものがなくなるとラルーさんはいいます。なぜなら、そこには〈ほしい未来〉を実現するために、それぞれの場所で、それぞれにできることで役割分担をしている仲間しかいないからです。


"パーパス"の見つけ方

ではどのようにすれば存在目的を明確にすることができるのでしょうか? ここでラルーさんは、逆説的に特別なことは何もする必要がないといいます。その変わり、あらゆる進化形(ティール)組織には日々、進化していく存在目的に耳を傾ける慣行があるというのです。

そうした慣行(組織的な文化、仕組みなど)が目指すのは、ひとりひとりが未知の可能性を感じ取る(センシング)能力を高めること。進化形(ティール)組織を研究してみると、具体的には瞑想のような精神的な練習を促したり、ホールシステム・アプローチのような大集団での対話の場作りを行ったり、といった共通点があるようです。

そもそも未来を確実に予測できないからこそ、開かれた心で耳を傾けると、物事がすべて起こるべくして起こっているかのように感じられることがあります。

先ほど存在目的はエネルギー源であるといいましたが、『アクティブ・ホープ』著者のジョアンナ・メーシーさんの言葉を借りれば「より大きな自己からの導きの合図」といえるかもしれません。存在目的こそが、このわたしを呼んでいる。存在目的は生み出すものではなく、私たちが仕えるものなのです。

そうした深い存在目的に耳を傾けるために、『ティール組織』の解説を担当したhome's vi代表理事の嘉村賢州さんは、次のような”洗練された問い”をシェアしてくれています。

もともとの文章には「この組織(役割・個人)」とありましたが、ここでは「ここにいるわたし」に入れ替えてみました。さて、みなさんなら、どんな言葉が浮かぶでしょうか?

・ここにいるわたしは、この世界で何を実現したいのか?
・世界はここにいるわたしに何を望んでいるのか?
・ここにいるわたしがいなかったら、世界は何を失うのか?


『ティール組織』フレデリック・ラルー、p565

きっと簡単ではないと思います。あるいは、ざわつく感じもあるかもしれません。でも、それくらいの方が探求しがいがあるようにも思うのです。

ここで大切なのは、(前回ご紹介したとおり)いきなりアタマで考えずに、まずは自分自身のカラダとココロに波長を合わせること。ぜひ内なる声に耳を傾けて、豊かな反応を味わってみてください。そして、より大きな自分から立ち上がったより大きな願いを、"自分の言葉"として表現してみてください。

はじめまして、勉強家の兼松佳宏です。現在は京都精華大学人文学部で特任講師をしながら、"ワークショップができる哲学者"を目指して、「beの肩書き」や「スタディホール」といった手法を開発しています。今後ともどうぞ、よろしくおねがいいたします◎