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気候変動政策推進のしわ寄せ?

ワシントン DCで開催された「The Tech for Climate Action」のイベントに参加してきました。National Press Clubで開催され、2021年法制化されたインフレ抑制法や、インフラ投資と雇用対策法(IIJA)のインプリフェーズにある中で、州行政からも参加者がいたり、民主・共和党議員参加者もおり、バランスが取れているイベントでした。


共和党の「推し」気候政策は何?

中道右の共和党系アドボカシー団体のリーダーは、期待をする政策は何?という質問に対して、アメリカ版の炭素国境調整措置案の「プローブ・イット法(PROVE IT Act)」を挙げていました。

意外とグローバルな大きい論点に期待しているなぁーと、おそらくいろんな共和党関係者がこの政策に関して動いている証左なのだと思いますが、ちょっとこれ以外に期待している政策ないんでしょうか!?と突っ込み入れたくなりました。COP28前だったということで、政策プロモーション的な発言かもしれません。

この方から、「Blue demand and red supply(青い需要と赤い供給)」という表現がありました。つまり、クリーンエネルギーに向けた需要は民主党(青)よりの州から生まれ、その供給(資源など)は共和党の州からであるという意味です。

特に赤い州(共和党寄りの州)での雇用創出や投資が進んでいるということで、いくら保守の共和党議員であっても、すでに法制化された法案を、実際巻き戻そうという動きが実ることはないだろうということでした。


最も期待するのは、「核融合」

Don Beyer下院議員(民・マサチューセッツ州)という議員がパネルに参加していました。COP15の頃から議員を努めている方です。クリーンエネルギーへの移行での一番の期待はなんですか?という質問で、開口一番「核融合」を挙げました。

この議員は、核融合に関する議員コーカス委員長を担っており、マサチューセッツという核融合のアカデミアが集積しているという地区という特殊性から、この発言自体に驚きはありませんでした。ただ、クリーンエネルギーとテクノロジーの会議で「核融合」がしっかり議論の中に組み込まれているところが興味深かった点です。そのほかにも、直接大気から二酸化炭素を取り除く技術(Direct Air Capture)などにも期待を寄せているとのことでした。

州や市行政にしわ寄せ?

大都市のクリーンエネルギー移行を担当している実務者からのコメントでは、連邦の動きのおかげで、全体的にクリーンテックは良い方向に進んでいるが、現場は「混沌」としているとの印象が伝わってきました。ニューヨークの担当者はため息をつきながら、現場は大変なのよと話しているのが印象に残ります。

例えば、ニューヨークでは、インフラ投資と家賃が連動する法律があり、インフラに対する投資が家賃上昇に繋がることが指摘されています。これにより、低所得者世帯に対する影響が懸念されています。

ニューヨーク、デンバー、ペンシルバニア、カリフォルニアから行政担当者が参加していましたが、共通して、「職業訓練(work force training)」が追い付かないと声を揃えていました。石油・ガス・石炭に依存しているエネルギー構造の転換を図っているわけなので、そのしわ寄せがあるのでしょう。デンバーの担当者は、未知の世界なので、なるべく多くのステークホルダーを巻き込むように動いていると、20代か30代のとても若い担当者がエネルギッシュに回答していました。

なお、NYCでは再生可能エネルギーの整備や洋上風力発電プロジェクトによる雇用創出など、具体的なインパクトも見えており、なおさら職業訓練を加速しなければいけないと発言していました。

米国各州の二酸化炭素削減目標(ソースhttps://www.c2es.org/content/state-climate-policy/)

インフラとサプライチェーンの課題

北米でも異常気象が増加している中で、ベースロードのエネルギー源についての議論では、クリーンエネルギーへの移行期にある今、送電網の老朽化や許認可の複雑性、サイバーアタックなどの脅威など様々な問題が指摘されました。

クリーンエネルギーの業界団体は、水素エコノミーが加速していることに触れ、一方でサプライチェーンの集中がまだ解消されていないため、材料や技術の供給源に注意が必要であると強調していました。

DCならでは?

DCにおけるステークホルダー連携の重要性: 市民アドボカシー団体、議員、シンクタンクが「推し政策」でうまく連動していると、DCならではの景色が見えてきます。党の政策的なアジェンダ形成の片鱗がみえます。

難しい議会運営状況: ワシントンDCでは「議会運営が非常に難しい」との声が鳴り響きます。(トランプ政権以降はずっとそうかもしれませんが、、)2024年の大統領選挙が迫るなか、政治・議会運営はますますが複雑化していき、政策的にも糸を通すのが難しくなっていくでしょう。

ちなみに会議の同日は、まさに議会がドタバタ劇中(共和党下院議員委員長が解任されるという歴史初のイベントとつなぎ予算失効カウントダウン)でした。

From Washington DC,
Emi Yasukawa


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