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心やすらぐ、和合の花火〈読むクスリ〜生薬編〉

*生薬など、実用的記事をnoteにまとめていきます。

6月某日、安曇野(長野県)のご近所を散歩していたら、とあるお宅の軒先に、ふんわりした桃色の光がたくさん降り注いでいる。

線香花火…?


3年前、このあたりに移住したくて古民家をさがしたとき、
「これは古すぎてリフォームが難しいよ」と不動産屋さんが言ってたログハウスだけど、いつの間にか、赤ちゃんのいる若いファミリーがじょうずに工夫して住んでいる。

壁も屋根も生き返って、ほくほくした呼吸をしているようにみえる。

若い家族をつつむように、夕暮れの陽に明滅する花火たちーーーその名は「ネムノキ」。


名前の由来は、夜になると、眠るように葉と葉を重ねて閉じる「就眠運動」から。

オヤスミナサイ…

中国では「合歓樹」または「夜合樹」とも呼ばれて、夫婦が和合して仲良く眠るシンボルともいわれる。

あるところに、癇癪持ちでいつもガンガン怒るお父さんがいましたが、お母さんが、この花をお酒に浸して晩酌に出したら、たちまち機嫌が良くなって、末ながく家庭円満になりました。そんな逸話もある。

見ているうちに、こちらの意識もフワフワしてきそうだ。夫がだまって手をつないできた。


すると翌日、お慕いする農法家のANDOさん(長野県塩尻市/83歳)が、こんな投稿をされていた。

「合歓の花が咲き始めました。つかみどころのないような優しいこの花が私は好きです」

あらまあ。
ANDOさんはアートテン農法をされていて、信じられないくらい美味しい作物を育てている(いただいたレタスは何日たってもつやつや、ぱりぱりで光っている)。ネムノキまであるとは楽園だ。


古今東西、老若男女の心をつかむピンクのふわふわ。
なんとその翌日には、私の通っている東洋医学校で、授業にこんな項目がでてきた。あらまあ…。

うらみを流す生薬って、すごくない?


三日連続のネムノキ・マジック。
誰かにお伝えしなさい、必要な人がいるということなんだろう。

【安心薬】というジャンルで珍重される生薬で、
恨み、怒り、不安、いらいら、物忘れを解消し、優しい眠りへと誘ってくれる。


今の日本人に必要なレスキュー・プランツなのかもしれない。

時代の変化に揉まれ、波間をただよい、胸がどきどきし、寝苦しい夜を過ごす人たちに、そっと寄り添ってくれそう。

【心】経絡と【肝】経絡に入り、イライラ、ドキドキ、もんもんを癒してくれる。季節的にもいま(7月)がどんぴしゃり。

樹皮も、花も似たような作用がある。オンラインストアでお茶も売っている。

やさしい作用なので、多量に煎じて長く服む必要があるというけれど、この花や樹皮を乾かして、枕のしたに入れておくだけでも、鎮静されるというハーバリストもいる。

そして眠っている間に邪気が払われる。

伝教大師・最澄上人は、光輝くネムノキを見つけて千手観音を彫ったという伝説があり、仏縁のふかい木でもあるという。


日本の民間薬としては、腫れ物、打ち身、関節痛の治療に合歓皮の煎液で患部を洗ったり、入浴剤として使用されてきた。

合歓皮の黒焼きと黄柏(オウバク=キハダ)粉末とを酢で練り合わせたのを、患部に冷湿布する方法もある。

古代中国(二世紀頃)『神農本草経』にはーーー
「五臓を安んじ、心志を和し、人をして歓楽して憂いなからしめる、久しく服すれば身を軽くし、目を明にし、欲する所を得る」

金元医学(12ー14世紀)四大家のひとり朱震亨によれば、
「合歓は土に属し、補陰の功が甚だ捷(すみやか)である。肌肉を長じ、筋骨を続くーー(略)ーー白蝋と共に膏に入れて用いれば神効がある」

心も体も潤してくれるようだ。

ミツロウと混ぜてバームをつくったら、ココロとカラダをやわらかくする、とびきりのバームができるかもしれない。



マメ科 (Fabaceae/Leguminosae) ネムノキ属
英名Silk tree
日本の山地や河岸など開けた場所に生育する落葉高木。日本全土、中国、中東に分布。
開花は6月から7月にかけて。半球状。満開時には、ピンクの雲やワタ菓子に例えられる、ふんわりした花が樹形を覆い、夏の始まりを告げる目印となる。





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