見出し画像

「ディレクター」あるいは「ディレクション」について

はじめに

ここ最近、ディレクションについて訊かれることがあり、その度に「じぶんのディレクションのやり方なんて、30分で教えられます」と返事をしています。

いわゆる専門知識であれば、私より優れた人間などいくらでもいます。
デザインやら制作物の管理、イベントの進行、システム設計などなど、一流の人々には頭が上がりません。
正直、元いた会社では、そんなスーパーマンが周りにたくさんいたので、私自身は底辺レベルでした。

しかし、そんな中でも私を必要としてくださる方がいるのは、専門知識/特殊な経験が無くても、経験が浅くても、"とりあえず何とかする"ための手段をとり続けているからだと思います。

そこで大変僭越ながら、これまでの考えを棚卸しがてら、私がどのようにしてディレクションに向き合っているのかまとめておこうと思い、ここに記します。

※注:本noteでは、最後の最後まで劇薬のようなスペシャルでおもしろい話や手法論は出てきません。大変地味な内容なので、"明日から最強になれる"ようなスペシャルな方法が知りたい方は、このnoteを読む時間が勿体無いので他を当たっていただけますと幸いです。


本noteの章立ては、"精神論1つ・理論1つ・具体論1つ"

本noteは、3つの章で構成していきます。

「そもそもディレクションって何だっけ?」「どういう心持ちで取り組まなければならないの?」という、まずは概念論/精神論的なこと。

次に、考え事をするにあたって手助けとなる理論的なこと。

そして、最後に「具体的には何をすればよいのか?」「どうすればよいのか?」という、手法論的なことを記していきます。

それではまず、「精神論」から。

【精神論】「ディレクター」って、日本語にすると何か、知っていますか?

一度お手元で考えてみてください。



と、いいつつ即刻答えを書いてしまうと、「ディレクター」は日本語で「監督」という意味になるそうです。

言い換えると、"ディレクションを任される" = "監督になる" 意識が必要ということです。

Image from Unsplash, by Donald Edgar.

では、「監督」だと分かったところで、何をすればよいのでしょうか?

これは野球の監督や、映画の監督などをイメージすれば分かりやすいと思います。

野球の監督は、基本的に自身でマウンドに立つことは無く、またバットを握るわけでもありません。映画の監督は、自身で役を演じるわけではなく、カメラを回す必要もありません(もちろん演者をやって、カメラを回す監督もいるかとは思いますが、特殊な例かと思います)。

では、そんな中で監督(ディレクター)の仕事は何かというと、私自身の理解では「責任を持つ」ことだと思っています。

「何に対して責任を持つのか?」

それは、「結果・クオリティに通じるすべてのこと」に。たとえば、采配/キャスティングに。試合における作戦に。スケジュールに。予算に。現場の空気感に。あらゆる結果に対する責任を持つことが監督(ディレクター)の仕事です。

具体的に何をするかは、各案件や分野によって異なると思いますが、「結果に対して責任を持つ」ことにした途端、やるべきこと・心配事が山ほどあることに気が付くでしょう。

「本当にこれで満足のいく結果が得られるだろうか?」
「ちゃんとスケジュールに間に合うだろうか?確認しよう」
「あの人はちゃんと作業しているだろうか?連絡してみよう」
「これ本当に予算に収まるのだろうか?計算してみよう」
「事故に繋がったりしないだろうか?チェックしよう」
「本当に手は足りているだろうか?訊いてみよう」
「もし当日雨が降ったらどうしようか?考えておこう」
「人間関係これで気まずくなったりしないだろうか?伝え方は…」

こういった想定されるさまざまな疑問や不安、悩みごと一つ一つに対して、人にお願いして対応してもらったり、あるいは自ら対応していくというのが、"ディレクション"の基本的な業務です。

該当する分野の案件に慣れている人であれば、ここまでの内容で充分かと思います。しかし、ディレクションに関して不安がある方であれば、「そもそも何が問題なのか分からない」「何が分からないのか分からない」という場合が多いと思います。

そこで次の章では、ディレクション全般において共通する心配ごとのためのフレームワークについて記します。


【理論】考える際の補助輪

「QCD」「PMBOK」といった言葉をご存じでしょうか?
どちらもプロジェクト管理において用いられる「どのようなことを気にすればよいか?」についてまとめられたフレームワークのようなものです。

案件について、色々と考えを巡らせる際、「これで本当に全てだっけ?」「何か見落としは無いかな?」と思ったとき、これらのフレームワークは有効な手掛かりになります。

QCDとは…

QCDとは、Quality(品質)・Cost(コスト)・Delivery(納期)という、3つの頭文字を取ったものです。

詳しくは、検索で調べてみたり、書籍を買って読んだりしていただけるとよいのですが、さほど深く知らなくても「QCD全部大丈夫かな?」と思うだけでも、かなりの心配ごとをカバーできます。

ただし、Quality(品質)に関しては、案件によってかなり気にする内容や細かさが異なるので、そこは注意していただけるとよいかと思います。最終的には経験を重ねつつ、「本当にこれで大丈夫か?」と自身に問い続けるのが一番よろしいかと思います。


PMBOKとは…

PMBOKとは、「プロジェクトマネジメント知識体系ガイド(A Guide to the Project Management Body of Knowledge)」なるものの略語で、プロジェクトマネジメント協会(PMI)なるところがまとめているそうです。

専門知識として、PMPという国際資格も存在しており、PMBOKに関して学ぶための書籍などもさまざまに発行されています。

私自身は資格自体を取得してはおりませんし、そこまで深く学んだわけでもありませんが、参考図書に示されるさまざまな要素は、ディレクションを行う際、参考になりました。

先ほどの「QCD」で、案件の本当に基礎の基礎にあたる部分はカバーできておりますが、「PMBOK」では、"チーム運営""スコープ管理"といった、プロジェクト管理に関する、より多様な要素について言及されています。

PMBOKそのものの勉強に多くの時間を割いては元も子もありませんので、一度関連書籍などを通読してみて、気になったポイントを自身の案件に照らし合わせて振り返ってみていただけるとよろしいかと思います。

なお、巻末に参考書籍を記しておきますので、気になった方はご覧ください。

人に訊いてみよう

QCDやPMBOKといったフレームワークをご紹介しましたが、これらはあくまで一人で悩むためのツールとしてご案内しました。

ですが、これを読んでいらっしゃる方は、きっと一人で仕事しているわけではないと思います。

せっかく近場に同じ悩みを深く共有できる人がいるのですから、その人に「案件がこういう状態なのですが、何か気になることはないでしょうか?」「本当に大丈夫でしょうか?」と訊いてみてください。

一人で考えていたときには気が付かなかった点、経験から来るアドバイスなどがもらえるかもしれません。

Image from Unsplash, byPriscilla Du Preez.

なお、気を付けて欲しいのですが、前述したQCDやPMBOKといったフレームワークを「一人で悩む」ためにと紹介したのは、決してネガティブな意味ではありません。

まずは一人で悩んでみること。考え抜くこと。それが何よりも大事だと思います。それが最初に書いた「責任を持つ」ことの第一歩です。

何の考えも無しに人に訊いて解決しようとするのでは、このnoteを読んでいただいた意味がないですし、何より「そもそも何をどう相談したらよいかがわからない」はずです。

さて、ここまで記してきた「QCD」と「PMBOK」、あるいは周囲の人への相談を手掛かりに、自身のプロジェクトについて「本当にこれで大丈夫か?」「これが最良か?」一度振り返って考えを巡らせてみてください。

そうして出てきた悩み事・心配事をどうすればよいか。その具体的な方法について次の章で書き記します。


【具体論】ノートとペンを用意しよう。日記を書こう。

私の行っていることは、以下のことに尽きます。

特におもしろいことは何もないと思いますが以上です。シンプルなので、どなたでもお試しいただけると思います。

ノートとペンだけあればいいので数百円で済みますし、特別なツールを導入するための勉強も必要ありません。

なお、これは毎日続けてください。
思い立ったときにするようなものではなく、毎日ノートを開いてください。日記のようなものです。気が付くと案件のディレクション以外のことも描いているかもしれませんが、それでよいと思います。

また、このノートは人に見せてはいけません。見せられるような文字の綺麗さは必要ではありませんし、何よりじぶんしか見ないからこそ書けるものもあるでしょうから。

結局、大事なのは考え続けることだと思います。パーッと忘れて飲みに行こう!なんて思わずに、気が済むまで考えて、そして思いついたことを試し続けることが一番よいのだと思っています。

ちなみに私がこういったことを始めたのは、大学三年生の冬でしたので、そろそろ10年になります。数えたら全部で106冊のノートがありました。

これまでのノートの変遷。サイズは色々変わりつつも結局B5に落ち着く。

もちろん毎日が完全に埋まっているわけでもなく、その日の日付しか書いていないよなページもありましたが、それでも今に至るまで続けており、私自身の基礎体力にもなっていると思います。


まとめ

お読みいただきありがとうございました。ここまでの内容をまとめると以下の通りとなります。

補足とあとがき

自分以外の〇〇ディレクターと仲良くしましょう

ディレクターを「監督」と表し、「責任を持つ」と書いたことで勘違いはして欲しくないのですが、「じぶんで何でも決めてもよい」というわけではありません。

たとえば、"クリエイティブ・ディレクター"や、"アート・ディレクター"、"Web・ディレクター"、"イベント・ディレクター"など、"〇〇ディレクター"といった役割がありますよね。

そういった、特定の領域に特化した役割の方がいる場合は、役割・責任の住み分けには気を付けるのが善いと思います。領域侵犯して喧嘩をするようでは、元も子もありません。

"〇〇・ディレクター"に該当する方々はそれぞれ、各々が得意とする専門分野に集中してディレクションを行うべく、その立ち位置にいらっしゃるわけですから、その分はその方に頼るのが善いでしょう。

ただもちろん丸任せにするというわけではなく、案件自体を良くするためならば、意見を交わすのはよいことだと思います。すべては案件自体の良い結果のためにすべきことだと思います。

「諦める」という責任の果たし方もある

「責任を持つ」という書き方が、もしかすると誤解を生む気もしたので補足します。

「責任」などというと、どうにも"責任を取って辞任する"みたいな表現や、"謝罪"のようなものが頭をよぎるかもしれませんが、決してそういうわけではありません。

失敗をしたら「オマエのせいだ!」と言われるかもしれませんが、成功した暁には「君のおかげだ!」と言われるくらいに働くという意味です。あくまで案件/プロジェクトに対する「責任感」を持つことの大切さを書いてきた次第です。

ただ、そこでもう一つ書き足しておきたいのは、「諦める」という責任の果たし方もあるという考え方です。

どういうことかというと、自身がディレクターとして起用された後に、よくよく案件について考え詰めてみると、「求められているスキルを自分自身が持ち合わせていない/期間内に習得できない」あるいは「このままいくと心身ともに限界が来て、反って迷惑をかけてしまう」といった状況に出会うことがあると思うのです。そんなとき、無理をして続けることは逆効果になりますよね?
もちろん、なんとか自分自身で対応し続けるという道もあるとは思うのですが、「本当にその案件について真剣に考えた結果」自らが引いた方が良いという結論に至ったのであれば、関係各位に頭を下げて回って、自分は降りるという手段もあると思うのです。

事実、私自身何回かこういう手段を取ったことはありますが、そのまま私自身が続けていたら、絶対よくない結果に陥ったと思うものばかりです。今思い返してみても。
当然、惨めな思いはしましたし、決して気持ちの良いものではありませんが、案件そのものの成功。あるいは大袈裟な言い方をすれば自分自身の人生のためを思えば、「諦める」というのも取りうる一つの手段であると思います。


社内教育で活用する場合は定例会がお薦めです

毎週1回程度の定例会を開いて、案件の状況を報告してもらう。
そして、各状況について、なぜそうなっているのか? そしてどうすれば今よりもよくなるのか?

聞いてあげる、あるいは「なぜ?」「本当に?」と質問を投げかけてあげるの会があると良いと思います。

一人で悩んでいてはどこかに限界があるでしょうし、喋ることでアタマが整理されることもあると思います。

ただし注意しなければならないのは、説教の会・詰める会にしないことでしょうか。

質問が来たら答えてあげるけれども、基本はその方の喋るに任せるのが善いと思います。状況を整理すること、原因を探る/考えること、解決策を考えること、そして、人にそれが共有できるようにまとめることが第一義です。一度聴く役割でやったことがありますが、これが大変難しい……

これに思い至った起源は「ソクラテス式問答法」なるもので、ひたすらに壁となって相手の思考を手助けするというものなのですが、どうしてもコチラ側から喋りたくなってしまう…… そしてつい喋ってしまいがち…… 難しい。

https://sendai-shinri.com/1829/


「責任を持つ」ことに関して

「責任を持つ」この一言で、ひたすらに不安症に悩まされることになります。

正直この感覚で過ごすのは好きではありません。

朝起きた瞬間から、布団に入って寝落ちするまでの間ずっと案件の状況に欠けが無いか不安に駆られることになります。比喩ではありません。

スケジュールが押しているのだとしたら、それはクライアントのせいでもなく、外注先の誰かのせいでもなく、ディレクターであるじぶんのせいであるという認識を、心のどこかに持って過ごしています。

私自身があまり多くはディレクションの仕事を請けていないのも、この不安症状態でいることが、精神的にきついからです。

ディレクターの立ち位置にいるときは、具体的な制作作業は原則やらなくて良いため、体力的に削れることは少ないのですが、その一方で、あらゆる現場の不安を考え続けることにより、精神的に削られることが多いです。

ですから、実はこんなnoteを書いておきながら、お金などの条件面がよくない限りはあまりお請けしていないのが最近の実情です。企画書やコード書いていたり、Illustrator, Photoshop, AfterEffects, blenderなどなどをいじっている時間の方が好きです。


ネガティブ/悲観的な見方であることは認めます

全体を通して「責任を持つ」「心配する」「悩む」などなど、視点が大変ネガティブであることは認めます。

「これでは仕事がつまらないじゃないか」とか「そんなに心配性だと辛くない?」といった感想を持たれるかもしれません。

仮にこの手法論が採用されたとすると、育てられる側視点ではたまったものではないでしょう。「なぜ?」「どうして?」「本当に?」と詰められるばかりなわけですから。いわゆる「今の時代」には合わない考え方な気もしております。

ですが、真剣であればあるほど、不安な気持ちや心残りは常に付きまとうものだと思っています。むしろ、ささっとスマートに終わらせて満足してしまうなんてことの方が怖いです。

教えられる側に関してもやはり、責められ・叩き上げられ・強くなるというプロセスは、ある程度有効であると個人的には思っております。

色々書きましたが、このあたりのマインドセットに関しては、私がとやかく書くよりも、漫画やアニメ、あるいは映画やドラマに語られる言葉に浸っていただくのがよいと思います。失敗するぐらいでちょうどいいと思うのです。

あるいは、最終的には少年ジャンプが如く、「友情・努力・勝利」で乗り切っていくのが最良だと思います。



謝意とあとがき

ここまで長文にお付き合いいただきありがとうございました。

普段3行以上の文章を書いていないため、大変読みづらい文章に仕上がっているかと思いますが、ご容赦くださいませ。

半ば自分語りのようなnoteにはなってしまいましたが、この記事が何かしらディレクションで悩んでいる方の一助となれば幸いです。

ありがとうございました。


参考書籍


あなたを天才にするスマートノート

ノート術に関しては、この書籍の受け売りです。
今回は、ディレクションにおいての解決策として紹介しましたが、私のあらゆるスキルの中心点には、このノート・ノート術があるといっても過言ではありません。

長々とnoteを書いてしまいましたが、「これ読めばOKさ」と一言書くだけでも良かったかもしれませんね。


先制型プロジェクト・マネジメント -なぜ、あなたのプロジェクトは失敗するのか

PMBOKに関して、概要を知るのに大変役立ちました。PMBOK自体は、この書籍に記されている以上の深い理論などもあるとは思いますが、個人的には、この書籍に書かれている内容を薄っすら頭にとどめておくだけで充分だと思います。


アジャイルサムライ -達人開発者への道-

「アジャイル」という開発フローに関して書かれている書籍です。システム開発などにおける一つのやり方ですが、システム以外の分野においても参考になることがあります。個人的には、「荒ぶる四天王」の話が参考になりました。



アニメを仕事に! トリガー流アニメ制作進行読本

アニメの現場に特化した内容です。次に紹介するアニメ「SHIROBAKO」と合わせてご覧いただくとよいと思います。
私自身は、アニメの制作現場を経験したことはありませんが、共通することも多く大変参考になった記憶がございます。一時期はアニメ業界で使われている「カット袋」を模したものを自作して、案件の管理を行っていたりもしました。


アニメ「SHIROBAKO」

観れば分かります。


ゲーム「factorio」

steam版

任天堂Switch版

不時着した惑星から、ロケットを打ち上げて脱出するべく、工場を組み立てていくゲームです。効率化を考えるのに、これ以上の題材には出会ったことがありません。
「現状はこうである。より効率化するにはこうしたらよいのではないか?」あるいは「今後こういったプロセスが入ることが想定されるから、このベルトコンベアはこういったルートを組んでおこう」といったまさに仕事において回すような思考を体験できるゲームです。
ただし、やりすぎ注意。はまります。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?