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銅玄師の世界

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銅原子の書いた物語を集めました。良かったら読んでみてください。
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CLYDE WAS HERE 夢の痕

 私は素敵な夢から覚めた。時刻は夜の三時を少し過ぎたところだ。私は自分のコレクションが詰まった棚を漁る。探しものはすぐに見つかった。宝物のレコードを腕に抱えてターンテーブルの前に立つ。回転数を確認しレコードを乗せた。そして、ゆっくりと針を落とした。爆音で流れるモリタート。私は其奴を口ずさみながら、縄と椅子とマジックを持った。  私は壁に大きくメッセージを残す。それが終わると、椅子に登って天井に縄を括り付けた。そして、縄の下には頭が一つ入るくらいの輪っかを作った。  インター

CLYDE WAS HERE 後編

 銃声が一つ鳴る。私は自分の着ていた白いワイシャツが赤く染まっていくのをじっと眺めていた。徐々に痛みが広がっていく。   「私の歌を聴かないでこの部屋から出ようなんて、許されないわ。」  振り返るとそこにはボニーが怒りを露わにして未だ、私にピストルを向けている。私は自らの血で汚れたワイシャツを指先で触ってみた。指についた血はヌルヌルしている。そして、とても綺麗な紅色をしていた。私は其奴をそっと舐めてみる。口いっぱいに鉄の味が充満する。   「これだ。これこそが自由だ。」

CLYDE WAS HERE 中編

 闇に目を凝らしながら慎重に歩いていると、先程、私が入ってきたのと同じ扉が大きな音を立てて開いた。男が乱暴に女の手を引っ張りながらこちらに向かってくる。女は必死に抵抗し続けたが、男の力の前に為す術もなかった。二人は私の横を通り過ぎる。女は私の顔を見ていたが、私は恐怖で何も出来なかった。男は少し先に進んだ所にある扉を開け、女と共に中へ入って行った。  二人が入って行った後、間をおいて一人の女が出て来た。女と目が合う。  「いらっしゃい、さあ早くお入り。もうすぐ演奏が始まります

CLYDE WAS HERE 前編

 私は夢を見ていた。闇の中をただひたすら歩く夢を。  自分がどこに向かっているのか判らぬまま進み続けた。この世界はやけに静かだ。だんだんと自分以外誰もいない様な心持ちになっていく。一歩、歩みを進めるごとに重たい不安が背中に伸し掛かっていく。進まぬ身体と止まりたくないという思いが交差する。それがしばらくの間続いた。そして、とうとう私の真ん中から「バキッ」という音が鳴った。途端に歩みが止まり、その場に座り込んで少しの間泣いた。  どれだけの時間が経ったのだろう。泣きはらした顔

全人類同時滅亡宣言

 「日本時刻、午前3時。全世界同時地球滅亡宣言が出されました。国民の皆様、残りの時間を有意義にお過ごし下さい。繰り返します。日本時刻、ごぜ・・・」  ラジオもテレビも壊れたおもちゃみたいに同じことを繰り返している。  もう、どこの国も混乱状態だ。    暗闇の中。カーテンを開ければ、深夜だというのに車が渋滞を起こしている。       近くのコンビニがボヤ騒ぎ。  大勢いの人が叫んでいる。  SNSも不安な気持ちがスマホから漏れ出て来そうなくらい深刻な状態になっていた