シクラメンはかおる?かほる? 花の名は。Vol.5
「シクラメンのかほり」は1975年の大ヒット曲。同年の日本レコード大賞に輝いています。その曲が火付け役となりシクラメンは冬の鉢花として不動の地位を獲得。1990年代から小型で寒さに強いガーデンシクラメンが登場し冬を彩る花の代表格として現在に至ります。
明治期の植物学者や園芸業者は渡来した植物に対し、実にこまめに日本語の和名をつけています。近年になるほど、学名や英語名をカタカナ表記しただけで和名としているケースが多くなります。親しみやすく覚えやすいのは日本語のはず・・。シクラメンは? 学名のカタカナ表記です。歌の力は偉大です。
シクラメンの和名は2つあります。東京大学植物学教室に籍があった2人の学者が名付けています。最初はブタノマンジュウ。命名者は大久保三郎博士。英語名のsow bread(雌豚のパン)を意訳したとのこと。丸く地表に顔を出している球根(塊茎)を、実際にブタが食するのかは不明。
もう1つ後から付けられた和名はカガリビバナ(篝火花)。かの牧野富太郎博士の命名です。美しい花にブタノマンジュウでは可哀そうだから、という話ですが・・・。牧野富太郎博士の命名(和名)と言えば!
イヌノフグリ、ヘクソカズラ!! おっと。これらはいずれも誤情報、濡れ衣です。牧野博士以前の図譜などにイヌノフグリ、ヘクソカズラとも、その名の記載が確認されています。ただし近縁の外来種にオオイヌノフグリと名付けたのは牧野博士のようです。酷いネーミングといえばハキダメギク。ですが牧野博士の意図は「掃き溜めに鶴」のイメージ、あながち酷いとも言えません。
話を戻しましょう。ブタノマンジュウ改めカガリビバナ。定着しませんでした。現在ではどちらも別名の扱いですがほぼ死後です。花の名前の蘊蓄(本稿のような)に登場するのみです。
意味不明な横文字がしっかり定着したシクラメン。語源はギリシア語で「回転する」「丸い」を意味するキクロス。英語のサイクルやサークルの語源と同じです。シクラメンは花が散った後、まっすぐだった花茎が下方向に曲がり、らせん状になります。その形状から名付けられた説が有力。
シクラメンに香りはあるのか、という話題もよく出てきます。原種のシクラメンには良い悪いは別として香りがありました。品種改良の過程で花が大きく、たくさん咲くようになりながら香りのことは忘れられ、概ね香らない花になりました。最近改めて原種の香りから良いものを選抜交配するなど、香りシクラメンと名打っている品種がいくつか出てきています。
これほどまでに現実の花に対して影響を及ぼした大ヒット曲。「シクラメンのかほり」の表記も物議の対象です。「香り」は現代仮名表記で「かおり」。歴史的仮名遣いで「かをり」。「かほり」は? 平安時代末期に藤原定家が示した定家版仮名遣いにある、とされますが。その時点で「かほり」は誤りだったとか。
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