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月曜マガジン 肱川街道写真紀行

肱川の秋冬の風物詩「肱川あらし」

 肱川流域の冬、早春とはいえ2月の大洲盆地の朝はめっぽう冷える。四国の地図を見ると全長約103kmの肱川が見事に北西に向かって流れ出ているのが分かる。秋から冬にかけて大洲盆地を包み込む冷え込みと雲海、そして河口に向かって流れ降る「肱川あらし」は、この地域の地形と肱川の向きが要因とされる自然現象だ。北西の季節風は夜のうちに肱川を遡り大洲盆地に溜まる。そして夜明けが近づくと河口へ向けて流れ始め、河面から立ち昇る蒸気霧を巻き上げながら伊予灘へ扇状に広がっていく壮大な物語だ。

めっぽう冷え込む2月の早朝

 2月ともなれば冷え込みも絶好調。冷え込みが厳しく寒暖の差がそれほどなくなり放射冷却現象が起きることから盆地に放射霧の溜まる回数が減る。こうして肱川あらしの出番はなくなっていくのだ。
 本州内陸部や北国ほどの冷え込みではないが、毎年この時期になると積雪に見舞われる。薄らなどというレベルではないので驚かれる方々も多い。夜明け前からの撮影に出るのは良いのだが、心臓をやっている私はしっかりと暖房対策をしておかなければ持たない。それでも突撃撮影に出かける位に魅せられている。今年の2月のこと、大洲城本丸のこの大欅の切り株が大霜を被って白く固まっている様子は、悲壮感すら漂い私たちに何かを語りかけているようだった。

荒れる肱川河口付近の綱掛岩

 大洲盆地の淵に陣取る1000mクラスの山々を交わしながら475本もの支流を抱え込んで伊予灘へと降る肱川は、遙か遠い昔から私たちの祖先の暮らしを守り命を育み続けてきている「聖なる河」だ。そこから生まれたこの城下町と歴史、そして私たちの暮らしと文化は「はじめてなのに懐かしい」と思わせるだけの素晴らしいポテンシャルを持っている。そう感じていただけるだけの写真がいつかは撮れるようになりたいと、シャッターを切る度に気持ちを込めている。
 写真から感じていただける物語は、本にしたためられている物語と同じで読み手の心を捉え行動を引き起こすだけの何かが必要だと常々考えている。ただ単に綺麗に撮れれば良いというようなことではなく、大切なことは他にある。現役で写真を撮らせていただいている間に、果たしてこの「何か」を探し当てることができるかどうか・・・3月からも頑張る。

鉄道が走る城下町大洲の駅

3月もどうぞよろしくお願いします。
街づくり写真家 河野達郎

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