『前略、殺し屋カフェで働くことになりました。』二巻 あとがき

【二巻の内容のネタバレが含まれますので、読了後に読むことをおススメします。】

どうもみなさんこんにちは。竹内佑です。
『前略、殺し屋カフェで働くことになりました。』二巻をお読みいただきましてありがとうございます。

というわけで二巻のあとがきですが、ご覧のとおり、小説の最後にではなくて、インターネット上に存在することとなりました。
一体なぜあとがきがネット上に存在することになってしまったのか?
この疑問の答えは実は実に明確かつ簡素でして、
あとがきのページを確保できなかったから。
これのみになります。

俺は普段から「あとがき書くの苦手だよ~だって何書いたらいいかわかんないよ~」と駄々をこねていましたので、担当さんが気を使ってくれたのでしょう、「そんなに嫌なんだったらページ確保しときませんから。やったじゃん」とギリギリのギリギリまで物語を詰め込んでくれたのですが、いざあとがきが無いなら無いで、「え、ちょっとあとがき書きたいかも」とポツリと担当さんに漏らす始末。しかも目線は外しながら。手を後ろで組んだ状態で。
小石をつま先でコツンと蹴って。

どの口が言うのか。

勿論全部俺が悪いんです。
そもそもですね、一番初めに初稿書き上げた後に送信したところ、担当さんから「書きすぎなんでカットしなくちゃいけないです。100ページくらい」と宣告されてるんですよね。
そんで二人して真っ青になりながらなんとかカットしておいて、「あとがきのページがない」なんて言う作家は社会不適合者です。竹内佑=社会不適合者です。証明終わり。

というわけで、限りある資源を大切に! 紙でのあとがきは存在しなくなりましたが、インターネット上ならページ数を気にすることなく無限にあとがきを書いていい、ということでこの度ネット上でのあとがきが爆誕したというわけです。こんにちは!

言い訳終わり。

さて二巻ですが、本来の予定では元々春姫のエピソードを書くつもりでいたのですが、担当さんによる紙魚子激推しムーブにより、紙魚子の話を先に書くことになりました。
今思えばこれは正解だったと思います。
何故なら春姫は人気がないからです。かわいそうな子。

で、紙魚子の話を書くはいいけれど、紙魚子の得意分野をパソコンに設定してしまっていたため、パソコン使って活躍する話を考えなくてはいけない状態になりました。

パソコン使って活躍……ネットオークションがすごく得意とか?
駄目だそんな話。地味すぎる。

一巻を読んでいただいた方ならわかってもらえると思うのですが、紙魚子はハッキングを得意としている、という設定にしてしまっていたため、紙魚子メインの話を書くのであれば当然、ハッキングにまつわることを書くのが正解です。
しかし俺にはそんな知識はゼロに近い。
ゼロに近いなりになんとかプロットを書き上げ、担当さんに送信したところ、「大体良いのでは。じゃ、締め切り守って書き始めちゃってください」と返信が来たので、一安心したのですが。

待て、と。

担当さんはあくまで、物語の筋書きにゴーサインを出したに過ぎず、ハッキングの内容については作家の力量に任さられているのではないか。
で、あれば、ハッキングについての知識がゼロに近い俺が書いたところで、とんでもなく異常なハッキングシーンができてしまうのではないか?
という気付きを得たのです。

例えるなら、外科手術がどういうものか知らない(調べてもいない)ものが書いた手術シーンが、
「メス」
「汗」
「メス」
「汗」
「先生、心音が下がっています」
「頑張ろう。ところで、メス」
「もう一個、別のメス」
「……手術は成功だ」
こんな感じになってしまうのと同じ。何、「頑張ろう」って。

これはいけない。
取材だ。取材をせねば。
まず何から始めればいい?

知識の泉、町の本屋さんへログインします。
よい子のハッキング入門 きそ編
みたいな本をくれ!
ところがそんな本は存在しないので、適当に一冊、素人でもわかるかな? みたいな本を見つけて購入します。しました。

それを読みながら、ふんふんへー、こんな犯罪が世界では行われたのか! などと知識を得たのですが、いまいち身になっているかが怪しい。
ですが、本を読む前と呼んだ後では流石にハッキング界隈で飛び出す単語についての知識は得ることができました。おめでとう、自分。

と、ここまでの段階で書き始めることもできたのですが、この『前略、殺し屋カフェで働くことになりました。』のシリーズは、2019年の日本を舞台にしているため、「よくわかんない部分はファンタジーで」という逃げ方ができないのです。
Q.クソ!誰だ!こんな設定にした奴は!
A.俺。
完全包囲網の完成です。もう逃げられんぞ、俺。

自分自身の限界に向き合った俺は、ここでようやく、他者の力を借りることを選択します。
助けて、誰か!
そういう風なメッセージをSNS上に発したところ、優しい人々が、「ハッキングについてお話をしてあげるよ」と仰ってくれましたので、本当に人間は優しい。俺ももっと人間に優しくなっていこう……

そして昨年末、ハッキング界隈のプロとあってご飯を食べる段取りが成立したところ、忘年会という時期も重なって大変ありがたいことにプロが凡そ十人弱集結しました。
迎え撃つは素人の俺一人のみ!
会は大変楽しく、皆さんとてもいい人たちばかりで、最高に楽しかったです。
で、そこで、自分が二巻のために考えたプロットを話して、「果たしてこんなことは現実に可能なのか?」という質問をしていくことに……
結果。
本を読んで訂正したそのプロットすら、「メス」「汗」手術シーンと大差ないことがわかりました。

あぶっねえ~

というか、根本的な考え方がわかってなかったんですよ、俺は。
「ハッキングって、なんかこう、暗い部屋で何台もパソコン走らせながら、カタカタキーボード打って『よし、かの国の機密データを盗むことに成功したぞ』ッターン! みたいなあれでしょ?」
という範囲から何も抜け出されてなかったことが大変よくわかりました。

ハッキングは、技術ではなく、思考に基づくものである。

そこを理解しないと、暗い部屋で何台もパソコンを走らせる必要性がないわけです。ていうか、電気つけた方がいいよね、普通に、目にも。

ハッキングの目的によって、自分が身に着けるべき技術も変わってくるのであって、パソコンを何台も走らせる必要があるのかどうか、も変わってくるのです。
必要もないのに同時に何台も操っていたら馬鹿です。

そういう馬鹿に紙魚子をさせてしまうところだった。

この辺りはすごくメカラウロコ(イエモン)で、二巻のテーマにもずいぶん深く関わりました。

読んだ方ならわかっていただけると思うのですが、枯井戸が幕間で技術技術言ってるシーンとか亞十の過去を語るシーンがそれになります。

あ、意図的に脱線しますが、幕間の枯井戸の独白は、実はもともと丸まる一章分くらいの容量があり、枯井戸が過去に受けた児童虐待シーンや、枯井戸視点による詳細な人物殺害シーンが40ページほど書かれていました。
全部カットしました。
読んでて気分のいいものでは無いので当然です。ていうか書くな、そういうシーンを。

意図的に戻ります。
ハッキングについての基礎の基礎を理解した(つもり)の俺は、プロットを全直しし始めますね。
でもですよ、当初担当さんからオッケーもらったプロットからすごく変えるのは駄目なわけです。当たり前。
なので、物語の大きな筋はなるべくいじらずに、細かなデティールを変えていく、という作業に入り始めます。

次に俺が知識の泉こと本屋さんに出かけた時、新たに今の自分に必要な本を購入していきますよね。
その中には弁護士さんが買うような過去のサイバー犯罪に関する判決一覧が載っているような専門書も購入している始末です。本当に必要かこれ?
ええい迷うな。書き始めたらいざ、何が必要になるかわからんし、欲しいものはネットに全て転がっているわけではないのだ。

で、えっちらおっちら書きながら、読み直してみると――専門用語ばかりを、紙魚子と主人公の迅太が会話している原稿が出来上がっていることに気づくのです。

背筋が冷えるとはまさにこのことだと思いましたよね。

誰が読んで面白いと思うんだこれ。

弁護士さんですら「参考にもならねえ」と判断するぞ。

全消し。

怒りの全消しですよ。あぶねえパート2。
専門家でもないのに、専門知識をちょっと齧っちゃったが故に、「少しでも正確にしないと!」と拗らせた結果、エンタメ性がゼロに。

俺はライトノベルを書いているんだ。
もう一度。
俺はライトノベルを書いているんだぞ!

はーい、専門的な用語は全消しでーす。
という、全消し脳のスキルを得たことにより、同時に得たものがあります。

暗い部屋で同時に何台ものパソコン走らせながらハッキングしてんの、最高にクールな画面じゃね?

と、いう、エンタメだからいいじゃん脳です。

まわりまわってきました。
ふりだしに戻ったかと思いきや、一度ゴール寸前まで至った人物によるふりだし感覚なので、これはまあ、記憶を保った状態での二周目人生に近いかもしれないですね。

と、いうわけで今回は、
ハッキング素人作家がガバガバハッキング描写をしてみようと思ったけれど、頑張って取材した結果、ガバガバハッキング描写に落ち着きました。
みたいなタイトルが、お似合いな作品です。

というか、二巻が完成したのでハッキング界隈のプロたちに「またご飯食べましょう!」とメッセージ送っているけれど、正直、読んだ彼らがどう思うか超不安です。
「こいつなんも理解してねえ」
とか思われたらどうしよう。
その可能性も高いし。

で、まあ、その上でうんたらかんたら設定とプロットをこねくり回した結果、締め切りを大幅に過ぎてしまい、あとがきにページを割くこともできず、ネット上でこんにちは! しているわけなんです。

結論。締め切りを大幅にオーバーした俺が悪い。

すみませんでした。

あと、二巻を書くために買ったたくさんの資料本、全部領収書切ってない!
イエーイおわり。

というわけであとがき終わりです。

謝辞。

担当の小山さん。
締め切り超過した上にページ数超過してすみませんでした。タイトな状況下でのスマートなご指摘ありがとうございました。助けられております。

イラストのイセ川さん。
可愛い紙魚子のイラスト、ありがとうございました。
風蘭のイラストも、お願いしていたのに俺が締め切り間に合わずですみませんでした。

そして毎回、読者の皆様。
殺し屋カフェの世界を愛でてくださり、本当に感謝です。
次も出せれたら良いと思っていますが、売り上げ次第です。本当にありがとうございます。
では。

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