西荻窪の話
こないだ妻と西荻窪まで歩いて行き、そこでネットで評判の高かったカレー屋さん(というかインド料理屋さん)で昼食を採ることにした。
休日のお昼頃ということもあり、お店の前には列ができている。
並んでまで食べたいということはこれはもう相当に美味しいのに違いない! と、期待に胸を膨らませて妻と並ぶことにする。
で、行列の中で待つ間というのは以外とやることがないもので、妻と二人で「Aランチだとカレーの種類が選べないけれど、Bランチだと選べるらしいよ!」とか、「ラッシーとチャイが選べるけれどどっちにする? 俺はアイスチャイかな」という会話を済ませてしまうと、殆どやることがなくなってしまった。
すると今度は周りの人たちの会話が耳に飛び込んでくる。
良い天気だね、とか、明日は何をしよう? とか、お昼はカレーだけど夜は何を食べようか? と言った平和な会話が聞こえてくる。
もちろん中には、政治に問題がある、とか、テロは怖いからやだ、とか、老後はどうしよう? といった平和でない会話も、たまたま聞こえてこなかっただけであったかもしれない。
だが、その時、俺の耳に飛び込んできたのは、真後ろに並ぶ人の声であった。
男性と女性、そして小さい女の子のそのグループはおそらく家族で間違いないと思うのだが、その主人であろう男性が、妻であろう女性にこんなことを話し始めたのだ。
「なんでこんなに西荻に人が多いの?」
普段から西荻窪に住んでいるのだろう。
そして休日の昼間に家族でカレーを食べようと外出し、いつもより多い人の数に驚いた。
そして出た言葉なのだと思う。
普段はいない人たちがこの日、西荻に集まっている。
そんな異変を感じ、西荻にもし何かあったら自分が守らねばならない! そんな決意がこもった一言であったかもしれない。
女性が答える。
「なんか、今日、公園でイベントやってるみたいだよ」
その通りで、妻と俺は正にそのイベントへ足を運んでいる途中に腹ごしらえをしようと企んでいたのだ。
すると男性は、
「西荻をそんなに盛り上げなくて良いと思いまーす」
と発言した。
そうなのか?
それが西荻に住んでいる人たちの総意なのだろうか?
だとしたら「西荻が盛り上がってるらしいぜ」という情報を得て訪れ、彼らの目の前に並んでいる俺たち夫婦はもはや、外敵に近い存在なのかもしれない。
西荻が盛り上がってるから来た、とバレてはいけない。
そのことが気になって仕方のなくなった俺は、カレーのことなどどうでも良くなり、妻が一言たりとも「本当に西荻が盛り上がっているね」と発言しないことを祈るのみであった。
だが妻は空腹がピークで元気がなくなり無口になっていたので助かった。
カレーが本当に美味しくて辛かったので、幸せな気分になることが出来たが、西荻が盛り上がってるこに不満を持つのならせめて、休日にネットで評判の高いカレー屋さんに並ぶのは控えてみてはどうだろう? とも思うのであった。
そんなことを考えながらイベントを楽しみ、吉祥寺に戻ると休日なのでものすごい人だかりで、心底うんざりした。
吉祥寺こんなに盛り上げなくて良いのに!
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