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恋…ではない、淡い青春

高校2年生の冬。僕は同好会が終わったあと、いつも通り同好会の部室的な場所で残っていた。
僕が入っていた同好会は英語関係の同好会で、その日は私の他にクラスの女子が二人残って、顧問のALTの先生と談笑をしていた。ALTの先生はFF、特に7が好きな人だったので以後クラウドと呼ぶことにする。
クラウド先生とは僕も仲が良く、よくゲームの話をしていたので、度々クラウド先生は私にも話を振ってくれて、女子たちとも間接的にだが話すことができた。

葛藤

クラウド先生が退勤時間になって部室を出たあと、僕は悶々としていた。
というのも、その女子二人は一方は度々僕に話しかけてくれることがあったり、一方は講習で私と一緒になる機会も多かったりと僕にとっては接点の多い女子で、「友達になりたい」と常に思っていた。
さて、女子と呼ぶのもいい加減気が引けるので名前で呼ぶことにしよう。一方はクラスのマドンナ的存在で、私の推しアイドルであるLE SSERAFIMの宮脇咲良に似ている人だったので宮脇さん(仮名)としよう。(この記事のサムネは宮脇咲良である)
一方はとても優しく包容力のある人なので、僕がめちゃくちゃ優しそうな響きがする名前だなぁ、だと思っている鞍馬祢音(『仮面ライダーギーツ』より)からとって祢音(ねおん)さん(仮名)としよう。
クラウド先生が退勤した後、祢音さんは私に「そういえば、YamaTOってインスタ始めたんだよね?」と聴いてきた。いきなり話しかけられてちょっとした喜びを噛み締めながらも、僕は頷いた。
宮脇さんが「そうなの?」と聴くと、祢音さんは「オススメ欄に出てきた」と言った。この瞬間の僕の心境は嬉しさやら、緊張やらが色々混ざり合ってわけがわからないものだった。
僕はその後「インスタを交換しようと言うか言わないか」で数十分悩み続け、気づけば時計は15時半にまでなっていた。

決意


「もう悩んでいてもしょうがないだろう、当たって砕けろ精神で行かなきゃ卒業まで後悔する」と決心した僕は、立ち上がって祢音さんのところまで歩いていって
「あの、い、インスタ、交換しない…?」と赤面症持ち陰キャ特有のボソボソボイスをふんだんに用いた。
すると、祢音さんは「いいよ」と優しく言ってくれて、インスタを交換した。その後、祢音さんが宮脇さんに「咲良も交換しないの?」と言ってくれて、宮脇さんともインスタを交換できた。自分にとって初めての女子友達と言っていい。
インスタ交換の後、祢音さんは「うちらの他に交換したい女子いる?」と聴いてきて、僕はその後二人で映画を観に行くことになるジャニオタの女子友達と、片想い相手の名前を答えた。
…よくよく考えたらそんなことまで聴いてくれて、今までろくに話してもいないただ同じクラスで同じ同好会なだけの男子がインスタを交換したい女子に根回ししてくれるなんてどれだけいい人なのだろうか。

言葉

その後、祢音さんは僕がBTSが好きなことを知っていて、祢音さんも宮脇さんもARMYだったのでBTSの話を振ってくれて、僕と祢音さんの推しメンバーのジンについて語り合ったりした。
K-POPの話なんて話せる人が今までいなかったので僕は本当に嬉しくて、そのときは根っからの笑顔になっていた気がする。
祢音さんはゲーマーでもあって、僕とゲームの話をしてくれたりもした。優しいお姉さんと話しているような感覚だった。
話している最中に、宮脇さんは「そういえば、なんでうちらとインスタ交換しようと思ったの?」と聴いてきた。それに僕は恥ずかしがりながらも「その、友達になりたかったから…」と答えると、祢音さんが「え?うちもう友達だと思ってた」と言った。その後宮脇さんは「まあ人によって基準違うし」と僕をフォロー(?)してくれた。
いわゆる陽キャに属する人間は壁が薄いため、友達の判断基準が低いのも当たり前なのだが、それでも当時の僕にとってはその発言は衝撃的だった。
小学校は発達障害の誤診の影響で特別支援学級に入ったり、中学校は色々あったり、母親から「あんたみたいなクズに彼女なんかできるわけない」と言われたりと、悉く異性との関わりに関して全く自信がなかった僕にとっては、ただクラスと同好会が一緒なだけで「友達」と認めてくれることに胸が締め付けられそうな思いをした。
明確に自分のことを「友達」と口にしてくれたのは祢音さんが初めてだし、僕の発言のフォローをすかさずしてくれた宮脇さんの優しさとも相まって「この二人ともっと仲良くなりたい」という思いがさらに強まった。

恋愛

K-POPやゲームの話をしたあと、宮脇さんが「何の話しよう…あ、恋バナする?」と言って、祢音さんが「おお!!いいね!!」と一気に盛り上がった感じになった。
祢音さんは「YamaTOは好きな人いるの?」と聴いてくる。僕が顔を赤くしながら頷くと、二人は「誰?誰?」と好奇心旺盛に聴いてくる。
僕が片想い相手の名前を口にすると、二人はめちゃくちゃ驚いていた。
片想い相手は一年生の頃に同じクラスで同じ係、その上同じ同好会だった。その人もとても優しい人で、プリントを先生に出しに行くときに僕に話しかけたりしてくれていた。
「え、それ考えたら今までの同好会めっちゃドキドキしない!?」と祢音さんと宮脇さんは盛り上がっていた。
僕が「でも、女子との接し方わからないからどうアタックしていいのかわからなくて」と言うと、祢音さんは「…あー。サポートしてほしい?」と聴いてきたので、僕は驚きながら頷いた。
結局僕は一回もアタックできなかったのでサポートもなかったが。

友情

時は経って一年半後。今月、丁度僕たちは卒業を迎えた。
あの日以降、祢音さんと宮脇さんとは実際に話すこともそこまでなく、インスタのDMで話すにしても本当に稀だったりして、関わりが全然ないまま卒業を迎えた。
祢音さんにはインスタのDMで度々あっちから話しかけてきたり、僕が相談したりしたこともあったが。

あの日の後、学校で二人に話しかけていたら。

僕が抱いていた感情は確実に恋心ではないものの、針が進むことがないであろう、発展させることのできた友情というのは心にかなりの傷を与えた。
卒業後に…なんて心を切り替えればよかったのだが、宮脇さんは海外進学してしまう。

話した回数は少ないし、学校での関わりも薄い。
けれども、僕の心の中では三年間朝から夜まで学校で時間を過ごした親友や片想い相手よりも、宮脇さんと祢音さんの方が心に深く刻み込まれた。

これは僕の想像も含まれる話だが、卒業式の後、僕の隣に片想い相手がいるという状況に遇った。片想い相手は僕と小中高12年間同じだった友達の卒業アルバムに寄せ書きを書いていた。
僕はそれを横目に、自分が行動できないことを悔いてまた大粒の涙を流していた。
そしてクラスには祢音さんと宮脇さんも残っていたのだが、宮脇さんが僕の方を指さして、なにか祢音さんに言っていて、心配そうにこちらを見ていた。

僕の想像が正しいのであれば、宮脇さんと祢音さんは、僕のことをまだ気にかけてくれていた。

その瞬間に僕は心のなかで「ああ、自分が欲していたのは恋じゃなくて友情なんだ」と思った。
異性との友情というのは実に不思議なもので、同性の友達には話せない悩みというものを打ち明けやすい関係性だ。僕は異性との友情にかなり心を救われた思い出がある。

恋心ではなく、なんでも打ち明けられるような友情を求めていた淡い青春。

この記事を読んでいる高校生の諸君は、一度異性を恋愛対象としてではなく、友情を育む相手としても見つめ直してほしい。


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