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#39 - 鑑賞録(2023年1月)

三月に入ってしまった。最近Strip Jointのライブに来ていただいた方、知っていただいた方、ありがとうございます。ボーカルの岸岡です。

ときどき鑑賞した本や映画の記録と感想を残していこうという趣旨のこのシリーズ、二回目となる今回は、一月に読んだ本のうち、二冊について書こうと思う。一穂ミチ『光のとこにいてね』とジェームズ・ボールドウィン『ジョヴァンニの部屋』という二冊だ。ともに同性どうしの愛を扱う小説である。かたいし長い文章になってしまったので、ご興味ある方だけ読んでいただければ幸いだ。

『光のとこにいてね』はつい最近出たばかりの本である。幼い頃から強い絆で結ばれた二人の女性の物語で、小学生から大人になるまでの長い時間が描かれる。互いにとって相手はかけがえのない特別な存在なのだが、同性であることもあり、形のある恋愛関係に発展はしない。小説後半で二人は大人になり、それぞれに結婚する。

社会的な事象もきちんと描きつつ、焦点は二人の関係の美しさのような部分にある。そうはいっても、同性どうしの関係のありかた、家父長的な男性像への批判、子どもへの親の抑圧の現実など、いまの日本のリアルが如実に表れている。それをどちらかというと商業的な方面の小説がさっくりと扱えるということに、時代の変化を感じることもやはり事実である。個人的には、今後の日本が、同性同士がともに過ごす、生きるという可能性にもより開かれていけば良いなと思う。

それでも、二人だけの閉じた関係を描く物語であって、対・社会規範の物語ではない以上、別に「シスターフッド」という言葉を持ち出すような小説ではない、というふうに作者の方もインタビューに答えていた。どちらかというと「推し」の世界っぽい(個人的によくわからない感覚)。よって、主人公の葛藤や成長が描かれるわけでもない。十年以上の時を越えて物語を追うのは少し長すぎるように感じた。だが特に前半の子どもの視ている世界を描く鋭さはすごいなと思う。

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