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#32 - 「Consolation - Eccy Remix」配信開始にあたり――KiliKiliVilla与田・Strip Joint 岸岡・Magazine石川対談

本日1月25日より配信が開始されたStrip Jointのニューシングル「Consolation - Eccy Remix」。1stアルバム収録の「Consolation」を換骨奪胎したリミックス楽曲であり、ラップが乗ることを想定して作られたビートが単体でリリースされる形態となっています。
制作はレーベル〈KiliKiliVilla〉の与田さん、リミックスは、与田さんとかねてより繋がりのあるビートメーカーのEccyさん。アートワークはアルバムに引き続きYokkeさんに担当していただいています。
今回、この制作の背景について伝えるため、KiliKiliVilla与田さん、Magazineの石川くん、そして僕、Strip Joint岸岡の三者で対談を行いました。その模様をお届けします。


「Consolation」に宿る時代感覚


フォーマットじゃなくて、伝えたいものが先に来てて、そこに何かが宿ってる、そういう感覚

https://youtu.be/r34DAlOsC2c


与田 
なぜ俺がStrip Jointのアルバムを出したいと思ったか、というところから話すと繋がると思うんだけど。ライブを見て、とてもユニークなことをやってるし、音楽としてもすごく良かったんで、〈KiliKiliVilla〉から出しませんか、という話になった。既にずいぶん活動していたから、アルバム『Give Me Liberty』は基本的に、今までの活動の総括のアルバムだと思う。だけど、現場のプロデューサーとしては、「Consolation」と「Liquid」が本当にヒットだった。この二曲をリリースしたいというのが大きな動機としてあった。〈KiliKiliVilla〉も傍から見ると、普通にロックのインディーレベルに見えると思うんだけど、むしろ、そういうカテゴリーを関係なしに、自分がリアルと思える音楽を出したいっていうのが大きなテーマなので。「Consolation」と「Liquid」に関して言えば、もう本当にこれは何か特別なものが宿ってるなっていう感覚があったので、まず「それを形にしたい」から入って。当時…というか、今でもそうなんだけど、インディ・ロックとかギター・ポップとか、そういうカテゴリーであまり音楽を聴いてなくて。もちろんそういうものは好きだけど、ダンス・ミュージックやクラブ・ミュージック、いろんなものを聴く中で、カテゴリーを飛び越えていくものがたぶん一番面白いし、いい音楽なんだろうな、っていうのがある。そういう感覚の中で、その二曲が自分の中でとても大きな意味を持っていた。〈KiliKiliVilla〉から出たことによって結果的にはインディ・ロックっぽい見え方してると思うけど、むしろ、もっと何か特別なものが宿ってるような音楽であってほしい、そういうものにできるんじゃないかなっていうのが、一番初めの動機でした。レコーディングしたの去年(2022年)の春3月ぐらいだよね。

岸岡 そうですね。

与田 その当時からJustin Bieber『Justice』にすごいハマって、ポップ・ミュージックというよりはむしろ、時代を掬い上げてしまってる音楽として聴いていて。それと同じような感覚が「Consolation」にあるような気がした。James Blake的なモダンなポップ・ミュージックでもあり、アンダーグラウンドなダンスカルチャーから出てきた、現代的なバラードみたいなものになるんじゃないかな、と思って。ミックス作業をやっている時に、エンジニアがボーカルにオートチューンをかけたバージョンを作ってきて。それを聴いた時に、これは特別な響き方するんじゃないか、と思って、ラッパーを入れたいと思ったんですよ。まだラッパーが見つかっていないんだけど。Eccyっていう、もう十五年くらい前に俺がやってたヒップホップのレーベルで中心にいたビートメーカーに頼んだら、めちゃくちゃいいのが上がってきたので、一旦このままでリリースしようと。

岸岡 Eccyさんは、はじめは引き受けるかどうかは分からないけど、とりあえず、みたいな感じで、結局引き受けてくださったみたいな話でしたっけ。

与田 彼は自分が気に入らないと、あんまり乗ってやらないんだけど、今回はすごいハマってて。ちょっと特別な響き…。この感覚はロック、ヒップホップどちらかだけの人にはあんまり伝わらないかも。そういう意味ではジャンルは飛び越えられるかもしれない。日本の音楽好きって文脈から聞く人が多いので、そこをクリアできるかどうか分からないんだけど。ただ出来上がりはものすごい良いものになってると思うし、トライしてみたいと。

岸岡 作り手としての質問してもいいですか。 「Consolation」って曲は、すでにリリースしていて、元はポストパンクな曲じゃないですか。あれは実は、The xx「Dangerous」みたいな曲をバンドでやりたいと思って作ったんですよ。そしたら全然バンドの力量が足りず、スマートな感じにならなくて、無骨なポストパンクになってしまって…。それを作り直した曲なんですよね。作り直すときに参考にしたのはaikoなんですが。「えりあし」のコード進行で好きなところをちょっと借りたりして。そういう節操の無さが俺の特徴だと思ってるんですけど、「Consolation」の面白いところはそういうところだと思いますか?

Consolation - EP (2018)


与田 いや、俺は勝手に自分で解釈してるから、どういう流れで作られたかはあまり気にしてなくて。ただ例えば、「Give Me Liberty」の他の曲は明らかにフォーマットがあって、その上で曲を作ってるでしょ。いわば「ロック」という。意識しないでやってるんだろうけど。「Liqiud」と「Consolation」、「Oxygen」あたりは、フォーマットじゃなくて、伝えたいものが先に来てて、そこに何かが宿ってる、そういう感覚はした。何が下敷きになって、ということを気にせず聴いた時に、これはすごい特別な感じがするなっていう。だから、俺自身がプロデューサーとしてアルバム作りたいと思ったきっかけではある。

与田さんとFEVERの楽屋にて。photo sekido



リミックスという方法論


曲の芯の部分は変えずに別のアレンジで別の魅力を引き出すっていうのがリミックスの大きな目的で。今回は作品としては確実に成功してると思うし、「Consolation」の持ってるシリアスさを深めたかった


石川
 リミックスを作り手から独立してレーベルが作るということは、結構あることなんですか?

与田 俺は90年代後半以降ダンスシーンに長くいて、リミックスというのが一つの文化・方法論として当たり前にあるから何の違和感もない。でもロックしか聴かない人にとっては不思議に思う人がいるだろうとは思ってる。曲の芯の部分は変えずに別のアレンジで別の魅力を引き出すっていうのがリミックスの大きな目的で。今回は作品としては確実に成功してると思うし、「Consolation」の持ってるシリアスさを深めたかった。しかも日常的にロックを聴いてる人よりも、ヒップホップとかビート系の音楽を聞いてる人の方がたぶん多いだろうから、Spotifyとかでプレイリストに入って、Strip Jointのことを全く何も知らない人が聞いた時に、この曲かっこいいじゃん、って思うんじゃないかな。狙いはそこです。

石川 岸岡としては、自分の手から離れて、新しく生まれ変わるというのはどういう感覚?

岸岡 それこそStone RosesとかHappy Mondaysもリミックスがあるじゃないですか。それに、個人的には、00年代・10年代のインディ・ロックで、フランスのキツネ(Kitsune)っていうレーベルがダンスミュージックとインディ・ロックの架橋みたいなことをしていて、そこが出してたリミックスとか好きだったこともあるし、リミックスはいつでも歓迎です。


photo sekido

与田 Eccyとは付き合いも長いし、信頼しているビートメーカーなので、彼なら特別な響きを加えてくれるんじゃないか、という意味でも成功したと思う。あとは、プレイリストカルチャーが今ものすごく力を持ってるので、そういうところでどういう反応を引き起こせるか、っていう部分で、いい企画だと思う。彼にパラデータを渡したらすぐ来て、一応ミックスはこっちでやろうかな、と思ってたんだけど、絶妙なバランスで。ローが歪みっぽくなるところも今風でかっこいいし、だったらもうこのままでいいかなって本人にも確認したら、「全然自分的には満足してるんで」って。もしラッパーが決まってラップが乗ったら、杉本さん(アルバム制作時にお世話になったエンジニアの方)にミックスはしてもらおうと思ってんだよね。ただし、ラッパーがまだ決まってないというね(笑)。

石川 候補はいるんですか。

与田 色々難航して。俺としては世代の感覚を入れたいっていうのがあって、岸岡くんと同世代、二十代のラッパーにやってほしいと思って。二十代のラッパーに知り合いがいないから、いろんなラッパーをチェックして、ハマる人がいればなと思ったんだけど、あんまりいなくて。

石川 関わり合いがない、今まで話したこともないラッパーに連絡するみたいなことはあり得るんですか?

与田 俺はそういうことは全然平気な方だし、大体、ひとり挟めば繋がったりするんで。でも自分としてはそこまでして頼みたいっていう人がまだいない。岸岡くんと同じ世代に、今の世の中を眺めて、そこで捉えてる感覚をシリアスなラップで載せてほしいっていうのがあって。Justin Bieber「Justice」の場合、現在の狂ってしまったアメリカ社会を糾弾するわけじゃなく、何か救いを求めるわけでもなく、ただ目の前に起きてることを眺めてるだけなんだけど、それが異様なほどリアルな感情を伝えてくる感じがあって。そういうものにしたいから、自然な形で今の社会を描写してくれるような人がいないかなっていうふうに思ってて。例えば二十年前のShing02みたいなタッチの人がいたら最高なんだけど。やっぱり今の日本でラップやってる人たちって、みんなもうやんちゃな感じが強すぎて、もう少しリリカルな表現をしてほしいっていうか、自分が知らないだけだと思うけど、イメージ通りの人にはなかなか出会えない。

岸岡 ナチュラルな感じはちょっと欲しいですよね。

石川 他の曲をリミックスする予定はありますか?

与田 実は「Liquid」はリミックスを作ろうと思ってずっとやってたんだけど、まだこれだというのが出来てない。テンポ的にダンスビートにするのが難しい曲なんで。良さを崩さず、別の方面から光を当てるっていうのが、なかなかできないかな。今のバージョンのパターンが正解だっていうことでもあるんだけど。

岸岡 遊び甲斐のある曲が二曲もできたのなら、アルバムを作って良かったです。

与田 いやいや、素晴らしいよ。自分が本当にやられるようなものを出さないとレーベルなんて意味がないから、そういう意味で『Give Me Liberty』は去年のリリースの中でも意味合いとしては大きかったですよ。

岸岡 今年も新しくいい曲書きたいと思います。

photo sekido

今後の制作の展望


与田 じゃあさ。岸岡くんがさ、昨日上げてた曲あるじゃん。曲としてすごいいいんだけど、やっぱり歌詞が日本語になった時に、曲と歌詞が分離して聞こえるんだよね。ま、仮の歌詞なんだろうなって思いながら。

岸岡 いや、本気でやってました(笑)。

与田 失礼(笑)。

石川 どうして日本語の歌詞を書き始めたの?

岸岡 えっと…英語をあんまりわかってないオーディエンスに向かって英語で歌い続けるのがきつい。

与田 そうだよね。

岸岡 あと、英語でやることによって海外の人にも聴いてもらおう、と思ってきたけど、別にそういうものでもないってことが分かってきたということもある。日本語でやってたとしても、海外の人が聴いて意味を調べたり、色々と感じてくれたりっていうのは全然ありうるから。でも一番は、やっぱり表現力の限界というか、かっこつけているだけで言いたいことに辿り着かない感じみたいなのを自分で感じてヤキモキするというか。ちゃんと言いたいことを考えるというのをもっと突き詰めたかった。それでいざ書いてみると、本当に陳腐なことしか書けない自分に気づいたりするんだけど。

与田 そうだね。でも必要なことだとは思う。まだ岸岡くんの中で、日本語での言葉のセンス、感覚を試行錯誤してるのは分かる。もう少し作る上でのポイントが掴めたら進み出すような気はするんだけど、今のところ俺には曲と歌詞が分離して聞こえてしまうから。

石川 今まで歌詞を書いてた時は、日本語を作ってから英語にしていた?それとも初めから英語で?

岸岡 初めから英語。言葉の載せ方のフォーマット、つまり、ここでこういうリズムの音が欲しい、みたいなのに合わせて言葉を選んでいく感じ。でも普段ものを考えるときは日本語だから、日本語で書いて英語に直すときもある。

与田 英語の場合は、演奏のアレンジによって、自分たちがどのカテゴリーにいて、どういう音楽が好きだ、というのを伝えることができるけど、これが日本語になった瞬間にすごく曖昧になっていくというか。そこの難しさはあるよね。

岸岡 日本語の音楽の場合、歌詞がカテゴリーを決めるみたいなところもあると思います。

与田 むしろカテゴリーがなくなる。どんなにかっこいいUKロックっぽいアレンジをしてても、日本語の音楽になった時に、そういうものではなくなるから。だから歌詞も曲もそうだけど、自分の何かが宿るというか、これが掴めたなと思う感覚を、岸岡くん自身が持つことが結構大事な気がするね。そういう感覚が掴めるまで試行錯誤だね。

岸岡 はい。


リリース情報

Strip Joint new single
Consolation - Eccy Remix

2023年1月25日より配信開始


編集後記(岸岡)


photo sekido

そうなんです。最近、日本語で曲を作る試みをしています。

引き続き、Strip Joint magazineでは様々な情報を発信していきます。皆で、何を作りたいか、どういうものが面白いか、どういうものが求められているか、マガジンとはどういうものであるべきか日々議論し、試行錯誤しています。

僕自身としては、まずは自分たちのことを発信する場として、あるいは、もっと広く、関わってくれる人の表現の場としてとか、もっと一般的なテーマに触れるような場にもしていきたいと思っています。100円の有料記事と無料記事の双方が併存するという形は当面変更の予定はありません。

あくまでStrip Jointはバンドであり、音楽を作り、演奏することが主な仕事です。しかし、本当の意味で、自分たちのことを知ってもらう努力をきちんとしていきたいし、それが表現者としての仕事の一部だとも思っています。そういう意味で、マガジンはバンドのただの余興だとは思っていません。そして、これが音楽制作とトレードオフの関係になるのではなく、双方が相乗効果を生むような形になるようにしないといけないと考えています。

バンドとしては音楽制作により一層打ち込みつつ、そのプロセスをマガジンを通して見せたり、メンバーのオフの姿も見せることで、マガジンを応援することとは、イコール、バンドを応援することになる、そういうふうに捉えてもらえるようにしていかないといけないと思っています。

今年もいろんなかたちで人と関わり、出会うのを楽しみにしています。今年のStrip Jointの活動もどうぞ応援よろしくお願いいたします。


Strip Joint 1st album「Give Me Liberty」発売中
2022年9月21日リリース
配信・CD・カセットテープにて発売中

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