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#57 - Ry - 新しい太陽 レビュー

 こんにちは、岸岡です。今日は先日リリースされたアルバム、Ry『新しい太陽』のレビューを書かせていただきました。ぜひお読みください。


 ニューヨークで2000年代に活躍し、先日再結成を果たしたThe Walkmenというバンドがいる。知的な抑制に野生的な粗暴さを兼ね備えた魅力的なバンドである。『新しい太陽』と名付けられたRyの作品を聴いてまず思い出したのは彼らのことだった。二者に共通すること。それは、歌にこめられた圧倒的な切実さ。そして牧歌的であることにある種失敗した音楽であること──とでも言ってみようか。

 インタビューにおいて「風景が見えて、牧歌的な音楽がすごくやりたいなと思って」と語っていたように、Ryの音楽には、柔らかな日の光や、季節の変化を胎動する大地の地鳴りにも似た牧歌的な響きがある。そこからはルーツ・ミュージックへの素直な憧憬と、複雑すぎる現代の時代性から逃避し、数百年、いや数千年続く悠久の命の息遣いを辿っていきたいという思いが感じ取れる。

 フォークやカントリー、アメリカーナといったルーツ・ミュージックの要素に対して、ニューウェイヴやシューゲイズのモードが同居することである種の逃避と理想郷を描き出したり、時にアブストラクトなアレンジによって現代的な身体の不協和を表現したり、といった要素を取ってみると、The NationalやDaughter、あるいはBon IverといったUSインディ・ロック/インディ・フォークのバンドたちからの影響や同時代性が感じられる。3曲目「BIG LOVE」はまさにThe Nationalを思わせるイントロから疾走してゆくインディロックチューン。9曲目「NewEra」ではエレクトロニック・ミュージックに接近し、オーガニックでありながら違和感も生みだし、東京のバンドPot-Pourriを想起させる。

 Ryのサウンドスケープの鮮烈さは、慎重な懐疑の果てに言葉を紡ぐアート・ロックのコンテクストよりもむしろ、衒いなく強烈なエモーションを描き出すエモ/ポストロックの影響下にあることも顕著で、Sigur LosやDeafheavenといったバンドも思い出させる。フォーキーなアコースティックギターや、民謡を思わせる力強さのボーカルが持っている生々しくプリミティヴな手触りはそのままに、それを極限まで鮮烈なほうへ反転させ、変容させていく音楽。そんなふうに聴こえる。THE NOVEMBERSという稀有な先駆と比較してみてもいいだろう。

 そうした反転や変容のことを端的に示す言葉があるだろうか。たぶん、何か適切な言い方はあるのだと思うけれど、ここで勝手に名付けてみる──「ソラリゼーション」。芸術家マン・レイは、過度の露光によってイメージ上で白と黒が反転する効果が得られる現象を偶発的に発見し、ソラリゼーションと名付けて自身の作品に用いた。ソラリゼーションを起こしたポートレートにおいて、柔らかいはずの女性の輪郭は、金属的な硬さを持ったイメージに変容する。

 ここでアルバム『新しい太陽』のアートワークをもう一度見てみよう。急峻な山岳の連なる荒野。空には橙色の太陽が浮かぶ。そこに爆発的な光をもたらす「新しい太陽」が誕生する、その瞬間。

 そこは「君も誰もいない世界」(「Life Force」)。その世界でRyは「きれいなみず のこってるの?」(「いきもの」)と呟く──そう、『新しい太陽』とはそう牧歌的なタイトルではなく、人間の手による巨大な惨禍──核爆発が象徴するような──のことなのかもしれない。フォーキーなサウンドを鮮烈なサウンドスケープに転化、変容させ、強烈な光に焼き付けられたような轟音によってオーガニックな手触りを異化してゆく、そうした「ソラリゼーション的な」イメージによってRyが描き出しているのは、都市から自然への逃避というよりむしろ、ポスト・アポカリプス的な世界──核戦争後を思わせる終末世界なのではないだろうか。

 アコースティックギター、バイオリン、トランペット、ドラムの清廉な重なり、切実で力強い中性的な歌声、そして圧倒的な轟音。静と動を自由に行き来するサウンドスケープのすみずみに行き渡る想像力はしかしメランコリーに絡め取られることなく、Ryは傲慢な人々が作り上げた街と世界から力強く飛翔し、既存のバウンダリーを鮮やかに越境する。


【ディスク情報】
Ry『新しい太陽』
Release Date:2023.07.12
Label:KiliKiliVilla
収録曲
1. New Sun
2. Solar Dance
3. BIG LOVE
4. こどものちから
5. Life Force
6. Hell Bell
7. いきもの
8. GIFT
9. NewEra
10. ひとり
11. ふるさと

【ライブ情報】
KKV presents Ry『新しい太陽』発売記念ライブ
9月2日(土)下北沢THREE
open 18:30 start 19:00
出演:Ry、Strip Joint、WOOMAN
前売 3,000円+1D 当日 3,500円+1D

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アルバム発売記念ライブのゲストはStrip Jointと3年ぶりのライブ活動を新体制で再開するWOOMANの出演が決定!

Ry-ライ-
Terutaka Aritomiが結成したロックバンド。フォーク、ロック、ニューエイジ等を軸に普遍的でありながら新しいロックの形を提示し、ジャンルを超えてリスナーから高い評価を得ている。2015年10月『Ry 1st EP』を、2019年4月には録音・ミックスにツバメスタジオの君島結を迎え1st Album『just passing through』をリリース。
 現在は、ドラムにROTH BART BARONでの活動を終えた中原鉄也をサポートに迎え、新体制での活動を行っている。


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