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ランナーに対する簡便な評価について

最近は、ウエイトトレーニングに注目している持久系アスリートも増加傾向にあり、特にランナーの方からウエイトトレーニング指導に関する問い合わせが増えていますが、単発(1回限り)での指導依頼が多く非常に残念に感じています。

なぜなら、ウエイトトレーニングに限らずではありますが、1回の介入でウエイトトレーニングの効果が出る訳ではありませんし、また、「1回指導を受けた後はご自身でウエイトトレーニングを継続する」という考えをお持ちのランナーも多いのですが、当方が指導しているフリーウエイトを用いたウエイトトレーニングに関しては1回取り組んだだけで習得出来るものではなく、仮にご自身でウエイトトレーニングを継続しても非効率で効果的ではないといえるからです。

しかしながら、ウエイトトレーニングに取り組もうと考えているランナーの想いに少しでもお応え出来るよう単発での指導依頼に対しては、ランニング動作で特にフォーカスすべき点について簡単な(筋力)評価を行い状況に応じてマシンでのウエイトトレーニング等に関するアドバイス、提案を行うようにしています。

●ランナーに対する簡単な(筋力)評価

当方が、単発指導等においてフォーカスしているのが股関節外転筋群を中心とする殿筋群の(筋力)評価です。

ランニング動作には、必ず「コンタクト相(支持局面)」と呼ばれる片脚で体重を支えるフェーズ(局面)がありますが、このコンタクト相で最も重要なポイントになるのが、片脚で体重を支える能力、具体的には骨盤を安定させるために必要とされる中殿筋や小殿筋(股関節外転筋群)の適切な筋力であるといえます。

ランニング動作における「コンタクト相」、つまり片脚で体重を支える局面で支持脚の股関節外転筋群は、骨盤を安定させ体幹部を垂直に保つために働いているのですが、股関節外転筋群の筋力が不十分であると、支持脚の反対側の骨盤(殿部)が下方に落ち込む状態が生じ体幹部を垂直に保つことが出来なくなってしまうのです。

そしてこの時、支持脚の股関節外転筋群の働きを補い、胴体(体幹部)を垂直に保つために身体の様々な部位が不適切に働いてしまうのですが、(このような、ある動きを補おうとする動作を「代償動作」と呼びます)それが体幹部のブレや「腕振り」の乱れを伴う非効率なランニングフォームとなって現れ、結果としてランニングパフォーマンスの低下やランニング障害を引き起こすことになります。

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参考:
上掲のランナーの場合、左脚接地時の骨盤支持が不十分であり、右の殿部が下方に落ちてしまっている状態を上半身を左に傾けることで補おうとしています。

こうした無駄な動き(上半身を傾ける動き)は当然、無駄なエネルギーを消費することになりランニングパフォーマンスに影響を及ぼすと共に、骨盤支持が不十分な状態での接地動作の繰り返しは膝関節の障害を引き起こす可能性があるといえます。(多くの先行研究によって中殿筋の筋力低下が膝関節の傷害・障害の原因になることが報告されていることから考えれば歴然であるといえるでしょう。)

近年は体幹トレーニングブームの影響か、体幹部が安定していないことがランニングフォームの乱れにつながりランニングパフォーマンスの低下やランニング障害の原因であるといわれ、体幹部の筋力が注目されていますが、意外にも、この股関節外転筋群(中殿筋、小殿筋)の筋力については、あまりクローズアップされていません。

どんなに体幹部の筋力が高くても股関節外転筋群の筋力が低下し骨盤を安定させることが出来ない状態では、体幹部の乱れが生じてしまうといっても過言ではないのです。

これらのことから、記録向上を目指しランニング障害を予防するために股関節外転筋群の筋力強化は不可欠であり、まずは何より股関節外転筋群の筋力の評価をする必要があると考えています。

また、片脚での骨盤を支持する役割を担っているのは股関節外転筋群だけではなく、股関節外転筋群以外の殿筋群も関与(後述)していますので、股関節外転筋群のみならず総合的な殿筋群の評価が必要であると考えます。

●評価1:簡便な股関節外転筋群の骨盤支持能力評価(筋力評価)

当方がランナーに対する殿筋群の簡単な筋力評価として、まず最初に実施しているのが「Tテスト」と呼ばれる片脚立ちテストであり、このテストでは主として股関節外転筋群の骨盤支持能力を評価しています。

Tテストは「トレンデレンブルグ症候」を評価するために理学療法の現場において用いられているテストですが、トレンデレンブルグ症候とは、先天性股関節脱臼、中殿筋麻痺などに伴う中殿筋機能不全によって患側肢で片脚立ちした際に、健側(反対脚側)の骨盤が下がる状態のことを指します。

トレンデレンブルグ症候がみられると歩行時において「跛行(はこう):脚を引きずる動き」がみられることがしられていますが、股関節脱臼といった整形外科的疾患がみられなくとも中殿筋の筋力が低下している人も多く、中殿筋の筋力が低下していると跛行とまではいかないものの歩行時に代償動作がみられるケースもあり、それはランニング時にも同様であるといえます。

これらのことから、ランナーに対してまずは片脚立ちをしてもらい股関節外転筋群の骨盤支持能力の確認、評価を行います。(評価ポイント等は下図参照)

●評価2:簡便で総合的な殿筋群の骨盤支持能力(筋力評価)

Tテストによって特に課題が見受けられない場合は、「ダイナミックTテストに」よって殿筋群の総合的な骨盤支持能力の評価を行います。

ダイナミックTテストは片脚立ちの状態から股関節、膝関節の軽度屈曲、伸展動作を繰り返し、その動作中における殿筋群の骨盤支持能力を評価する方法ですが、Tテストより多くの情報を得ることが可能になると考えられます。

なぜなら、Tテストは静的な状態で骨盤支持に関与する股関節外転筋群の能力を評価するテストであるのに対し、ダイナミックTテストは動的な状態で骨盤支持に関与する様々な殿筋(群)の能力を評価することが出来るからです。(骨盤支持能力に関連する筋は中殿筋ばかりではなく股関節の屈曲角度によって関与する殿筋が異なります:下図参照)

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図:股関節屈曲角度と骨盤支持(丹羽らを元に作図)

ダイナミックTテストにおいて殿筋群の骨盤支持能力の低下がみられる場合、Tテスト同様に遊脚側の骨盤(殿部)が下方に下がりますが、殿筋群の総合的な骨盤支持能力が低下していると片脚で自らの体重を支える度合いが大きくなる動作(例えば、階段を上がる動作やランニング動作)中に代償動作がみられることが推定されることから、ランニング動作中の骨盤支持能力を評価する上では、ダイナミックTテストがより重要になると考えられます。

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図:Tテスト・ダイナミックTテストの評価ポイント等

当方は、ランナーに対して(特に単発での指導依頼に対して)このような簡便な評価に基づき状況に応じたウエイトトレーニングのアドバイス、提案を行なっています。

ちなみにですが、時間的都合や金銭的都合、地理的都合によってウエイトトレーニング指導が受けられないのであるならば、少なくとも中殿筋の筋力強化は不可欠として公共トレーニング施設等で「ヒップアブダクション」というマシーン(下記参照)を使って中殿筋の筋力強化を図ることをお勧めしています。

尚、中殿筋の運動は自体重によるものやエクササイズバンドを用いるもの等、多くの運動が存在しますが、自体重やエクササイズバンドを用いた運動では、いずれ運動強度の漸増に頭打ちが生じることになることから、漸進性過負荷の原則に基づくために上述したマシーンによる運動を紹介、お勧めするようにしています。


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