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13 一罪の一部起訴

第1 設問(1)
1 まず、本件では売却による横領(刑法252条1項)行為に先立つ、抵当権設定による横領を起訴していない。かかる一部起訴も事案の軽重・立証の難易等諸般の事情を考慮したもので、刑事訴訟法(以下、略)248条より許される。
 では、そのため、本件における訴因は売当行為による横領であるが、その訴因外の事実である抵当権設定行為による横領行為を主張できるか。
(1)当事者主義的訴訟構造の下、現行法は訴因制度を用いて訴訟物の構成を訴追官である検察官に委ねており(247条参照)、又、検察官には起訴猶予の裁量も認めている(248条)。
 そして、訴因とは、罪となるべき事実の記載であると解される。また、訴因の趣旨は、審判対象を画定し、裁判所が他の事実から識別して審理を開始・進行できるようにした点にあり、その裏返しとしてその限度で防御範囲を明示し、被告人の不意打ちを防止する点にある。
 そのため、被告人が訴因に記載された犯罪事実の成立を否定するために訴因外の事実を主張した場合に裁判所がその事実を審理の対象とすることは、それが訴因記載の犯罪事実の成否を判断するための審理である以上、許される。
(2)本件では抵当権設定による横領をもって、その後の売却による横領を不可罰的事後行為であると主張している。しかし、抵当権設定による横領後の売却による横領は共罰的事後行為であり、被告人が訴因に記載された犯罪事実の成立を否定するために訴因外の事実を主張したとはいえない。
2 よって、訴因外の事実をもって横領行為を主張することはできず、裁判所も審理判断することはできない。
第2 設問(2)
1 本件では強姦罪を暴行罪によって起訴していない。かかる起訴は親告罪の趣旨に反しないか。このような公訴提起は不適法・無効な起訴として、公訴棄却(338条4号)すべきか問題となる。
(1)当事者主義的訴訟構造の下、現行法は訴因制度を用いて訴訟物の構成を訴追官である検察官に委ねており(247条参照)、又、検察官には起訴猶予の裁量も認めている(248条)。
(2)この点、暴行・脅迫にとどまる強姦未遂罪も親告罪(180条1項)とされていることからして、暴行のみを起訴する場合にも、親告罪の趣旨は妥当するとも思える。
 しかし、公判での事実が明らかになり、被害者の名誉が害されているのに、公訴を棄却して被告人の罪を問わないのは妥当でない。
 そのため、この場合、訴因外の姦淫の事実は訴因事実の成否とは無関係なので審理の対象とすべきでないと解する。
2 そのため、本件でも暴行が強姦罪の一部であることを審理判断すべきでない。
以上

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