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20 自白の証拠能力(1)

1 「自白」とは、自己の犯罪事実を認める旨の被告人の供述をいうところ、本件のXの供述は、自己の犯人性を肯定できるものであるから、「自白」に該当する。もっとも、かかる自白は警察官Kによる「事実を認めたら、俺がうまく検事に話して確実に不起訴にしてやるから」という申し向けを受けてなされたものであるが、「任意にされたものでない疑のある自白」(憲法38条2項、刑事訴訟法(以下、略)319条1項)にあたり、自白の証拠能力が否定されないか。
(1)そもそも、自白法則(憲法38条2項、法319条1項)の趣旨は、不任意自白は類型的に虚偽の恐れがあり、かかる自白をあらかじめ排除することで、誤判防止を図った点にある。
 そうだとすれば、「任意にされたものでない疑いのある自白」に当たるか否かは、①類型的に虚偽の自白を誘発する危険が高いと認められる外部的要因、②それにより心理的強制を受けた結果としてなされた自白があったかによって判断すべきである。
(2)本件で、不起訴を約束したのは、警察官Kである。確かに、警察官に起訴権限はない(247、248 条)。しかし、法律の素人である一般人がそれを知ることは少なく、特に本件のように「うまく検事に話して」などと言われた場合には、警察官にも起訴につき一定の権限があるものと信じてしまうのが通常である。
 そして、その中で提示されたのは、不起訴である。不起訴は被疑者にとって最大の利益であり、本件では「検事に話して確実に」と具体的かつ確実性があるかのように話し、それを直接・明示的に持ちかけ、自白を促している。
 当時、Xは逮捕から15日目まで勾留されており、その身体的・精神的疲労は相当であったといえる。その中でかかる不起訴の約束の提示は、真実に反していてもかかる状態から解放され、楽になりたいと感じるものであることは容易に想像でき、類型的に虚偽の供述を行う状況下行われたものである(①)。また、Xは逮捕当初から勾留15日目まで一貫して現金の授受を否認していたところ、Kからの働きかけを受けてすぐに上記自白を行なっていることから、Kによる約束がXの自白に影響を与えたということができる(②)。
2 よって、以上から、本件Xの自白は、「任意にされたものでない疑いのある自白」にあたり、自白の証拠能力は否定される。
以上

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