2 職務質問・所持品検査

1 K及びLの各職務執行は適法か。警察官職務執行法(以下、警職法)2条1項の規定に基づく職務質問を行うため停止させる方法として必要かつ相当な行為であるか問題となる。
2(1)まず、本件においてXとYは薬物密売の外国人が出没する通りを歩行していたところ、警察官の姿を見て急に向きを変えて、もと来た道を急足で戻り始めたことから、「異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者」と言える。
(2)そして、職務質問は、その性質は行政警察活動であるが、これにより嫌疑が具体化するなどして捜査活動たる司法警察活動へと発展することが少なくない。また、警職法2条3項は強制処分を禁じる趣旨と解されるから、行政警察活動であっても、「強制の処分」(197条1項但書)にわたることは許されない。
ア そのため、強制処分を禁じる警職法2条3項及び警察比例原則(同法1条2項)に照らし、「停止」行為(同法2条1項)は、①強制にわたらず、かつ、②職務質問及びこれを行うための停止行為の必要性、緊急性、個人の法益と公共の利益との権衡などを考慮して具体的状況のもとで相当と認められる限度において許容されると解する。
イ(ア)右手をつかんだ行為
 本件で、右手を掴むことによりXはその移動が制約されているため、 Xの意思に反しているといえる。しかし、Kの行為の態様は力を入れたというほどではなく、 あくまで右手を掴んだものにすぎず、 Xに注意を促す程度の有形力の行使にすぎない以上、Xは手を振り払って移動ができ、 移動の自由に実質的な制約があったとは含えない。 よって、 強制にわたるものとは言えない(①)。
 次に、本件で、Xは薬物密売の外国人が出役する通りで、制服姿のKとLを見た瞬間、 急に向きを変えて、もと来た道を急ぎ足で戻り始めており、覚せい剤使用の嫌疑が強い。 薬物密売は摘発が困難であるから、真相解明の端緒が再度ある可能性は高い。また、覚醒剤事件は社会問題になっている重大な事件である。
 その中で, 本件Xは急ぎ足で去ろうとしており, 掴むことで停止させる必要性があり、検挙が困難な犯罪であることから直ちに行う緊急性もあった。以上から、停止行為をすべき必要性、 緊急性が高い。
 一方、本件ではXの被侵害利益については、少し揺んだにすぎず、害された移動の自由は経微なものである。
 そのため,具体的状況下で相当といえる(②)。
 よって、右手を掴んだ行為については、「停止」行為として必要かつ相当といえ、適法である。
(イ) 手錠をかけた行為
 まず、手錠をかけることは、, Xが拒否していることから意思に反している。そして、手節錠は短時間ではずされているから、 移動の自由に実質的な制約はないようにも思えるが、手錠をかけられると、 Xは手のみならず、 その他歩いたり、 走ったりする行動も制限されるため、移動の自由に実質的な制約があるといえ、身体に対する制約が認められる。そのため、強制の処分にあたり、①が認められない。
 よって、「停止」行為として、必要かつ相当な範囲を超え、違法である。
(ウ)ポーチの中に手を差し入れた行為
 本件では、ポーチの中という秘匿性が強い場所に、手を差し入れている以上、Yの意思に反することは明らかであって、プライバシー権という憲法33条、35条の保護に準じるような権利に対する制約が認められ、 捜索に当たる。そのため、①が認められない。
 よって、ポーチの中に手を差し入れた行為は、違法となる。
以上

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