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19 類似事実証拠排除法則

1 裁判所は、被告人の自認する4件の犯罪事実を、他の6件の器物損壊について被告人と犯人の同一性の推認に用いることができるか。前科・前歴を含む類似事実をいかに取り扱うべきか問題となる。
(1)そもそも、類似事実も1つの事実であり、類似事実証拠は、一般的には犯罪事実について、動機や機会、同一性といった様々な面で証拠としての自然的関連性を有している。もっとも、類似事実証拠は、被告人の犯罪性向といった実証的根拠の乏しい人格評価につながりやすく、そのために事実認定を誤らせるおそれがあるだけでなく、かかる人格評価を回避し、同種類似事実の証明力を合理的な推論の範囲に限定するため、当事者が前科の内容に立ち入った攻撃防御を行う必要が生じるなど、取調べに付随して争点が拡散するおそれがある。
 そこで、類似事実証拠は上記のような実証的根拠の乏しい人格評価によって誤った事実認定に至るおそれがないと認められる場合にのみ証拠として許容されると解する。そのような場合として、具体的には、①類似事実に係る犯罪事実が顕著な特徴を有し、かつ、②それが起訴に係る犯罪事実と相当程度類似することから、被告人の犯人性を合理的に推認させるようなものである場合が挙げられる。
(2)本件での被告人に対する被疑事実はいずれも、平成26年7月下旬から8月下旬にかけて、午後9時ころから午後10時ころまでの間に鎌倉市内の海岸沿いの高級マンションの駐車場に駐車中のベンツの右または左の後輪タイヤを千枚通し様の刃物を制してパンクさせ、ボンネットをナイフ様の刃物で「Z」状に傷つけるというものであった。
 かかる事実は、他の車種でなく殊更ベンツを狙った犯行であって、更にそのタイヤをパンクさせた上で、ボンネット上を「Z」状に傷つけるというものであったことから、顕著な特徴を有しているといえる(①)。また、一連の被疑事実は同時期に、全て鎌倉市内の海岸沿いの高級マンションの駐車場で行われているものである。そのため、起訴にかかる事実と相当程度類似しているといえる(②)。
2 よって、以上から本件で、類似事実証拠は実証的根拠に乏しい人格評価につながることはないと考えられるので、類似事実を犯人の同一性の推認に用いることができる。
以上

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