四半期報告書の廃止に伴う財務部門への影響

「金融商品取引法等の一部を改正する法律」の成立

2023 年 11 月 20 日、「金融商品取引法等の一部を改正する法律」(以下、「改正金商法」という)が成立しました。これにより、2024年4月1日以降開始する事業年度から、四半期報告書が廃止されることになりました。
「改正金商法」の成立による上場会社の財務部門への影響について、私見をまとめてみました。

半期報告書の提出

第2四半期においては、従来の四半期報告書に変えて半期報告書の提出が義務付けられました。金融庁提出の「金融商品取引法等の一部を改正する法律案 説明資料」によると、見直し後の半期報告書については『現行の第2四半期報告書と同程度の記載内容』とされています。現行の45日以内の提出期限の変更はないようなので、第2四半期の報告書提出については財務部門への影響はなさそうです。
なお、開示内容は今後内閣府令の改正の可能性があるので、念のための注視は必要でしょうか。さすがに、四半期報告書制度導入前の半期報告書や銀行等の特定事業会社の半期報告書と同程度の記載を求めるということにならないと思いますが、『開示内容の充実』の目的で徐々にページ数が増えていくなんてことにならないといいのですが・・・・・。

第1及び第3四半期の業績開示

第1及び第3四半期の四半期報告書の業績開示については、四半期報告書の提出は廃止され四半期決算短信に一本化されています。
開示内容は取引所規則によることになりますが、「四半期開示の見直しに関する実務の方針」によると四半期報告書で開示されていた事項のうち、『投資家の要望が特に強い事項を四半期決算短信に追加し、開示を義務付け』るとともに、『投資家ニーズに応じた自発的な開示』を求められています。

まず、『義務付けられた開示』ですが、「キャッシュ・フローに関する注記」と「セグメント情報等の注記」の2つです。なお、「キャッシュ・フローに関する注記」は四半期決算短信でキャッシュ・フロー計算書を省略する場合のみの義務付けです。
それによる財務部門への影響を考察すると、「キャッシュ・フローに関する注記」については、減価償却費やのれん償却額の開示のため連結財務諸表作成の過程で集計できる数字を転記するだけで大きな影響はなしと思われます。
一方、「セグメント情報等の注記」の作成は一定の影響はあると思われます。四半期報告書は45日以内の提出義務があり、四半期決算短信には提出期限はないものの四半期報告書の1週間前くらいに提出するのが一般的でした。そのため、四半期報告書に開示情報を集計していた「セグメント情報等の注記」を従来のスケジュールで四半期決算短信の提出を行う場合、作成期限短縮による影響は相応にあると思われます。

次に、『自発的な開示』ですが、こちらは任意開示なので個々の企業の状況に応じて変わってくるでしょう。
開示項目は、どの企業でも俎上に上がりそうなのがキャッシュ・フロー計算書で、有価証券投資が重要であれば金融商品・有価証券・デリバティブと、財務部門にとっては作業負荷が重い開示が多そうです。
何を任意開示とするとしても真面目に考えれば考えるほど、上述の作成期限の短縮と相まって財務部門にとっての影響は相応にあると思います。

四半期決算短信のレビュー

四半期決算短信の会計監査人によるレビューについては、財務情報の信頼性の確保等の観点からレビュー義務付けを求める意見もありました。
しかし、速報性等の観点から、原則義務付けを不要することとされ、レビューの有無を四半期決算短信において開示することになっています。
なお、会計不正が発生した等の一定の場合には監査人によるレビューが義務付けられています。

レビューを受けるかどうかは任意ですが、仮に受けなかった場合に第2四半期の半期報告書の監査中に第1四半期決算短信の記載誤りを発見されるような事態を想定すると、とりあえず受けておこうと考える経営者は多いのかなと想定されます。
四半期決算短信の月内開示を想定した場合には、『自発的な開示』の追加の作業負荷に加えて、それらに対する監査人対応を行うとなると財務部門への影響は大きいと思います。
経営者は他社動向も気にしていると思うので、報道機関やコンサルティングファーム等が実施・公表するであろうアンケート結果は注視したいです。

監査報酬

損益計算書に費用計上している監査報酬ですが、来期の監査報酬は下がらないと想定します。
まずは、四半期決算短信のレビューを実施しない場合でも各四半期の財務内容にかかる監査・レビュー手続きを実施することから、工数である監査・レビュー対応時間には大きな影響がないと思われるためです。詳細に見積もりを検証した際には、開示書類検証、レビュー報告書発行、審査対応等の対応時間は下がるのですが、この時間は全体の対応時間からは極めて僅少です。
その一方で、今年も時間単価を上げたいと提案されるものと想定されます。我々の会社と同様、監査法人も人手不足です。監査法人では退職防止の観点から、競合であるコンサルティングファーム等に近い給与体系とするための給与改定を実施しています。そのため、給与改定の影響から時間単価を上げたいと考えると想定します。
監査・レビュー対応時間は若干の減少傾向であるもののほぼ横ばい、時間単価は上昇の結果、来期の監査報酬見積もりは上がると思います。報酬交渉の結果、やや上昇または横ばいと思います。
財務部門としては、この点についても事前に経営者に上げておくのが実は重要かもしれません。「レビューがなくなる」イコール「監査報酬が減る」と思うのが一般的ですから。

最後に

「四半期報告書の廃止に伴う財務部門への影響」について、初めてNoteを書きました。乱筆・乱文、失礼します。これからも、財務・経理部門について、気になることを記載したいと思うので、ご意見(ここをこうした方がいいとか、こういうことを書いてほしいとか)ありましたら、よろしくお願いいたします。


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