見出し画像

・『plenty』/ plenty

・plenty

茨城県で結成された3ピースバンド(2004-2017)
傑出した作品を絶えず生み出し、Vo.江沼の艶やかなハイトーンと抒情的な歌詞。12年にリリースされた『plenty』ではそれが高次元で結実している。

構成は以下の通り
Vocal&Guitar 江沼郁弥
Bass 新田紀彰
Drums 中村一太

セルフタイトルアルバム『plenty(2012)』 を聴く-

画像1


・収録曲

1.はじまりの吟
イントロに相応しいタイトルと短尺。硬質なリフと控えめな展開。ノイジーなエフェクトがかけられた声で淡々と。低体温での内なる熱の予感、#2へと紡がれる。

2.普通の生活
#2普通の生活。上京した時分にずいぶんとよく聞いた。ひどくハードルの高いものとなった''普通''を唄う。冷たくも確実な熱量が次第に明らかになる。

3.待ち合わせの途中
'11年にリリースされた3曲入りシングル(待ち合わせの途中/終わりのない何処かへ/空が笑ってる)からの一曲。
初期のplentyの魅力が綺麗に詰め込まれ、キャッチーなメロディと、彼らの存在を上に押し上げるに足る曲であろう。
幼く未完成にも感じられる江沼さんの慟哭ともとれるハイトーンは衝撃だ。


4.人との距離のはかりかた
''11年にリリースされた3曲入りシングル(人との距離のはかりかた/最近どうなの?/人間そっくり)からの一曲。スローテンポで展開されVo.江沼の艶やかで伸びのある声が楽しめる。内省的でありながら少年的な前向きさが窺える。


5.おりこうさん
内面を吐き捨てるかのよう歌詞に、ユーモアを交え自分と向き合うかのように達観した印象の曲。ファニーで彼らのポテンシャルを感じられる。

6.人間そっくり
"11年リリースの3曲入りシングル(人との距離のはかりかた/最近どうなの?/人間そっくり)からの一曲。
少年的で達観した声を驚嘆すべきハイトーンで歌いきる。
類をみない高さにもかかわらず、彼の声にはあどけなさと妖艶さが共存する。

7.空が笑ってる
'11年にリリースされた3曲入りシングル(待ち合わせの途中/終わりのない何処かへ/空が笑ってる)からの一曲。
ファンタジー的な歌詞に単純な韻。愛らしく子供のころの無邪気な夢のように優しい。

8.スローモーションピクチャー
楽曲主導で映像作品が付帯した"Sound Film Track"という新しい形態に挑戦した意欲作"11年リリースの「あいという」収録の一曲。
アルバムの中では最も哀愁深く硬質。夜の海や遠くの街灯を彷彿とさせる印象。

9.あいという
上記の形態でリリースされ、初のストリングスを導入したバラード。
Vo.江沼の妖艶さあどけなさは昇華し、神秘的ですらある。
plentyの一つの極地が見られる。激情は鋭利で切ない。


10.砂のよう
今作で最もハードな一曲。未熟な怒りとそれゆえの純粋な怒り。
Vo.江沼のもう一つの魅力であろう。"僕には逆らう意思がある"と正面切って歌う。苦悩を憂うだけにしておかない、アルバム内でも重要な要素の曲であろう。

11.風の吹く町
少年は大人になる。少年と青年の間。回顧的な歌詞にあんなこともあったねと言うように明るくふるまう。言うなればエピローグ的な一曲。
喧噪の夕焼けに似た物憂げな雰囲気は長くは続かず早々に終わりを告げる。

12.蒼き日々
plentyのキャリア最高傑作であろう#12蒼き日々。
少年は未熟さに端を発し妖艶に寒空に羽ばたく。
苦悩に煩悶し、来る夜の全能感を"朝が来るまでは僕だけが正義"と称した江沼は天才であろう。
6分弱の長尺でありながら隙はなく、冬の冷たさに似た柔らかな鋭さで埋め尽くされる。3ピースとは思えないスケール感だ。



・『plenty(2012)』とは

plentyは2017年『蒼き日々』と題し全国を回り、
9月16日 日比谷野外大音楽堂でのラストライブ『拝啓。皆さま』をもって解散した。肌寒い夏の終わりの雨が降り続き、plentyらしい最後だった。
上記でも何度も書いている通り、Vo.江沼の声は、少年期のあどけなさと中性的な妖艶さ、青年期の激情を孕んだ唯一無二のものであった。今作は多彩なアプローチと彼らなりの挑戦が実を結んだ傑作だ。叙情的で、赤裸々で内面を吐露した自然主義的な歌詞。口語的でリアリティのある言葉は一貫して少年の揺れ動く善と悪のようなものを感じる。
ラストツアー『蒼き日々』福岡公演 江沼さんは沈黙する観客に「そんな悲しい顔しなさんな」と優しく言っていた。彼らの強さを感じた。アンコールで歌われた「蒼き日々」はこれまでにく鋭かったし、その日も外には雨が降っていた。



・各リンク

plenty公式HP

江沼郁弥Twitter








この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?