〜ドローン空撮、その黎明期とこれから〜


『なにこのペラいっぱいのヘリコプター⁉︎』


私が最初にドローンに出会ったのは2009年の終わり頃。まだ「ドローン」ではなく、「マルチコプター」が呼び名だった頃です。インターネットでふと見かけた動画。それまで見たことのなかった、プロペラをたくさんつけたラジコンヘリでした。辿っていくとドイツのAscending Technologies社の、ハの字に開いた形状のオクトコプターに行き当たり、そしてその撮影映像を見た時の衝撃!それまでの空撮の概念を覆す、低空からの、けれど明らかに地上からではない浮遊感、けれど安定した映像。今でもそのワクワクした感動を、はっきりと思い出すことができます。

 
当時、その機体の値段は300万円前後。会社で所有していた実機ヘリコプターに比べたら買えない値段ではない。しかし設立直後の航空会社の経営安定の優先度の方が、上。マルチコプター空撮を「いつかやる!」と頭の片隅に置きつつも、手を出せない期間が2年ほど続きました。

『“その時” がやってきた!』



 そして2011年末。自身が設立した航空会社から離れ、フリーの航空写真家に戻った時、その「いつか」がやってきました。

当時のビデオサロン誌ではこう書きましたが、現実は、「自分が作った会社からクビになった」です。
株を売却していたので、経営権、役員の人事権は株主にありましたが、
当時のワタシはそんなこともよくわからずでした。

実機ヘリコプターよりも大幅に安価な機体で飛行も安定し、低空で撮影が出来るマルチコプターの技術を、真っ先に取り入れる決断したのは、自然の流れだったと思います。

 翌2012年にニュージーランドのDroidworx社の14インチオクトコプターにドイツのMikroKopter社のコントローラーを搭載した機体『AD8』と、その練習機の『Gaui300』を導入。『AD8』は今時のドローンと同じく、GPSホバリング技術や自動運航能力のついた機体でしたが、一方の『Gaui300』は「4枚の羽がついていて、飛ぶ」だけのもので、他に楽に飛ばせるようなステキな機能は全く付いてない(笑)。今時の機体では当たり前な、GPSに頼ることが一切できないということは、逆に飛行技術を磨く練習機としては格好の機体でした。

DroidWorx AD-8


フライト調整中のAD8
コテンパンでもう飛ばなくなったgaui 300

 
 マルチコプター空撮の商業化の成功のみが生きていく糧になるものと信じ、暑い日も寒い日も昼も夜も練習場所を探しては飛ばしました。ある時は不注意で想定外の動きをした機体を素手で押さえつけ、腕、指、下顎をざっくりと切ってしまったこともあります。これが、今では考えられないのですが、靖国神社の横の路上でした。(飛ばすつもりはなかったです)
血の滴る顎をタオルで押さえてコンビニに駆け込み、ガーゼとテープ売って!と言った時の店員さんの引きつった顔といったら…(苦笑)。おかげで実機ヘリの事故の怖さの上に、小さなプロペラの威力、怖さも身に染みて知っています。

 そして撮影をしては編集し、動画サイトで発表していきました。今の映像に比べればだいぶ揺れる映像でしたが、それまでにはない空中浮遊感のある低高度の空撮動画は、見る人に新鮮に映ったと思います。

   その後本格的な空撮業務へ投入したのは、DJI社の『S800』と、それに装着された『Z15』というブラシレスジンバルの技術でした。

DJI-S800

 この機体に搭載されていたのは、揺れを感知するセンサーからの信号により、前もって機体の振動や揺れをキャンセルするシステム。ラジコンヘリに搭載できるような低価格の撮影システムとしては、かなり画期的なものでした。

 折しもこの頃、番組「空から日本を見てみよう」がBSで復活。新シリーズが開始されて間もなく、マルチコプター空撮映像も差し込まれる事になり。現在に至るまで、実機ヘリコプター空撮+マルチコプター空撮という、空撮漬けの日々です。
 
『小型ドローン空撮の時代、到来』

 さて、同じ頃。世の中では、DJI社から小型のホビー機『Phantom』が発売され、簡単に飛ばせるというのが謳い文句のマルチコプターが知られるようになりました。続く『Phantom2』 発売からは、趣味としての空撮が流行し始め、エスカレートして繁華街での飛行などの危険行為も問題になってきました。あまりにも簡単に飛ぶため、空を飛ぶ物体を扱うということの基礎知識が足りなくても、安易に業務として空撮を取り入れて売り出そうとする向きも出てきました。その無法状態は、航空法を知る空撮カメラマン兼ヘリパイロットとしては、決して好ましいものではありませんでした。
 軍用無人飛行機を意味していた「ドローン」という呼び名が一般化してきたのもこの頃です。特に首相官邸に機体が落下した事件からは、爆発的に認知されましたね。
 業務用空撮機はそれまで大型化の一途をたどっていましたが、DJI社から小型高性能の『INSPIRE1』が発売され、その後『Phantom3』などの空撮専用の小型機も発売されました。小型でも空撮に特化した設計がなされ、効率的に大型機に迫る撮影が可能になってきました。まさに現在進行中、日進月歩の勢いです。
 それに伴って、無規制無秩序の状態を問題視した国が動き始め、2015年末にはドローン空撮を対象として改正された、新航空法が施行されました。

『ドローン空撮のこれから』

 改正された航空法は、決して甘いものではありません。まず申請するにも、受理されるにも手間と知識と時間が必要で、趣味として個人が気軽に飛ばしてもいい環境は、もう過去のものとなってしまったと言ってもいいでしょう。
 でも私が初めてドローン空撮を見てワクワクした気持ちを覚えているように、趣味でも空撮をしてみたいと思った人たちの気持ちは、よくわかります。新しい業務として取り組んでみよう、と思う人たちがいることも…。だからこそ、きちんと申請をして通るだけの、知識と覚悟を持ってくれたらと願います。避けられる事故を、起こさないために。


ビデオSALON2016年4月号「前略 空からお邪魔します。」掲載
2022年3月加筆修正


 



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