「最後に泣いたのいつ?」

と聞かれたら困ってしまう。

僕は物心ついた頃から泣き虫だった。親や先生に怒られて。クラスの子にいじめられて。逆にクラスの子を泣かせてしまって。
怒る、という感情の出し方を覚えたのは中学の頃だった。それまでは、怒るべき事が起きても泣くことしかできなかった。覚えたてだから怒りながらやっぱり泣いていた。今でも怒ってるときに泣きそうになる。

さすがに今同じくらい泣いてる訳じゃないけど、今でも漫画、アニメ、アイドル、M-1やアナザーストーリーに感動して泣いてしまう。
だけど何か違う気がする。これらは他人に起こった出来事に対して「泣きに行って」流した涙だ。



2019年。たしか2月ぐらいだった。
バイト先で店長と「それは千鳥ノブさんがここでバイトしてたら言いそうですけど!」なんて、超くだらないやりとりをしていたのを覚えている。
ひと段落して店長が言った。

「うち閉店することになったけん」

いつも冗談を言う店長だけど、なんとなくマジだと思った。だいぶヒマな店だし、親会社はあるけどチェーン店じゃないし、周辺の人口もこれから増えていくって時だったからまだ少なかったし。
とにかくすごくショックだった。


月日は流れて、5月31日。完全に閉店する日。
他にシフトが入れる人がいなくて、俺が入った。
最後だからってことで、常連を含む15人ぐらいが団体で来て割と忙しかった。帰る時に、店長に花束を渡していた。
お客さんが帰ってから、もうゆっくり片付けようって事で、本当はダメなんだろうけど、厨房で店長と社員さんとタバコを吸った。社員さんはビールも飲んでたような。笑
そこから片付けて、締め作業を終わらせて、帰ることになった。この時点でちょっとグッと来てたけど泣くまでには至らなかった。
俺は店長に車で送ってもらうことになったから、社員さんとはここでお別れ。
最後に握手をした瞬間、涙が止まらなかった。


人生で初めてのバイトだったこと。
初めてシフトに入った時のこと。
全然仕事ができなかったこと。
怒られた時のこと。
大失恋した時期のこと。
キッチンの人が作ったパフェを5秒後にひっくり返した時のこと。
飯に連れてってもらった時のこと。
誕プレをもらったこと。
ホールだったけどベーカリーも兼任するようになったこと。
ベーカリーのパートさん一同からバレンタインのチョコをもらったこと。
喫煙メンと一緒にタバコを吸ったこと。
握手してる社員さんが初めて店に来た時のこと。
賄いを毎回大盛りで作ってもらったこと。
やっと慣れてきたのに閉店を告げられた時のこと。
俺がもっと仕事ができてたら潰れなかったんじゃないかって密かに思ってたこと。
バイトに行くのがめちゃくちゃ楽しかったこと。


たくさんの思い出が一瞬の間に頭の中を猛ダッシュしている感覚だった。まさに走馬灯だった。

車に乗る時に泣いてる俺に気づいた店長は、笑いながら「泣かんでよ〜、俺も辛いやん」「そんなに泣いてくれてありがとうね」と言ってくれた。
ガチ泣きすると引くほど嗚咽する俺は、喋れなかった。ずっと全力で泣いていた。
家に着いて車を降りる時、声を振り絞って、言いたいことを言えた。

「2年間お世話になりました。ご迷惑たくさんかけたのに、雇ってくださってありがとうございました。お元気で!」

みたいなことを言った気がする。
駅にチャリを置いてたことを忘れてたので歩いて取りに行った。涙も嗚咽も止まってなかったから、すれ違う人に顔を見られないように歩いた。


今の俺の話を聞いたらがっかりされてしまいそうだけど、また会いたいと強く思います。
みんな元気だといいなー。

P.S.
親父が倒れて病院に駆けつけたときも泣いたけど本泣きじゃなかったからノーカンにしてます。

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