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“時” を守り継ぐ、静岡の働く貴族たち。それこそが“ロイヤル” 江本純子インタビュー

ストレンジシード静岡のサポートスタッフ、その名も「わたげ隊」。ストレンジシードってどんなフェス? どんなアーティストが出るの? ということを伝えるべく、地元・静岡を中心に活動するわたげ隊が出演アーティストにインタビューする企画。江本純子さんが登場です。

わたげ隊がゆく!
ストレンジシード静岡2023 アーティストインタビュー
ゲスト:江本純子
聞き手:天野(わたげ隊)

劇をつくる。劇で伝える。

江本純子 昨日まで静岡に滞在していて整理整頓がまだ渦中なので、何を言ってるか分からないかもしれませんが…分からない事があったら、遠慮なく聞いてください!一緒に整理していきましょう。

天野 お願いします!まず、江本さんの自己紹介をお願いしても良いでしょうか?

江本 江本純子と申します。最近「あなたは何をやっているんですか?」って聞かれた時に「劇作家です」って言うことにしてます。2023年1月の段階では「作家です」って答えたんですよ。その後北海道に1ヶ月ぐらい滞在してた経緯があって、自分は「劇作家」なんだって思うようになりました。その「劇作家」っていう事に対してもうちょっと説明を加えさせてもらうと。

天野 はい、お願いします。

江本 やっぱり本を書く人とか、何だろう…劇作家っていうイメージが元々あるんですよね。逆にどうですか?「劇作家」のイメージってどんな感じですか?

天野 そうですね…言葉をなぞるだけですけど、「劇の脚本を作る人」というイメージがあります。

江本 そうですよね。でも、それだとちょっと限定されてるなと思って。今回で言うと出会った地域・人とか、そこで見えるものがいっぱいありますよね、暮らしとか。そこで見えて来たものを思索し、自分の「劇」という形で全てを表現するんです。

天野 なるほど、そういう意味の劇作家。

江本 そうそう。

休む修行と品質の良い集中

天野 江本さんのTwitterも拝見させて頂いたんですけど、「修行」をされていると書かれていたんですが、それはどういう意味なんでしょうか…?

江本 そう!それが今言おうとした事に関連するんですけど、まず説明したいのが、映画や映像も作ってるんですよ、私。でも別に「映像作家」というわけではない。あくまでも演劇の一環なんです。で、「演劇」っていうとまた限定されるから、私が見てきたものを「劇作家」としての表現として、映像を選んでるんです。

天野 アウトプットとしてって事ですかね。

江本 そうですね。で、修行の話に戻ると…。結局、私自身も人生を送っているわけですよ。自分の時間の中で関わっていくもの・見えてきたもの全てが、私という身体を通して世に表現するものがある。それをするっていう事は、何をしていても「あ、これ作品になるな」とか考えちゃうんですよ。それって全然気が休まらないじゃないですか。だから北海道に行った時に「休む修行」っていうのをしてたんです。

天野 おお、なるほど。それは修行ですね!

江本 休まないと結構やっぱり精神的にくるんですよ。だから私が今求めてるのは、「凪」って分かりますか?海の「凪」。

天野 はい。

江本 創作って、エネルギーの波がずっと高い時もあるから、すごい疲れちゃうんですよね。「これはどうしたらいいんだろう?」と思ったんです。だから凪をキープしながら作品を作っていく事を目指そうって思って、北海道へ修行に行きました。でもただの凪じゃなくて、創作のための凪だから「躁の凪」って名付けてるんです。エネルギー動力が高い状態はほとんど躁状態なんですよね。

左:江本純子さん 右:天野(わたげ隊)

江本 そう。だから、とにかく私は休む!ずっと自分の時間が動いていると考える回路が「ワー!」ってなっちゃって休めないから、その回路をとにかく遮断しなきゃいけない。それをチェックできるのが私にとっては読書だったんです。

天野 でもそこから「あ、この表現やりたい!」ってならないですか?

江本 それはないけど、すごく落ち着きますね。私がちょっと複雑な回路を持っちゃってるんですけど、読書をするとそういった私の考えをシンプルに言っていて「あ、これ私の言いたい事かも!」みたいな繋がりはよくあります。
でも積読がめっちゃ多いんで、それを消化してるって感じ。正直それは何かを吸収するための読書じゃなくて、私の中の「読まなきゃタスク」を減らすための作業なんですけどね。

天野 積読チェックは休む修業になるんですか?

江本 それはチェックだから。

天野 あ、そうか。チェックだから。

江本 そう。読書はあくまでも行為としての訓練だけど、積読のチェックはデトックスみたいな感じ。自分の中の集中力を得るための訓練ですね。その集中っていうのも「ワー!」っていう集中じゃなくて、品質の高い集中。

天野 「集中するぞ!」っていう事ではなくて、なだらかな集中。

江本 そういうのがあると良いなって思って。まだ修行の身ですよ。

視察は狩り!?静岡の思いがけない出会い

天野 これもTwitterから見させて頂いたんですけど、「静岡で狩りのような暮らしをした」って書いてありました。狩りというのは何を指しているんですか?

江本 まず1月に静岡に視察に行ったときの印象としては、都市なんだけど、なんかね……言葉を選ばずに言うと、中途半端な都市だと思ったんです。

天野 それは静岡に住んでいる身として、なんとなく分かります。

江本 でもちょっと面白いのは、クオリティが「良い」んですよ。都会的なクオリティが良いの。美味しいものであるとか、雑貨屋さんとか、いわゆるトレンド的なものもちゃんと追ってる。で、「狩り」の話に戻るんですけど。まずは(ストレンジシード静岡事務局の)草野さん、本当にありがとうございます!

草野 いえいえ!

江本 静岡の「大やきいも」(静岡市・駿府城公園の北側にある、おでんと焼き芋のお店)を紹介してくださったんです。それが1月の取材で出会った、私が劇作家として突入して行きたい、もっと見てもっと知りたい世界だったんです。最初は「働いてる人を見たい」「静岡の文化を感じられるスポットが見たい」って言って、草野さんに静岡の色んな場所に連れて行ってもらったんです。
その道中で出会った養蜂家の櫻井さんっていう方と、大やきいもさんに魅力を感じて、もっと静岡を知ったりとか、もっと普遍的な人の暮らしだったりとか、ここから何かを広げていきたいぞって思いました。だから櫻井さんと大やきいもさんとの出会いが、宝の予感!とハンターとしてのセンサーが動いた。それでお二方をもっと知りたくて、森の中に入っていった…ような感じです。

天野 あ、なるほど。それは「狩り」ですね、確かに。

江本 色んなところに行ったりとか、視察とかも「狩り」ですよね。私の人生の糧になるようなこと、イコール劇作家としてのものをもらう。美味しいものと出会ったっていうのも自分の血肉になるし。そしたら「この美味しいものってどうやって作られてるんだろう?」って思うじゃないですか。思いがけない出会いもあれば、まったく出会わないときもあって、言うなれば「視察とは狩りです」っていう話になる。
ただ、狩りをするためには長時間の「観察」が必要だけど、それはその場所や、そこで暮らす人たちにとっては決して気持ちのいいことではないはずです。それでも狩りをやめないのが劇作家の生態なので、そういう生き物として、迷惑のかからない「狩り」を目指したいと思っています。

天野 櫻井さんと大やきいもさんには、どんな魅力を感じたんですか?

江本 櫻井さんの方はですね、お店ではちみつジェラートを売ってたんですけど、そのジェラートがもの凄く美味しかった!このはちみつは只者ではないと思って。話を聞いたら、鴉山椒(カラスザンショウ)の蜂蜜なんですって。鴉山椒の蜂蜜って食べたことあります?

天野 食べたことないです!

江本 鴉山椒は植物の名前なんですけど、ちょっとスパイシーなんですよ。そういうクセのある蜂蜜が使われたジェラートだったんですけど、なんでこんなに美味しいんだろうと思って。私、実は蜂蜜が苦手なんですね。でも「これは食べられる!」って思って。なんかその時の櫻井さんの佇まいというか、話してる感じのサービス精神とかに最初の魅力を感じました。
大やきいもさんに関しては、おでんもめっちゃ美味しいんですけど、働いてる女性たちがすごく美しかったんですよね。職人の美しさ、作る人としての美しさかなって。あそこって大学芋も作ってるじゃないですか。

天野 はい。大学芋も美味しいですよね…。

「大やきいも」視察時の様子(撮影:江本純子さん)

江本 その姿がね、以前モロッコを旅した時に見た職人の姿に似ていて。モロッコは何が素敵かって、さっき言った集中に加えて長年積み重ねた技術が加わっているんです。そういう時の刻みも含めた立ち姿がすごく美しかった。大やきいもで働いてる女性たちって、皆さん高齢の方だったんですよ。

天野 うんうん、そうですね。

江本 高齢の方々も実によく働く!これは今回の作品のテーマでもあったりするんですが、働くって言っても「労働」みたいな言葉になっちゃうとちょっと嫌じゃないですか。でもあそこは、「はたらく」っていう姿の美しさがあったの。高齢の方々がシャキシャキ動いていて、スポーツのようでしたね。おでんや競技みたいなのがあったらオリンピックレベルでしょ!みたいなフォーメーションの美しさがあった。

天野 手際がすごく良くてスピーディーなのに、全然嫌な気持ちにならないですよね。

江本 そう!高齢の方って働きたくてもなかなか仕事って無いと思うんですよ。でも静岡には、あの街には働く場所がある。そしてその場所で女性が生き生きとしてる。それは労働的なにおいはせず、ポジティブなところで動いてるっていうのがすごくいいなって思ったんです。

「働く貴族」は尊いアーティスト

天野 最初のタイトルが『おでミずむ(仮)』だったと思うんですけど、『ロイヤル』に変更されたんですよね。

江本 大やきいもさんで見た景色から「静岡フェミニズム、ここにあり!」って思って。上演会場もおでんやさんの横を選んだので、おでんとフェミニズムをかけました。結果タイトルが変わったのは、フェミニズムに限定しない話だなと思ったんで。

天野 その『ロイヤル』というタイトルの由来を教えて頂けますか?

江本 ロイヤルをもうちょっと自然な言葉で言うと、「働くセレブ」みたいなこと。セレブっていう言葉もあんまり好きじゃないけど、まあ色んな意味で。これは静岡の街から感じた空気っていうのもあるんですけど。

天野 貴族感があったんですか?

江本 まあ、要するにそうです。これも視察の時にどなたかが言ってたんですよ。「静岡は富士山があるから食いっぱぐれない」って。

草野 あー言ってましたね。確かに食いっぱぐれない。

江本 そうです。だって富士山があるから、世界中から観光客が来ますよ。
鳥取県なんて大変なんですよ!人を呼ぶために3億くらい使って(笑)。静岡は3億使わなくても富士山があるじゃないですか。富士山きっかけで人の暮らしがある。きっと私が知らない闇はいっぱいあるのかもしれないけど、全国的に言うとセレブ寄りな場所なのかもしれないと思いました。

天野 なるほど、そういう事ですね!

江本 あと駿府城公園ってめっちゃ手入れがされていて綺麗じゃないですか。私は夜の緑の深さや色が好きだなと思ったんですけど、昼間は穏やか。その穏やかさも野生的なグリーンではなくて、とても上品なグリーンなんです。そういうところもちょっと貴族めいてる……難しいですね。貴族だけど、悪い貴族じゃないんですよっていう話がしたいんです(笑)

天野 話を聞いていると、江本さんが感じた「静岡の豊かさ」みたいなものが貴族っていうことに繋がるのかなって思いました。

江本 大きく言ったら“豊か”だけど、時を守り継いでいくその行為自体がとても尊い。それをやれるのは凄い事だし、アーティスティックだなと思う。
でも、その守り継いでいく・働くっていうのはイコール庶民なんですよ。本当の貴族は働かないから。

天野 そっかそっか。

江本 だから静岡に対して中途半端?って最初に思ってしまったのも、そのせいかな、と。中途半端なんじゃなく、その掴みきれない妙さだったのだな、と。「働く貴族」だったんです。

天野 確かに「働く貴族」は悪い貴族じゃないですよね。

江本 そういうことです。

天野 ありがとうございます。夜の駿府城公園で観る『ロイヤル』がとっても楽しみです!静岡でお待ちしてます!

江本純子
78年千葉県出身。劇作家・パフォーマー。00年以来、主に「毛皮族」名義で作品作りと上演をプロデュース。16年夏に小豆島・大部地区に滞在し、野外演劇を製作・上演。以降、演劇における民間芸術(“民芸”)の探求として、“民芸”と地域社会~都市と接続するための、劇場の形・上演の形を模索している。近年は、演劇と融合可能な映像作品の制作を行う。最新の映像作品は「観客」と共に作った映画『愛の茶番』(いずれ公開予定)。演劇の最新作『Gardenでは目を閉じて』(21年ザ・スズナリ/東京にて上演)は、Vimeo、U-NEXTにて配信中。19年~21年、セゾン文化財団・フェローII。
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ストレンジシード静岡2023
『ロイヤル』
江本純子

日程:2023年
5月4日(木・祝)20:00
5月5日(金・祝)20:00
5月6日(土)20:00
会場:駿府城公園エリア[おでんや横]

作・演出・映像:江本純子
ドラマターグ:遠藤留奈
出演:江本純子/遠藤留奈

詳細はこちら
https://strangeseed.info/

インタビュー・テキスト・編集:天野(わたげ隊)
記録:momo(わたげ隊)
ストレンジシード静岡 事務局:山口良太、草野冴月

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