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「Kid A」から20年

2010年に、2000年に起こったとある出来事を思い返して書こうとしたことがあって、でも、結局、何も書けなくて、2020年になったところできっと何も書けないだろうと思ったけれども、その書けなかった記録だけでも残しておこうと思った。

何よりも、2020年はそれどころじゃなかったね。

さておき。。。

書きたいことというのは、またか、と思われるかも知れないけれども、2000年、16歳の僕に起こった出来事、「Kid A」について。今年、何と、20周年だそうだ。

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メディアは挙って謎にしたがる。聴くだけ聴いたら、確かに今でも無難な音楽しか聴いていない人達にとっては謎でしかないし、それに開眼させられる人というのは、10人に1人いるかどうかかも知れない。一度聴いたらあまりの不気味さに二度と聴かない人もいるだろう。

僕も当時は本当に参った。何が良いのか全く分からなかったし、その割には何処へ行っても話題になっていたし。桑田佳祐さえもが絶賛していた。もう意味が分からなかった。

今となっては別にそんなに謎では無くなり、あれが結局、自分的にも世間的にも2000年以降のスタンダードになったんだなと思い返すし、今聴いたら結構耳障りの良い、良質なPopだとすら感じられる。冷静に聴いたら、コードもメロディーも堅実だし。

ただ、この難解で陰鬱なアルバムは、"知る人ぞ知る名盤" とか、"隠れた名盤" とかでは無く、堂々と世界中で売れまくった音楽史の表側に君臨する歴史的名盤となってしまっているのである。その事実は、メジャーの領域に於いてこのアルバムを謎に仕立てるのに十分なものだ。

そう、夢中でメジャーのトレンドを追って音楽を聴いている人達 (貶し言葉ではない) にとっては、それで十分。あのNIRVANAだって、登場した時はあたかも突然変異の様に扱われたが、実はアンダーグラウンドで脈々と受け継がれてきたものが満を持して表層化しただけのものだった。逆にずっとそこに身を置いてきた人達にとっては、"何を今更" である。この「Kid A」だってまた然り。「Kid A」に出会った時、僕は、SPIRITUALIZEDを知っていたか?AUTECHREを知っていたか?知らなかったよ。だから、あんなに悩まされた。

USのGrunge/Alternative対UKのBrit Popという90年代の喧騒がいい加減もう終わった2000年、誰もが次の信仰を探していた。そして、あらゆるタイミングを味方に付けて、Post Rockというジャンルをいよいよメジャーに展開する基礎を築いた、RADIOHEADと「Kid A」。前述の通り、夢中でメジャーのトレンドを追って音楽を聴いている人達をよそに、それに至るまでの素材、土壌は十分に揃っていた。

RADIOHEADは、ヴォーカル、ギター、ベース、ドラムから成るバンドという形態での表現を前作「OK Computer」で完成させてしまっていた。Englandでは7が付く年に音楽史を変える名盤が生まれるという言い伝え (1967年「Sgt. Pepper's Lonely Hearts Club Band」/ THE BEATLES, 1977年「Never Mind The Bollocks」/ SEX PISTOLS, 1987年「Squirrel And G-Man Twenty Four Hour Party People Plastic Face Carnt Smile (White Out)」/ HAPPY MONDAYS) があるが、1997年はまさにRADIOHEADの「OK Computer」がそれを成し遂げたのであった。その次に何をやるんだろう、何がやれるというのか、これをやってしまった。RADIOHEADがやらなくても他の誰かがやったかも知れないが、前作「OK Computer」で既に音楽史を変えてしまっていたRADIOHEAD自身を更に凌駕するのは、RADIOHEAD以外にいなかったのかも知れない。

歳を取るにつれて、どんなに奇跡の様な物語にも、現実的な、ビジネス的な面がよく見えてくる様になる。これが10年前だったらまだ魔法にかけられたままで、まだ純粋な視線で感想を述べられていたかも知れない。"10年経った今も未だに謎だ" と言っていたかも知れない。これは寂しいことではあるけれども、より理解を進める為には必要なプロセスだと感じている。

僕にとって、「Kid A」は、謎ではなくなってしまったにせよ、"あれは何だったんだろう" と時折思い返しては、この様にああでもない、こうでもないと想いを巡らせる、以前以後では全く異なってしまった自分の思考/嗜好/志向のマイルストーンなのだろう。

「Kid A」20周年を記念して、今年は何かあるのかと思っていたら、突然、Thom Yorkeが再婚したとのニュースが入ってきた。それだけか。まあ、「Kid A」20周年とかどうでもいいんだろうな。

かつて、Thom Yorkeは、自身の出世作でありながらも後年あまりライブで演奏されることのなくなった「Creep」についてこう語っている。

"「Creep」という曲は好きなんだ。でも、この曲を作った人のことは、僕はもう知らないんだ。"

的確。

「Everything In Its Right Place」を作った人のことは、どうやらまだ覚えているみたい。

全ては在るべき場所に。RADIOHEADは、それを正確に捉えたんだなと思う。

一体、いつになったら、これが古い音楽に聴こえるんだろうね。


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