マガジンのカバー画像

短編小説

7
気軽に読める短編小説。昔のものから最新のものまで、PCの中に眠っていたものを取り出してお届けします!
運営しているクリエイター

2021年1月の記事一覧

【短編小説】Re: 2046 – SUPERSONIC

Re: 2046 – SUPERSONIC* 映画「2046」では、失ってしまった記憶を取り戻すために2046に向かう列車に乗る。 「記憶をなくすためには、どの列車に乗ればいいですか?」 女の子に声をかけられた。夜の風が当たる彼女の首元が寂しそうに見えた。 「6番トラックですけど… 本当に乗りますか?」 彼は駅員の帽子をそっと持ち上げながら、好奇心溢れる顔で彼女に聞いた。なぜなら、みんな失った記憶を探して2046に向かう列車に乗りたがるだけで、6番トラックの名前のない

【超短編小説】買い物

買い物  彼女は裸のまま市場に並べられていた。 生くさくて鋭くて青い魚たちと一緒に。 白い肉を剝き出している豚たちと一緒に。 豚たちは死んで、魚たちは死んでいって 彼女一人だけが生きて苦しい息を伸ばしていた。 跳ねる魚の鰓の呼吸のように 彼女の胸がぴょンぴょン跳ねていた。 彼に会うまでは この息が切れないように 彼女は願っていた。 生きているこの心臓を彼にあげなきゃ。 夕方になって、買い物に出た彼は 死んだ魚たちと豚たちと彼女を通り過ぎた。 突然、彼は不意打ちを食らわせ

【短編小説】Slow Happy

Slow Happy ここ一年間、付き合ってもいない彼と三回別れた。春、夏、秋。季節ごとに一回ずつお別れをしたわけだ。そして、本当の最後となる四回目のお別れのために、ハンナは鏡の前に立って、一番色の明るいコートを着た。そう。いつの間にか冬になっているのだ。四季のある国だから四回別れるのだと、鏡の中のハンナが面白いことでも見つけたかのように笑っていた。 「あ、プレゼント!」 ハンナはしばらく前からキッチンボードに置いておいたプレゼントをカバンの中に入れた。これで準備完了!鏡の

【短編小説】君の意味

君の意味君は夜の宇宙船に乗っていた。目の前にはもうすぐ散ってしまいそうな星たちが瞬いていて、君はいつか地上で見たことのある花びらの雨を思い出した。真っ黒でひっそりとした空間にさらさらと星の花びらが散らばっていた。ここですれ違うともう二度と会うことはできないと、星たちも君も分かっていた。 なぜここにいるのだろう、君は思った。音も追憶もない世界に、一人でぽつんと。なぜ君だけがここにいるのだろう、君は思い続けたけど、消された記憶は君に何の答えもしてくれなかった。 何かヒントがほ