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君は、田中仁志さん(西鉄バス)を見たか?

毎日、通勤に「西鉄バス」を利用します。
僕は、福岡市の冷泉町というところに住んでいるので、最寄りのバス停「祇園町」〜会社の最寄り「赤坂二丁目」まで。
福岡市街地を貫く、国体道路を直進するだけの、15分ほどの距離です。

今からするのは、ごく地域限定的な話ですよね、
ローカルな話で恐縮ですけれど、というかグローバルな話なんてした事ないんで、しょうがないし、それはそれで恐縮なんですけれど、

先日は、残業する理由もないのに、残業して終バスに乗ったら、運転手がよく喋る人で、
「バス停に着いたら、席をお立ちください!と、再三申し上げておりますが、守っていただけないお客様がいらっしゃいます。責任持てませんよ!」
とか、
「このバスは最終バスでございます。そして、定刻を遅れて運行しております。終電車、乗り継ぎの最終バスご利用の方いらっしゃいますので、両替はあらかじめお済ませ頂きませんと、皆様にご迷惑をおかけする事となります!」
とか、
国技館の「座布団を投げないでください!」くらいのテンションで、要らぬ説法をし始めて、うるさかったんです。
バスの運転手の傲慢・横柄な有様というのは、随分減ったような認識だったんですけれど、こんな人がまだ居るんだなぁ、と。うるさかったです。

しかして、先ほど僕が乗車した西鉄バスの運転手
「田中仁志さん」 (降車時にプレートで名前確認しました)
は、全く逆のベクトルでうるさかったので、素晴らしかった。

祇園町から乗り込んだ時点で
「こんにちは!」
とマイクロフォンを通じて話しかけてくださる。

と、次の停留所では、
「もう、座るお席はお決まりですか? 着いて早々で申し訳ありませんが、発車いたしまーす!」
と、おっしゃっておられ、「これは何か尋常ならざるバスに乗り込んでしまったのではないか!?」という感触はすでに得ていたのですが、その後も

・「ありがとうございます!次、停車しまーす」
・「前の方には、幾分余裕ございます!」
・「乗車ドアは内側に開きますので、“ドア挟み”にご注意ください」
・「お疲れ様でした!いってらっしゃい!!お立ちの時間が続きまして申し訳ありません!」
・「整理番号3番のお客様はここまでが100円区間になります。次の停留所では一気に190円となりますのでお気を付けください!大丈夫でしょうか?問題ないでしょうか?」
・「整理番号4番5番の方はここまでが100円区間になります。整理番号3番の方は次で230円となりますのでご承知ください!大丈夫でしょうか?」
・「ご承知のお客様も多いとは存じますが、両替いただきまして出てきたお金を、運賃箱に入れていただく必要があります。両替と同時に運賃が差し引かれる訳ではありませんので、ご注意ください」
・「発車しまーす!あ、信号かかった!」

ラストのヤツは、ちょっとアレですけど、概ね、バカ丁寧。
バカ丁寧と書くと、悪口に聞こえるかも知れませんが、アナタも実際に「田中仁志さん」のアナウンスを聞いてみれば、田中さんがまったく嫌味なく、ケレン味なく、こういった喋りすぎアナウンスをしていることに驚き、感心するに違いありません。

極め付けは、ご老人に席を譲った人に対して、田中さんが身体を客の方に向けて

「ありがとうございます!ご協力いただきまして、ありがとうございます!!」

と一礼されていた事。
これはもう、日常に転がっているホッコリ感を、余裕でオーバーする
“非日常なバカ丁寧バス体験”
と言ってしまっていいのだと思います。

このまま、ずっと行先の「室住団地」まで乗車して、田中さんの名調子にウットリしたかったんですが、僕の“田中仁志体験”は、短かき15分のランデブー。
もう、さようならです。

しかし、この「次は、赤坂二丁目です!」とアナウンスする時に、あの、僕らの、田中さんが今日初めてのミス!

「次は、あかさ、かさ、さか、赤坂二丁目です!」

と、ロレってしまったのです。
ここでバス車内にはドッと笑いが起きました。
今まで、「なんかこのバスの運転手さん変わってるわね」という空気をまといながらも、かすかにざわつく程度だった乗客たちが、一斉に田中さんの名調子を受け入れた瞬間だったと思います。
笑い、が生み出す作用について感じ入るものがありました。

この時、僕は車内前方に移動しており、田中さんの表情を覗ける位置にいたのですが、その時の田中さんは、確かに悔しそうな表情を浮かべていました。
少し、下唇を噛んでいた気すらします。
それは、田中さんにとって意図せぬミス、予期せぬ笑い、だったに違いありません。
でも、結果オーライだよ田中さん。
アレで、車内が一つになったんだよ、確かに。
発車オーライだよ、田中さん!

ほどなく、赤坂二丁目で降車する僕にも
「お疲れ様でした!ありがとうございました!」
と、声をかけてくださった田中さん。バカ丁寧で悔しがりの田中仁志さん。
また、アナタの運転するバスに乗りたいです。

ちなみに一応、西鉄バスの運転手検索とかしてみたんですけど、さすがに引っかかりませんね。
アナタが次に乗るバス。たまたま乗ったバスで、バカ丁寧で、悔しがりで、気持ちの良いアナウンスを耳にしたら、それはきっと、田中仁志さんだ。

君は、田中仁志さん(西鉄バス)を見たか?

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