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TM NETWORK「STAND 3 FINAL」(5)

  一瞬にして幼少期を思い出させるようなイントロが鳴り響く。「トルコ行進曲」につながる、このイントロをどう形容したらいいのだろう。切ないようで懐かしく、甘く美しい記憶がよみがえるイントロ。正確なリズムが刻まれ、モノクロの外国の子供たちの顔写真が、バラバラのモザイクのように次々と映し出される。まっすぐに正面を見つめる顔、顔、顔。決して笑顔ではなく、何かに悩み、おびえ、苛立ち、怒るような顔ばかりだ。鼓動のようなタムの音が響き、ウツが代弁するかのように歌い出す。『HUMAN SYSTEM』だ。

 少女は泣きながら 目を覚ました、一人ぼっちで
 鏡に話しかけてる 同じ毎日、同じ白い顔
 少年はポケットに ナイフ忍ばせて 唇噛み締める 
 汚れたシャツの襟元 いつもの朝と いつもの苛立ち

ちょうど思春期に聴いて、自分事のように共感した10代、学生時代が終わり、社会へ出て、すれ違う雑踏の中でこそ響いた20代、同級生との生き方の違いを感じはじめた30代、いつの間にか20年も友人と会わないまま、過ぎていることに気づく40代…こんなにたくさんの人がいるのに、ただすれ違うだけの人たちばかり。スクランブル交差点の映像が映り、今日も雑踏の中を歩き続ける人たち。「巡り会えたら、何かが変わるのに」と思いながら日々は過ぎていく。
 She is here and he is there
    In the Human System
    I am here and You are there
    In the Human System

小室みつ子さんの詞が、3人の意向を汲み取り、すれ違うFANKSたちを、TMに出会わせてくれた気がする。あの時代も、今、この令和の「STAND 3 FAINAL」でも。みずみしい3人の歌声、音楽とともに。決して、すれ違いだけじゃない。そう、確かに巡り合えている。今ここで、この『HUMAN SYSTEM』の響きの中で。

 3つの□□□に、アルバム『humansystem』のジャケットの人形が映る。まさかのイントロに、会場から驚きの歓声が上がる。今度は一瞬で、遠い平原と夕陽が目に浮かぶようだ。馬に乗った騎士のような姿で、流れる時の中を回り続ける3体の人形。悠久ともいえるメロディーとともに響いてきたのは、『COME BACK TO ASIA』。変わり続ける日常の中で、TMの音楽とともに「世界」が生まれ、「時代」が動いてきた。決してそれは大げさなことではなく、おそらく最初は、ただ「君に伝えたい」という、ささやかな想いからだったのではないだろうか。

 全ては変わり続ける 永遠はどこにもない
 命と別れ アジアに抱かれて
 だけど君に伝えたい 一度は無くしたものも 
 再び出会い取り戻せるのさ 
 Come Back to Asia  いくつもの弱さと向かい合ったよ 掴めない蜃気楼
 Come Back to Asia    一人の真夜中を 超えていけるさ 
 君にまた出会うために

 曲を聴いて、観客はそれぞれの記憶や想いと照らし合わせる。「君」に当たる人を思い出したり、「わがままな夢をたどる」「転がる石になりきれないまま」の自分を感じたりする。家族や恋人、憧れの人、いつかの自分、ウツと木根さんのSPIN-OFF、その時のてっちゃん、あるいは徹貫さんのことを考えたFANKSもいたことだろう。繰り返される畳みかけるような、メロディーをてっちゃんは細やかな指先で弾き出し、心に秘めた強い意志を、ウツが歌い上げ、木根さんがコーラスでしっかりと支える。ツアーの後半で、てっちゃんは、ティンシャという、瞑想やヒーリング、ヨガなどに使う小さな鐘を鳴らしていた。ウツと木根さんの後ろ姿を見送ったあと、てっちゃんが鳴らす、涼やかな音に耳を澄ます。天に昇るように、浄化されていく「想い」があった。

(続く)




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