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チェリオス効果 -2.0 裏

 大学に入学したのはいいけれど、金がない。贅沢などしていないのに金がない。ついでに友達もいない。
 そんな涼子の心の隙間を埋めてきたのがご当地地元企業アイドルの募集だった。カロ穴木工会社という知らない会社だったが、地元ではブラック企業として有名だったのは後で知った。後悔先に立たずだった。
 アイドルなんだからヘラヘラ愛想を振りまいて男をたぶらかしていればいいだけなんだから楽勝だろうと面接に行ったら応募に来たのは涼子一人だったのでその場で採用となった。芸名は星ルビコ。
 涼子は金さえもらえればそれでいいと思っていたので、あとのことはすべて会社に任せた。いざとなったらばっくれればいい。そして初デビューは大学の学祭に決定した。

 当日は朝八時に来いと言われた。歌う歌は一曲だけでいいからと歌詞と音源ファイルを渡されたが、涼子はまともに覚えるつもりはなかった。歌声合成アプリを使ってデータを作り、それをスマホで流す。あとは適当に振り付けをして口パクすれば楽勝だ。遅刻だけはまずいので、涼子はデータを作り終えたら九時に寝た。
 翌朝、楽屋に入ると社員の一人が済まなそうに入ってきて「ごめん、昨日渡した歌、間違っていた。本当はこっちだったからすぐに覚えて」
 ふざけんな、ばかやろう、ふざけんな、ばかやろう、ふざけんな、ばかやろう、ふざけんな、ばかやろう。おもわず心の声が漏れそうになったが、スマホがあればすぐに作れる。涼子はすぐさまデータを作るとにこやかな表情を浮かべて「あとで殺す」と言った。

 時間です。というスタッフの合図で楽屋を出た涼子。会場からは賑やかな音楽が流れてくる。
「カロ穴木工会社のアイドル、星ルビコさんのご登場です! みなさん拍手でお出迎えお願いします」司会者が言った。
 さて、戦闘開始だ。涼子はにこやかな笑顔を作り、舞台へと上がり始める。
「なんと、今回は星ルビコさん、十時から二十時までの休み無しのオンステージとなります」
 笑顔が凍り付いた。同じ時間、近くの場所で笑顔が凍り付いていた男がいたことは涼子は知らない。

 涼子はマイク片手にスマホの音量を最大にした。

♪銀行融資で手に入れたエッジバインダー
♪これで切り口綺麗なエッジ材
♪わたしの指も華麗にふきとばす
♪原価償却残っているのに壊れた木製プレス機
♪わたしの心は押しつぶされた。

 ふざけんな、ばかやろう、ふざけんな、ばかやろう、ふざけんな、ばかやろう、ふざけんな、ばかやろう
 心の声は漏れまくっていたが、マイクはスマホの音声を受け取っていた。

♪うなれ丸鋸!
♪巻き上がれ鉋(かんな)の削りくず!
♪社長の奥さん、かんなさん!

「やってらんねーよ」
 笑顔で歌っていた涼子はそう叫ぶと、手に持っていたマイクを床にたたきつけ、舞台から飛び降りた。涼子はそのまま走り、真衣の隣を駆け抜けていった。真衣が後ろを追いかけてきていることをまだ知らなかった。

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