(日記)再生活

復学した。大学に1年ぶりに足を踏み入れている。本当に1回も行かなかったのでまだまだ順応中の気持ちでいる。新生活、とまでは言わないけれど、区切りであることは確かなので「再生活」くらいかな。


平日フル出社から1日だけの出社になり、会社の人から「Pokke成分が足りない……」と言われている。通学路にある見慣れた建物が急に取り壊されたみたいな気分なのかな。それだったらそのうち忘れるけど、建物が週1で生えてくるなら微妙に忘れられないか。


授業を1年ぶりに受けている。105分ずっと座っているのが結構大変です。授業は緩急をつけて聴くものだけど、緩……のモードに入った瞬間にどこかへ流れ出してそのまま戻れないのが怖い。かといって自分でがっつり理解できるほど頭が良くはないので、なるべく前の席をとって「この先生はあなたのために授業をしていますよ」というセルフ圧をかけることにしている。

授業を受けるって、考えることが増えるってことだ……(あたりまえ体操)。脳内で常に複数のプログラムが立ち上がっている感じが難しい。なんやかんや言いつつ週10コマで理系の人には鼻で笑われて一向に構わないレベルなのだけれども……自分の集中力の低下をひしひしと実感する。

後ろ向きなことばかり書いちゃったけど、授業の内容自体は楽しみなものが多い。特に翻訳論と宗教学概論は期待が高い。韓国語もとりはじめたので毎日コツコツやらなくちゃな。

韓国語を短歌に織り込んでみるとどうなるんだろう。あまり見たことがないので、響きの楽しさとか意味の楽しさに気づいてきたら使ってみたい。

自分はぜんぜん英語が話せないのだが、中1のときの英語の先生がたいへん愉快だったのと、高校での叩き込みのおかげで、読みと簡単な聞き取りにはあまり苦労しないでいられている。(台湾の博物館にあった英語の展示の解説をざっくり読めた、くらい。)英語の歌詞を読んだり小説を読んだりすることはできて、最近、「けっこう外国語で読むのが好きなのかも」という気持ちになってきた。日本の博物館の展示でも英語部分を読んでみたり、YouTubeを英語字幕で見たりしている。

意味の区切りが違うのを、たぶん面白がっているんだと思う。英語で読むときは日本語に逐一置き換えてるわけじゃなくて、英文からイメージを展開する。そのプロセスは日本語ならもう当たり前になっていて面白みが分かりにくい一方で、英語だとそのふわふわした感じが楽しめる。日本語では言えない感覚に出会ったり、「いま、しっかり英語で読んでいるな」とメタっぽく思えたりすると、頭の別の部分を使っているのがはっきり分かってワクワクする。

翻訳は、それを乗り越えていく作業なのだから根本的に無理がある。無理があるのをなんとかしようとしているから面白い。数学で確率を考えるために「同様に確からしい」とするみたいに、不可能なものを越えて伝わろうとする。伝え方は翻訳者の手にかかっているわけだけど、正直「だいぶアクロバティックだな」と思う訳もあって、その塩梅や考え方がとても気になっている。きっと、どこまでどう訳すかなんて終わらない戦いなのだろうとは思うけど、少しそれを体感できたらいいな。


宮沢賢治は桜が嫌いで「かえるの卵みたいだ」と言っていた、という話をどこかで聞きかじり、ちゃんと参照してまとめたいな……と春になると思い出す。手を付ける前にだいたい桜が散ってしまう。


ウエハースを食べると、高校2・3年で同じクラスだった、賢い子のことを思い出す。気さくで、成績の良いまじめな感じと、ちょっと怠そうな雰囲気とをほどよく使い分けている印象の子だった。一時期、隣の席だったのだが、なにかのきっかけで「ウエハースって何?」と聞かれたことが忘れられない。17年間ウエハースを知らないで生きることもあるんだ……と驚いた。言われてみれば「誰もが通る道」ではないかもしれない。ウエハースとは、を説明するのは結構難しかった。

(ウエハースといえば、「麦ふぁ〜」というお菓子に1万回?「ありがとう」を聴かせてから出荷している、というエピソードには仄かな狂気を感じる。豆苗にいろんなジャンルの音楽を聴かせて育ち具合の対象実験をしていた友だちのことを思い出す。)

その賢い子は、なにかと面白かった。話すのが不得手だった自分にとって、こんなに会話の断片が心地よいものとして残っているのは珍しい。彼は優しくできる人だったんだろうなと思う。大学に入ったら一人暮らしをしたい、テレビ見て「ふっ」と笑ってそれがきょう始めての発語、みたいになってたらどうしよう、同窓会で笑ってよ、という話とか。孫に「田舎に遊びに行く」を体験させてあげたいから一定の時期になったら地方に移住したいとか。

そういえば古文の単語をちゃんと覚えられたのも彼のおかげだった。当時の古文の先生(担任)はなにかとペアワークをさせる人で、単語帳を使ってお互いに覚えているかクイズを出し合う、という時間があった。その子が、頭の中に本が入っているみたいにぜんぶ覚えていたので、びっくりして「どうやって覚えたの?」と聞いたらやり方を教えてくれた。ちょうどそのあと冬休みだったので自分もやってみるか、と思って覚えた。覚えたらテストの点はしっかり上がった。

そういえば(尽きないな……)文化祭でウェスト・サイド・ストーリーをやったときに音源編集をしてくれたのもその子だったな……元気にしているだろうか。

つらつらと追憶のように書きましたが、実は同じ大学に進学しているのでばったり会えると面白いなと思う。

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