ふゆむしなつくさ

仕事が終わり帰ろうとすると、港の端に、冬虫夏草が生えていた。中国からのコンテナ船からこぼれたものだろうが、何がどうしてこんなところにあるのか?不思議でならない。

小雪が降りはじめたなかで、ひからびたセミから草が伸びていた。冬は虫の冬虫夏草は雪のなかでは生きてはいられまい。小さな冬虫夏草をなんとかうまく取り上げて、会社のトラックで自宅へ持ち帰った。

「さて」

インターネットで「冬虫夏草」を検索する。ふゆむしなつくさ。チベットの高原に生える寄生植物、キノコの仲間。冬は虫の幼虫に胞子をめぐらせ、夏に草のように生えることから冬虫夏草の名がついた。

今は冬。いったいどうやってこいつは生えたんだ??最近は栽培できるようになったらしいので、栽培されたやつなのだろうか。

こたつの上に皿を置いて、その上に冬虫夏草を置いた。冷蔵庫から缶ビールをとってくる。冬虫夏草はなんだか気味の悪い芸術家の彫刻みたいで、部屋のなかで不気味に浮いていた。なんでこいつに同情なんかしたんだろうと、さっきの自分を不思議に思った。

干からびたセミの幼虫は古代兵器みたいに横たわっていて、そこからするっとくろい小さな木が生えていた。その木は枝も大して持たず、丸い頭をもたげてじっとしていた。

冬虫夏草を横目にテレビを見ながらビールを飲んで、風呂に入って、そのまま寝た。朝、目が覚めたらキノコのことなどどうでもよくなっていた。冬虫夏草を窓際に置いて、トラックに乗って港に行った。

一週間が過ぎ、二週間が過ぎ、しばらく主人に放置された冬虫夏草は、すっかり枯れて萎んでいた。漢方のそれと言ってしまえば、たしかにそういう類のものだった。「お湯で煎じて飲んでみるかな。。」ちょっと思ったがやめておいた。皿を再びこたつに置いて、缶ビールの蓋を開けると、少しだけ自分の残忍と冬虫夏草の不気味さが重なり合った気がした。

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