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今こそ「よくでる2000」を聴いてほしい

太鼓の達人に「よくでる2000」という曲があります。ご存じない方向けに説明しておくと、このゲームにはJ-POPやアニソンなどのポップソング以外にも、ナムコオリジナル楽曲などが収録されています。その通称”ナムオリ”を代表する2000シリーズ曲が1つ「よくでる2000」についてお話ししましょう。

僕がこの曲と出会ったのは、PSPの「太鼓の達人 ぽ〜たぶる」です。太鼓の達人は小学生の頃にアーケードやPS2で触っていましたが、その後はすっかりでした。中学生の頃にPSPが流行したことで学内に太鼓ブームが発生し、再びバチを取ることになった。PSPが発売されるまでは、友達の家でもPS2をTVに繋げて交代でプレイしていたわけですが、時代は変わった。1人1台PSPを所有しているので、もう1つの画面に皆が群がる必要はなくなった。画面も1人1つ。各々が自身の手元にある小さなスクリーンに集中し、音楽に合わせてボタンを打する。当然セーブデータも個々人で別個に存在するので、他者との競争心に一層火がつくわけです。太鼓の達人では、楽曲をノルマクリアすると銀の王冠、フルコンボすると金の王冠が与えられます。勲章の数や種類でマウントを取り合うのは中学生だろうと同じだ。

さて、そんな太鼓の達人ブームの中で友人たちを騒がせていた楽曲が、我らが「よくでる2000」である。太鼓の達人ぽ〜たぶる内では隠し曲となっており、難易度も最上位クラス。オリジナル曲ですから、僕たちはゲーム内で出会うまでこの曲のことは全く知らなかった。けれど、隠し要素+ボス的難易度ということで、キッズたちに一目置かれる存在だった。曲名すら聞いたこともない得体の知れなさが一層不気味に感じられたのでしょう。畏怖の対象ですらあったかもしれない。

聴いたことのない人はぜひ一度聴いてみてほしい。あまり聴き慣れない雰囲気の曲調ですが、歌詞に出てくる「ヨロレイヒー」などの言葉から、アルプス地方の民謡「ヨーデル」がベースにあると分かる。「ヨーデル→ようでる→よくでる」と、曲名にも”モジり”が使われている。特に注目したいのは歌詞だ。

いつもの受注だ
(仕事だヨーレイヒー 働けヨーレイホー)
余裕でこなせる
(今日も定時で帰ります) 

曲の初っ端がコレ。中学生の頃は見向きもしていませんでしたが、大人になってみるとなかなかトガっている。全年齢向けで、子どものプレイヤーも多いタイトルだというのに…いや、だからこそ洒落として成立しているのかもしれない。こういう反骨精神は大好きです。スーパーやコンビニ等の小売業で商品が売れることを「出る」と言ったりするのですが、これも「よくでる」という曲名に掛かっているのではないかなと考えています。「このお菓子は”よく出る”から、こまめに売り場を補充しないとね」みたいに使います。

徹夜までしてみても
お給金は上がらず
とことんまで搾取され
ミジメなボクら

僕の好きな部分です。ナムコの社員が歌詞を書いているわけですからね、サラリーマンが醸し出す哀愁の裏に皮肉を感じられてよいです。ブルースの起源となったのも「労働歌」ですし、過酷な労働環境への嘆きや苦しみ、怒りなどの感情を歌に昇華するのは原点回帰のようにも思えます。現代音楽にも黒人の音楽をルーツに持つものは多いです。歌詞は社会への不満、恋愛に関するものなど多岐に渡りますが、いま一度原点に立ち返り労働をテーマにすることで、現代風に洗練された仕上がりになっている「よくでる2000」は素晴らしい。日々ヨーレイヒー、ヨーレイホーとあくせく働く者たちに聴いていただきたい。その悲哀に満ちた歌詞とメロディに共感し奮い立て!そして明日もまた戦場へと赴くのである。

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