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スティーブのひとりごと

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『スティーブのひとりごと』は、毎日の生活の中で「これは語りたい」と思ったことを、メンバーそれぞれの新鮮な言葉でお届けします。Steve* Magazineは、クリエイティブカンパ… もっと読む
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丸森時間差遺産 第9話「あたりまえの鉄道」

 ガタンゴトンッ。ガタンゴトンッ。心音のように繰り返す心地よいリズムを感じながら、窓の外を眺める。新車両に切り替わっても変わらない、どこか懐かしいボックスシート。気のせいか、周りの家族連れや若者、おじいちゃんおばあちゃんも穏やかな表情に見える。みんなどこへ行くのかな、なんて想像しながら、久しぶりに乗った電車の魅力を改めて味わっていた。  「あぶきゅう」の愛称で知られる阿武隈急行との出会いは小学生の頃。シンプルな白い車体に描かれた青と緑のラインに一目惚れ。どこを走っていても絵

丸森時間差遺産 第8話「新春初詣ドライブ」

 忙しかった一日。永遠に続きそうな仕事を何とか無事に終えて車で家へ帰る途中、冷え込んできたなと思ったらヘッドライトに白く光るものが反射した。雪である。僕は暗闇をふわりと舞う雪を見ながら、祖父と初詣に行った日のことを思い出した。  昔、野球でキャッチャーをしていたという大柄な体格のイメージとは似つかわしくない、柔らかな物腰の祖父が僕は大好きだった。18歳となり車の免許をとってからは、よく祖父をドライブに誘っていたのだが、断られた記憶が無く、いつも喜んで時間をとってくれた。悩ん

丸森時間差遺産 第7話「ある散歩の想い出」

 休日にはよく散歩をする。と言うと、周りの人たちから「車ではなく?」と聞かれることが多いのだが、テクノロジーがいくら進化したとはいえ、歩いている車は未だに見かけない。散歩はまだまだ人間だけの特権のようである。散歩。それは、変化し続ける景色との出会い。そして、それを共にする家族との会話など、さまざまな発見がある特別な時間なのだ。  歩く車は冗談だが、確かに移動という効率性から考えれば車は便利である。寒い日は暖房を、暑い日はクーラーを。子どもがゲームをしていようが機嫌が悪かろう

丸森時間差遺産 第6話「受け継がれる蕎麦」

 最近、筆甫へよくドライブをする。理由は今年新しく出来たそば屋、清流庵である。筆甫地区の美しい自然と川のせせらぎと、運が良ければカワセミの美しい鳴き声を聞きながら、石臼挽き&手打ちの美味しいそばを楽しめる。付け合わせの天ぷらも最高だ。新鮮な野菜を中心に、揚げたてを塩でカラッといただくも良し。出汁の効いた蕎麦つゆに浸してジュワッといただくも良し。滑らかな喉越しのそばとの相性も完璧。締めに成分が溶け出したとろみの強い熱いそば湯で身体を温めた後に、店を出て感じる凛とした森の空気がま

丸森時間差遺産 第5話「棚田にて深呼吸を」

夕暮れの国道349号線。大学での授業を終えて自宅へと車を走らせる途中、思い立って寄り道をした。阿武隈川沿いの側道を坂道に沿って3分ほど登ると、日本の棚田百選・農林水産省選定のつなぐ棚田遺産にも選ばれた「大張沢尻の棚田」が現れる。長い時間をかけて、複雑な地形を試行錯誤しながら開拓して生まれた、人々の努力の結晶である。  見晴らしの良い駐車スペースに車を停めて、秋風が吹き抜ける新鮮な空気を思い切り吸い込んだ。夕陽に照らされ階段状に連なる田んぼを埋め尽くす黄金の稲穂。久しぶりに訪

丸森時間差遺産 第2話「時をかける赤い橋」

 夜寝ていると息苦しいことがある。今夜も金縛り……ではないので安心してほしい。寝相の悪い我が子の足が僕の顔に乗っていただけ。いつものことである。家族で一緒に寝ている場合、自分の寝ている範囲を越えないようにという暗黙の了解があると思うのだが、そんな大人の常識で作り上げた境界を軽々と越えて来る息子の自由な本能に感銘を受けるとともに「境界を越える」というキーワードから、ふと、脳裏に丸森橋の思い出が浮かんだ。  丸森町には大きな橋が2つある。2012年に完成した556mの丸森大橋。