ミニじゃない四駆
2009
たぶん春
かみしゃくじいいちのにのさんに来てと言われて自転車で向かい、着き、着きましたよ、と先方に電話した。
目の前にあるマンションおれのだからそこで待ってて、と言われて待ってたら身長も手脚もすごく長いサングラスのようなメガネをかけた黒いジャージの男が中から出てきた。
マンション内の事務所に通されて〈会長〉と呼ばれる40歳前後のその男性と対面することになった。
20代と思しき男性が数人、パソコンと睨めっこしている。
楕円のテーブルを囲うソファーに座らされ「本当はなにがしたいの?」と聞かれたりした。
なんて伝えたかは恥ずかしくて書けないけれどちゃんと伝わらなかったみたいで、そこで引越しの梱包開梱の仕事をすることになった。梱包開梱専門業者なんてあるんだ、と思った。
会長が手掛けている仕事は他にも色々あって某有名引越し業者だとか都内の夜の仕事だとか芸能関係の仕事をしていて成○寛貴をスカウトしたのおれの事務所だよと言ってた。そのへんの裏事情とかも聞いた。ディズニーランドには行列に参加するバイトもあるということも聞いた。教えてくれたというよりかはそういう秘密を知っていることを自慢したかったのだろう。
梱包開梱の仕事はド楽勝で、こんな仕事で金が貰えていいのか、と思ったが、2時間とか3時間で終わるので時給制のその仕事は生活の足しにはならないと思った。
事務所に帰ってその存在に気付いたホワイトボードには従業員の名前や勤務時間や現場名などが書いてあるんだけどそれぞれの時給も書いてあった。
時給3000円の人がいて、時給3000円なら梱包開梱だけでもやっていけるなすごいなと思ったんだけど「けっこう長く勤めて時給が上がったんですか」と時給3000円の人に訊くと、「いや、会長が時々ジャンケンしようと言ってきて、勝ったら50円時給上がる。それで3000円までいった」と言ってた。
会長の梱包開梱はすさまじく速い、とその人は言った。それはリアルに想像できた。肉体的なスピードを内包している人にしか醸し出せない雰囲気や背骨が会長にはあった。
それはぼくが求めるスピードではないけれどもすごいなと思った。何度か行って、同僚たちがあまりにつまらなくて離職した。
また元の生活に困ることになった。求職にどれだけエネルギーを使うのか想像することができず簡単に辞めてしまった。
基本的に無駄遣いします。