大戦末期の翳:矢代秋雄《ソナチネ》
矢代秋雄《ピアノのためのソナチネ》(1945)
「ラヴェルの《ソナチネ》に主題が似ている」事ばかりが取沙汰されがちな矢代秋雄 (1929-76) の〝処女作〟だが、「左手のオスティナートの上で自由な曲線を描く右手の旋律」という発想は、リズムの工夫を好んだ作曲者の嗜好がすでに顕れているといえる。また第1楽章第2主題や第3楽章には、作曲時の先端であったヒンデミットの音楽の趣も感じられたりもする(本作に続く《24の前奏曲》には《ルドゥス・トナリス》を思わせるような実験性もみられる