R・I・S・K④

数日後、司はいつもの空き地に、竜次と洋次を呼び出した。
「お前ら、夏休みの時、しくじっただろっ。そこでだ、今回お前らに、汚名挽回するチャンスを与えてやるっ…」
2人は、司が何を言わんとしているか、おおよそ検討がついていた。
「いやっ、でもっ、風間さんっ…! あいつら、メチャクチャ強くて、俺達2人の手に負える相手じゃないですよっ…!」
「そうそう、竜次みたいにデカいヤツが向かっていったのに、こいつ、一発でノックアウトされちまったんだからっ…!」
2人は、司の話を何とか断ろうとしていた。
「…お前らなぁ、人の話を最後までよく聞けっ! 今度は、こないだより多く集めて、3人組を捕まえてくるんだっ!」
「風間さん、それって、卑怯なんじゃ…?」
洋次がそう口を滑らせかけたので、竜次は慌てて洋次の口を塞いだ。
「あの、何もそこまでする必要はないんじゃないかとっ…」
竜次がそう言うと、司はムッとした表情をした。
「このまま黙ってみろっ! 俺は、街中を歩く度に腰抜けって言われ続けるんだぞっ…!」
ーー実際、そうなんじゃねぇのか…?ーー
竜次はそう口から出そうになった。
「とにかく、100人でも1,000人でも、出来るだけ多く集めて、そのクソ生意気な3人組を捕まえろっ…! わかったなっ…!」
竜次と洋次は、仕方なく渋々返事をした…。

帰宅途中、竜次は公園に立ち寄った。案の定、好美達がいた。
「あら、誰かと思ったら…。珍しいわね…♪」
好美が竜次に気が付いて、茶化すように言った。
「お前らよ、約束通り正体を黙っててやるから、いい加減に風間さんの知り合いとか倒すのやめろっ。風間さん、かなり腹が煮えくり返って、札幌とか近郊から大人数集めて、絶対にお前らの事捕まえるって言ってるんだぞっ…」
「だったら、あんた達が、風間から手を引くのね…?」
好美がそう言うと、竜次は首を横に振った。
「そんな事っ、出来るワケないだろっ…!」
「そう…? 本当はもう、いい加減あいつらから手を引きたいんじゃないの?」
「それはっ…」
竜次は、好美を見てそう言いかけたが、慌てて首を横に振った。
「だったら、アタシ達も続けるけど…」
「お前らなぁ、人が親切で忠告しに来てやったのにっ…。もうどうなっても知らんぞっ!」
そう言って竜次が立ち去ろうとした、その時…、
それまで黙って好美と竜次のやりとりを見ていた文人が、竜次の腕を引っ張った。
「何っ…?」
竜次が振り向くと、文人は竜次の顔を見上げ、次の瞬間、いきなり平手打ちをした。
「…っ…?!」
「ふっ、フーちゃんっ…?」
文人の思わぬ行動に、好美も忍も、さすがに驚いてしまった。竜次も、一瞬、信じられなかった。
「文人っ…?」
竜次は頬を手で抑え、文人を見た。
「竜次君っ、まだわからないのっ…?」
文人は珍しく声を荒げてそう言うと、グッ!と竜次の襟首を掴み、ジッと顔を見た。文人の目には、涙が溢れていた。
だが…、
竜次は苦悩な表情を浮かべると、文人の手を振り払い、その場から立ち去った…。
文人は、崩れるようにその場に座り込むと、声を押し殺して泣いた…。

その日の夜、竜次はまた、いつもの夢を見た。
竜次よりも大きいその黒い影は、竜次が逃げても後を追いかけてきた。
思い切って、竜次が黒い影に向かって殴りかかっていくと、飛び散った影は増殖し、竜次の身体を取り囲んだ。
一番大きな黒い影は、竜次の目の前に立ちはだかった。
ーーまたかよっ…! 一体、何なんだよっ…!ーー
竜次は目の前の大きな黒い影を見上げ、次の瞬間、ギョッとした。その黒い影が、みるみるうちに竜次の姿になっていったからである。
ーー俺っ…?ーー
その黒い影は、完全に竜次と同じ姿になった。
《今なら、まだ間に合う…。早く、ヤツラから手を引くんだっ…! さもないと…!》
そう言うと、スッと、ある方向を指さした。
すると…、
指さした方向にいた黒い小さな影が、みるみるうちに文人の姿に変わっていった。
ーーえっ…?ーー
竜次が思わず文人のところへ駆けつけようとすると、文人の周りにいた他の黒い影が、司や不良達の姿になった。
そして、文人を取り囲むと、一斉に襲いかかっていった。
ーー文人っ…!ーー
やがて、文人の身体を飲み込むと、黒い影は消え去り、竜次はその場に崩れるように座り込んだ…。

朝、目を覚ますと、いつものように寝汗で身体じゅうがびっしょり濡れていた。
ーーあの影は、俺自身だったのか…ーー
竜次は、暗闇から出てくる黒い影が、他の誰でもない、竜次の中に残っている『良心』が見せていた幻影だという事を知り、ショックを受けていた。
ーー俺は、どうすればいいんだっ…?ーー
起き上がってシャワーを浴びている時、何気に鏡を見ると、昨日、文人に叩かれた頬が、まだ少し赤く腫れていた…。

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