見出し画像

恐喝事件から考えるベンチャー企業のレピュテーションリスク(3) 「週刊誌に出すぞ」は小悪党の常套手段

 フィットネス企業の本社は高層ビルを3フロアを借りていました。そこでビル自体の出入口にも捜査員を配置し、被疑者らしき人物らの出入を監視させていると、予定通り午後4時前に被疑者3名がビルに入り、本社の受付がある階に向かう様子が確認できました。ビルの出入口を張り込んでいた捜査員からは、オフィスフロアにいる捜査員や私のところに一報が入り、その人相着衣が報告されます。捜査員からは一見して若い会社員風で、反社会的勢力の人間ではないように見えるとの印象も伝えられました。

 被疑者らのエレベーターが昇るにつれ、オフィスフロアに内張している捜査員の緊張も高まります。

 被疑者らは受付で名前を告げると、その場で待っていた対応する社員の責任者に誘導され、選定された部屋に向かいます。事前に決められた席にそれぞれが着くと、腰掛けると同時に被疑者の1人が声を上げた様子が聞き漏れてきました。部屋の近くにいる捜査員からは、内容までは聞き取れないものの、被疑者1人が社員らに話し掛けている状況が報告されてきます。

 現場の捜査員というのは、被疑者の姿を見るとどうしてもはやる気持ちを押さえられなくなりがちで、少しでも早く着手したくなる習性があります。しかし、実際の要求行為がない以上、その場でじっと耐えるしかありません。こういう時、私と現場責任者は連絡を密に取り合いながら、はやる捜査員に対して我慢を指示します。

 時間にして30分ほど経った頃、部屋の中の声の張りが大きくなってくるのが捜査員たちにも伝わってきました。実際に現場で被疑者を見てから待つ30分というのは、かなり長い時間に感じるものです。部屋の中の声が大きくなるにつれ、今か今かと構える捜査員たちの様子が、離れた署からも目に浮かびました。しかし、こういった現場でのジリジリとした感覚は、刑事として非常にいい経験になります。

 その数分後、部屋から一人の社員が出て来ました。

ここから先は

1,806字

¥ 100

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?