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『ナツノカナタ』プレイレポ~少女と旅する対話型テキストアドベンチャー

こんばんは。フォルトです。

今回はSteamで無料配信されている、「ナツノカナタ」をプレイした感想となります。
名前を目にする機会が何度かあったのですが、1年かけてノベルやテキストものを楽しむ気持ちの下地も整いコンテンツの実装も完了したとのことで、夏が始まった今が好機、と判断したのです。

一見するとよくあるテキストアドベンチャーですが、「キャラクターとの対話」「飽きの来ないランダム性」の2点が特徴であり魅力を持っています。
画や音は強調せず、ストーリーやシステムで訴えてくるタイプの作品です。

▲基本的には劇伴があって登場人物の立ち絵とテキストのシンプルな構成

物語をエンディングまで追うだけならさっくりですが、その後も遊んでいける要素はきっちりあるので、無料とは思えないボリュームを有しています。
ということで今回はネタバレなし->ちょっとネタバレ含む深掘り->クリア後ネタバレアリ、と進めながら、感想を記したいと思います。

プレイ期間:7/3~7/11
プレイ時間:12.8h(初回エンディング到達まで)


インタラクティブ・テキストADV

プロローグ

ストーリーは"あなた"の視点で始まります。
"あなた"は祖母の遺品であるコンピュータを発見し、何気なく起動する。
その中の映像データを覗くと、突然見知らぬ少女と通話が繋がる。

▲通話がつながっていることすら気づかないところがスタートライン。

見知らぬ少女・ナツノは"あなた"とはどうやら住んでいる世界が違うようで、彼女のいる世界では人が急に人を襲ったり、何かの物質に変質してしまう感染症によるパンデミックが起きています。
この作品は、そんな世界を"あなた"の指示を聞いたり自ら考えたりしながらナツノが探索し、その日を生きる糧を入手しながら旅をする流れとなります。

再生:探索パート

探索パートでは、探索する場所を選んで、訪れた先で置かれているものを調べていきます。調べる場所は基本的にナツノが判断して決めますが、"あなた"はテキストウィンドウでどこを調べるかを指定することも可能。

▲左下がテキストウインドウ。実際に文字を打ち込める。

調べるとアイテムが手に入ったり、かと思えば感染者の襲撃があることも。
手に入れた食料で空腹を凌ぎ、武器や道具で感染者を退け探索を進めます。

▲何でもないように感染者が現れ、戦う場面も。

探索で見つけたアイテムはクラフトが可能。
食べ物の調理を行ったり、武器や防具、便利アイテムの作成ができます。武器があれば手早く感染者を撃退できますが、壊れるときはあっさり壊れます。一つの武器だけ備えていると、痛い目をみるかも。

物語:エピソードパート

探索パートで条件を満たせば、物語が進みます。
条件には「指定件数の探索」「特定地点の踏破」のほか、「エピソード進行アイテム(そのエピソードに関連しそうな情報)の入手」など様々。
特定地点の踏破においては、かなり広いエリアの探索だったり、中ボスじみた強靭な感染者との闘いなどが要求されることも。

そうして解放されたエピソードでは、なぜナツノと"あなた"が映話(ビデオ通話)できるのか、感染症の原因などを追い求めていくことになります。
時には、ナツノと同様にパンデミックを生き抜く人物に出会うことも。

▲ナツノ以外の主要人物の一人、アカネ。
ナツノのお姉さんポジションで私から見てもカッコいいヒトです

探索をする中で気づいたことや、出会った人々と交流していく中で謎を少しずつ明かしつつ、ナツノの旅は続きます。

そんなナツノは非常に順応性が高い女の子…というのが最初の印象です。
"あなた"と会話ができる異常にも、それと同等の異常が起こっているせいで受け入れちゃうし、誰もおらず孤独な状態でもここまで生き抜いたほど。
そんな彼女が"あなた"と出会い、様々な人と知り合う中でどう変化していくのかが、ストーリーにおけるポイントとなります。

▲過酷な状況でもある種達観した考えを持っていますが、
しっかりと年相応の女の子らしい弱さや未熟さを覗かせることも

サイドエピソード:幕間の物語

メインのエピソードでも他の人物に出会いますが、探索の中で突如見知らぬ人と出会ったり、バッタリ再会したりします。
これがサイドエピソード。一緒に探索を行って、その人となりや旅の目的に迫る内容が描かれます。

▲わたしが初めて遭遇したのはキコ。気弱に見えて根っこは強い子

どの子もナツノとは異なる性格や思想を持っており、ナツノは旅の目的をはじめとして様々なことを尋ねていきます。ネタバレは抑えつつ例を挙げでみましょう。
ナツノはその順応性故か、家族や友達といない中それほど寂寥感に苛まれていませんが、一方キコは家族より離れることが耐え難い存在のために一人旅をしている、というように「ずっと一緒にいたい存在の有無」で対比されています。

それぞれの生きざまを見て、共感したり疑問を感じたり…"あなた"を通してプレイヤーにも感じ入るものがあるでしょう。

概要まとめ

基本的なサイクルとしては、探索パートで条件を満たす→エピソードを読み進める→再び探索パートへ向かう…という流れとなります。
(難易度設定次第ではエピソードだけを読み進めていくことも可能)
テキストと、立ち絵と背景、そして音楽のシンプルな構成。そこにインタラクティブな対話要素とランダム性が加わった、一風変わったテキストアドベンチャー。
冒頭で触れたとおりそこまでクリアに時間はかかりませんし、そのゲーム性からまとめてプレイではなく、毎日少しずつ探検する感覚で遊ぶタイプの作品です。

音楽も、真夏のまぶしさに爽やかさ、緑が揺れる情景を浮かべてくれる、強く主張はしないけど世界に入り込む一助を担っていてよかったです。

そんな作品がなんと無料で遊べる上に最近予定されていた全コンテンツが実装されたとのことなので、この夏を楽しむエッセンスとして遊んでみても良いかと。

ちなみに、"あなた"にはある程度の人格なり思想はあるけれど、特徴はないため没入しやすさはきちんとあるのでその手のことを気にする方も大丈夫。

ここからは、もう少しゲームの要素を深堀りしていきます。
ややネタバレになる部分もあるので、気になる人はここで止めて、実際に触れてみてください。

探索深掘り

"対話"で進む探索パート

探索地に到着すると、そこに何があるか、次の部屋はどんな所か"あなた"視点(青文字)で描写されます。
そのまま文字送りをすればナツノは勝手に探索個所を選んで探索しますが、"あなた"に判断を求めてくることもあります。
かと思えばなにも調べずスルーして次の部屋へと歩を進めることも。
一方でチャットウインドウに調査候補を打ち込めば、ナツノはそれを調べてくれます。(赤文字クリックで自動コピペしてくれます)
そう、探索者の思考にプレイヤーの提案を介入させることが可能なのです。

▲自分で文章を打ち込み取るアクションを伝える場面も

対話要素の入ったテキストアドベンチャーは、私ははじめて触れたため非常に新鮮。あるいは、こういった要素が入って初めてアドベンチャー、と言えるのかも。ノベル要素が多めと思ってたので驚きました。

また、本作には体力と空腹度、そして攻撃力防御力といったパラメータがあります。探索パートの流れも手伝って、TRPGのエッセンスが多分に入っている、という印象を受けました。

荷物:私流探索ガイド

調査地点は、同じところでも前と違うところに繋がっているなど、いわゆるランダムダンジョンとなっています。
その時々で目についた場所を見つけている、ということでしょうか。
安全だった地点に再訪するとモンスターハウスと化していた、なんてことも。
また物を調べたときにダメージを受けたりアイテムを失ったりすることも起こり得ます。探索はいつでもご用心。

▲探索前はきっちり事前確認を。
危険度は調査時のバッドイベントの多寡に関わってそう

とはいえ、安全マージンをとりながら行動していれば、GameOverになることはまずないくらいの難易度です。
私は初見でも探索ミスは起こさず、ヒヤッとした場面もほとんどなかった気がします。(強制戦闘で一度だけ撤退した程度)
なお、エピソード進行アイテムは過剰に取っていれば余剰分が油絵具のチューブに変換されます。
これはいわゆるショップの通貨として利用できるため、積極的に2件以上連続探索して進行アイテムを余剰に発見するとよいかも。
エピソードを即進行させられる場合でも、チューブ目当てに探索を行うのは全然アリ。

武器についてはやはり信頼度。「丈夫な」武器なら数回壊れないことが確約されたり、「初心者向けの」武器なら故障率大幅軽減が見込めます。
とはいえ壊れるときは壊れます。複数武器を持つこと、上記安全性の高い武器を装備することを心掛けたいところです。

▲武器は信頼性こそすべて。無駄にしないためにも壊れにくいものを強化したい

個人的には包帯、食料、武器2種、便利アイテムが荷物のベース構成。
その上で、感染者を追い出せる空き缶、空き瓶、電子ブザー(電子部品×2でクラフト)をいずれか1つ装備し、モンスターハウス遭遇時のお守りとして持っておくとよいでしょう。
装備枠は序盤は少なく心許ないですが、ショルダーバッグなど装備枠を増やすアイテムもあるので、それらの入手までは取捨選択も大事な要素に。

ちなみに、サイドエピソードでしばらくともに探索する人たちは、ナツノとは違うステータス・特徴を持ってます。
ナツノよりお姉さんなアカネは体力もお腹の持ちも優れていたり、小柄なイツカは最初から装備を多く持てる一方ナツノよりお腹が空きやすかったりと様々。探索は各々考えながら好き勝手に行うので、適度な距離感がちょっと面白かったです。

▲戦闘面や探索面、物資面とキャラの特徴も様々

エピソード深掘り

少しずつ明かされる世界

この作品のキモは、実は意外とそれぞれの世界について語られていない、ということ。それゆえ私の中の常識でしか捉えられなかった部分もあり、「お約束」について読みきれたものとそうでなかったものは半々。時折起こる認識の転換が見どころです。

エピソードはナツノや出会った人との会話シーンと、"あなた"のモノローグで進行します。
今回はモノローグだけ言葉に出して読むスタイルを採ったのですが、喋っていると時折発する言葉に違和感があるんですよね。それが後の認識転換に繋がって驚かされました。

▲各エピソードには日付が。時系列の考察が好きなので明示されると嬉しい。
令和、来なかったのか…

シンプルでも伝わる情景

これまでも何枚か貼った通り、画面構成は実にシンプル。
敵対する人物や置かれたモノは描かれませんが、基本的にナツノが自分自身にスマホを向けているためであり、他が映らないからなのですよね。
その代わり、言葉でちゃんと状況を伝えてくれるのです。

▲スマホで映せるのは顔だけでもおかしくないのにほぼ全身の立ち絵が見られる…
つまりこれは、制作者のサービス、ってコト!?(メタ)

また、会話はしているけど立ち絵は映らないときもあります。
その時はたいてい暗い話などをしており、"あなた"に顔を見せたくない、ということが伝わります。こういった心の機微が立ち絵の有無で表現されている点が、シンプルな画面でも多くを伝えてくれていいなぁ、と感じました。

▲とある場面。これだけで、ナツノはきっとスマホを持った手を下ろし、
夕陽を見上げつつ話してるんだろうな、と伝わるのです

「ゲーム」を使った仕掛け

Steamで無料のインディーズで、そこそこ話題に上がる作品となると、「ゲームシステムを用いた仕掛けが施されているのでは?」とつい考えます。
本作もその期待には近い線で応えてくれました。

一つだけ挙げると、「コンピュータに触れないで」と言われ、タイトル画面に戻される場面があります。そのままでは何も進みませんから、プレイヤーは再び「はじめる」を押さざるを得ないことでしょう。
ゲームを「はじめる」と、コンピュータがを起動する…つまり、「プレイヤー視点のゲームウインドウ」=「"あなた"のコンピュータの画面」という図式がここで成り立つのです。
探索などにとどまらず、対話をしていると感じさせる没入感が向上する仕掛けでした。

深掘り編まとめ

本作品はいわゆるシナリオ重視のテキストアドベンチャーなのですが、ここまで見てきたように「対話」「ランダム性」の2点でそれに留まらない個性を獲得していると思います。

▲対話要素の中には、完全自由記述の場面も。
"あなた"は割と我を見せるが、プレイヤーの想いは介在させられる

シンプルながら考えなしに探索すると痛い目を見る奥深さ、選択肢ではなく対話によるフレーバー要素の付加、通話がつながった時には思いもしなかった深い世界観と、この作品だけの魅力がたくさん詰まってました。

プレイヤーも言葉を紡ぎながら、一期一会の出会いも経て、今その時だけのナツノの旅路を見届ける、そんな作品です。

気になった点と言えば…私がプレイした範囲だと男がいない点、探索マップが広くて情報が多くなると辿った地点を振り返るのが少々大変、というくらいでした。
恋愛的なあれそれを気にするよりもこんな世界での漢の生き様も見たいなーって…まだ出会ってないだけ、なのかしら?


この後は、エンディングを経た感想を書こうと思います。完全ネタバレゾーンとなりますのでご注意ください。






【ネタバレ】クリア後感想

エンドロールを見終えてまず思ったのは、そこまでの探索で重ねてきたランダム性が、ラストで世界観全体を構成する「偶然」というキーワードに昇華されたことへの感嘆でした。

▲最終的に辿り着いた結論は、ひどく呆気ないもので

"あなた"が物語を想像していたように、私もプレイしながらこの世界の真実について空想、予想をしていました(ナツノたちの世界がPCの中の箱庭ってことしか当たらなかった)が、真実が見えてくることでそれらが「ただの偶然」に塗りつぶされていく衝撃と脱力を、何度も味わいました。
ヒトはしばしば、その時点で得られた情報で真実とは全く異なる可能性を描いてしまう…というのを作品内で見事に突き付けてくる流れは本当に見事でした。

▲モノローグは声に出して読んだと書きましたが、
ここの文を読んだ以降の私自身の混乱っぷりは忘れられません

"あなた"との対話を経て、自分の思いに揺さぶられながらも最終的にナツノが辿り着いたのは、結局よくある答えでした。
初めて通話が繋がった頃から状況は一切変化がなく、真実の一端を知ったに過ぎません。それでもナツノは前を向けるようになった。ナツノの物語としてはきっちり区切りを付けられたのかな、と思います。

▲変わらぬ探索、でも確実に変わったナツノ。
"あなた"と向き合えたこの会話にとうとう目が潤んだ

すべての謎が明かされないといけないタイプの方だとこの終わりは辛いかも、とは感じました。私としては感嘆にも謎にも余韻があってよいと思うので、ナツノの変化を見届けられた時点で満足です。
まあ、こんな世界だから、それこそ「偶然」感染症の進行が止まるかも知れないのですしね。

▲エンディング後前提のサイドエピソードもあるのでそこで迫れるかも?
祖母へ想いを寄せるイツカの心は救ってあげたい

最後にナツノについて。
私もパンデミックの影響は少なからず受け、日々の生活で寂しさは感じる機会は多かったため、ナツノの気持ちに共感できる場面が結構ありました。一方、私は新しい環境にはすっと順応できないので、彼女のひとまずの割り切り力が羨ましい…それを特技や強味といっていいのかは、わからないけど。

"あなた"との旅を通して、ナツノが幾分か素直に寂しさなどを吐露できるようになっていったことが、プレイを通して伝わりました。そんなナツノは今、"あなた"をどう思っているのだろう?
わたしとしては、彼女が生きていく芯を見つけられるまで、話し相手になってあげられたらなー、といった感じでございます。

▲エンディングでイラストが変わるの、とても好き

「ナツノカナタ」というタイトルが、エンディング後も続く旅に込められているのが非常に良かった。
ずっと続いていく夏の物語。探索としてはむしろここからが本番なのかな。
難易度の高めな依頼やサバイバル的チャレンジなどが増えているので、一度クリアしたら終わり、なんてことがないのが良き。
未開放の要素が想定以上にあったので、ひとまずはサイドエピソード全開放を目指し、この夏を過ごすお供としてナツノの様子を時折見に行こうと思います。

▲コンピュータにガタが来るみたいな展開が一切なし。
案外世界はああ見えて丈夫らしい

ガイドじみたことから感想まで、例によってひとつの記事に詰め込んでなかなか長くなってしまいましたが、こんなところであと語りはおしまいにしたいと思います。

ちまちまと遊んだゲームの感想を記事にしていますが、ただ遊んだだけで終わりにせず、その良さを伝えることはもちろん、その作品で得た感情や経験、知識などなどを自分の心に繋げたりできたらと思って続けています。
本作に触れて、一ゲームに対して偶然手に取ったで終わるのではなく、自分に連なる何かを見出していきたいものだな、と思いを新たにできたと思います。

それでは今回は、この辺で。
お付き合い、ありがとうございました。

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