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ディアスキンの魅力

ある日、『ディアスキン鹿革の殺人鬼』を観ました。私の目の前の世界が変わったぐらいに面白かったのである。しかし、なぜか知名度も低く、色物映画と勘違いされ面白くなさそうな雰囲気が漂っている。確かに興味のない人がいるのも当然である。ではなぜ、私は面白い、好きだなと感じたのか。
なぜ私が観ようと思ったのか…それは『地下室のヘンな穴』という映画の存在を知り、同じ監督でポスターに惹かれなんと上映時間が77分と短かすぎる映画であったからである。正直全く期待はしていなかったがまんまと騙された。とても面白い。
カンタンにあらすじを言うと普通のおっさんが鹿革ジャケットに魅せられる、だけである。
まず、私は冒頭からオープニングにかけての流れが好きだ。冒頭ではほんとに何を言っているのか分からない。しかし、唖然とした状態でいきなり洒落た音楽と同時に車を運転する主人公が登場するのである。その兼ね合いが非常に心に響き渡るのである。

冒頭


次に、登場人物たちの掛け合いだ。私は掛け合いや会話のシーンははっきり言って苦手だ。しかし、そんな私でも、とても引き込まれる会話があった。なんとパルプ・フィクションの話をしているのである。その話を『燃ゆる女の肖像』のアデル・エネルと『アーティスト』のジャン・デュジャルダンがしているのである。詳しくは言えないが本当に面白い。しかもフランス語の耳への響き方が私は好きだ。
あと、劇中ではヴァイオリンかピアノのような楽器の不穏な音楽が所々で流れる。画面とのマッチが非常にいい。それがシュールさを漂わせている。
しかし、映画の面白さももちろんあるが、この映画には独特のテーマも存在する。メタファーとでも言うのだろうか。一見普通のただのおっさんが、鹿革ジャケットを着て悩殺だとか言ってる映画ではあるがそこにはナルシズムのようなテーマがあるのではないだろうか。ナルシズムとは一見ありふれてないようにも見えるが実際は結構普遍的なことだと感じている。
今世代の若者はどうであろうか。髪型や服装にファッションを求め雰囲気イケメンという言葉さえ普及するようになった。さらには、コロナ対策でみんな着用するであろうマスクにお洒落を求め、今では様々な色や形のマスクがある。もちろん私に関係がないとは一概には言えなくなっている。私も最近肌や服装は気にするようになった。人間はそうして自分をよく見せようと努力している。しかし、越えてはいけない一線が存在するのだろう。この映画の主人公は自分をよく見せようと殺人鬼と化し狂気に囚われてしまうのである。
このように、この映画は主人公が鹿革ジャケットに囚われ、さらには人間の内に秘めた狂気的な部分が出てしまったというそんなテーマを描いている。人間の欲望が一線を超えてしまうと自分を貶めることになるというある意味戒めということでもあるのだろうか。ナルシズムなんて何をしようが勝手ではあるのだがもうちょっと自分の身を考えたほうがよさそうだ。

TheEND

追記:この監督カンタン・デュピューは絶対にクエンティン・タランティーノに影響受けてる。

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