CTO・VPoEのキャリア〜技術の力で事業を推進するCTOを目指して〜 株式会社estie取締役CTO岩成達哉氏
CTOのキャリアでは様々な企業のCTOにインタビューを行います。
どのようなバックグラウンドがあり現在CTOとして活躍しているのか、CTOとして何に向き合っているのか、過去のキャリアから現在の仕事まで深くインタビューをします。
今回は不動産tech企業である株式会社estieの取締役CTO岩成達哉氏にインタビューを行いました。estie社は、「産業の真価を、さらに拓く。」というPurposeを掲げ、企業の価値創造の心臓部であるオフィスをはじめとする商業用不動産業界のデジタルシフトを推進するために様々な挑戦を行っています。ぜひご覧ください。
estie社のCTOに至るまでのキャリアについて
Startup Tech Live(以下STL):まずはじめに、岩成さんの今までのキャリアについてお伺いさせてください。
estie 取締役CTO 岩成達哉氏(以下岩成):簡単に言うと、高等専門学校(以下、高専)時代の卒業研究をきっかけに修士1年で起業して事業開発の難しさを経験した後、新卒Indeedへ入社。その後estieにジョインしています。
高専時代から遡ってお伝えしますね。
高専での卒業研究で、ブロックを並べてプログラムを作るとロボット(レゴ社のマインドストーム、LEGO® MINDSTORMS®)が走るというビジュアルプログラミングを用いた教育系のアプリを作りました。
それをローカルなビジネスコンテストに出したところ、高い評価をいただきました。また、審査員のお一人に日本のレゴ社の代理店と繋がりのある方がいて、東京の代理店の方を紹介してくれました。代理店の方と話をしていく中で、受賞したプロダクトをパッケージとして作って売っていこうとなりました。
STL:はじめから学生起業というかたちで、事業として進められたんですか?
岩成:当初は、学生のサークル活動みたいな感じではじめましたね。
もともと私は、島根県の高専に通っており、東京大学に2年次編入しました。そのタイミングで上京し、まずはレゴ社のマインドストーム用の教育パッケージを開発しました。
当初は、レゴ社のロボットを使っていましたがそれも自分たちで作ってみようと決めて、最終的にはアプリケーション、カリキュラム、ロボットの3つをセットにして販売しました。一番初めのお客さまは、青山にある技術館ですね。そのときに法人化しようと決めて修士1年のときに起業しました。
最初は私だけでやっていましたが、法人化するまでに最終的には6人くらい長く関わってくれましたね。法人化はしましたが、私も含めてメンバー全員が卒業をして各々就職しました。そのため開発が思うように進まず、メンテナンスがメインとなり最終的にはその事業自体を閉じることになりました。当時はスケールさせていく難しさを感じましたね。
元々はたくさんの人がプログラミングできる世界をつくりたいと思っていて、子供だけでなく例えば高齢者の方にも使ってもらえるものになればいいなと思っていました。まず興味をもってもらう必要があるのでロボットはちょうど良かったのですが、あくまでHowの一つなので必ずしもそこにこだわる必要はなかったのかもしれません。
私自身事業をスケールさせていくノウハウや信念も弱かったと振り返って思いますね。
この頃は事業をやってみたいとそこまで強い思いは持っていなくて、色々なことをやってみたい、選択肢を増やしていきたいと思っていたので、そういう意味で起業は経験したいことの1つではありました。
自分たちでロボットを作ろうとなったのも、やりたいことをベースにそれを実現していった形になります。
STL:新卒はリクルート(Indeed)を選ばれたと思いますが、それは「色々なことをやってみたい」「選択肢を増やしたい」という理由で決められたんですか?
岩成:まず、リクルートに入社するというよりもIndeedに入社するということで決めました。
当時のリクルートはいくつかキャリアコースがあり、大体は入社した後に配属が決まるものでした。しかしグローバルエンジニアコースのみは、当初からIndeedにいくことが決まっていて、その選考を受けていました。
Indeedを希望していた理由はいくつかありますが、エンジニアリングスキルをさらに磨いていきたいというのが1つです。
質問いただいたように選択肢を増やしたいという気持ちもありましたね。エンジニアとしてずっと続けていくかどうか決めていなかったので選択肢は多いほうがいいなと思いました。当時のリクルートは出向してから違うグループ会社に行くということも頻繁にあったので、長いキャリアの中で色々なチャレンジができる環境は魅力的でした。
Indeedに入社した後は、ウェブ上の求人募集情報を集めて提供するデータパイプラインの開発に従事していました。
STL:Indeedで活躍する中でestieとの出会いは?
岩成:Indeed自体、非常に良い環境でやりがいもあったので転職は全く考えていませんでした。もちろん長い人生の中で、もしかしたらキャリアチェンジをするかもしれないからいろいろな会社を知ってみようとは考えていましたが、今すぐに転職をしたいという考えは全くありませんでした。
転機はコロナでした。Indeedで仕事に打ち込む中で、コロナの影響により全くオフィスにいかなくなるタイミングがやってきました。リモート勤務になり、リアルのコミュニケーション機会が減って成長曲線がなだらかになるのを感じ、自分の成長を考えたときにもっと急成長できる経験をしたいと思い始めました。
当時は転職ではなく、副業としてスタートアップに関わることを考えていましたね。たまたまそのときに知人からestieを紹介され、代表の平井と当時のCTOと話をしました。それが2020年1月頃ですね。
その後、業務委託エンジニアとして関わりはじめました。
業務委託ではありましたが、全社的にスクラム開発を推進したり、コードテンプレートを整えたり結構色々やらせてもらいました。エンジニアリングマネージャーのようなこともやりましたね。その後オファーをもらいestieに正式にジョインしたのが同年の10月です。
Why this company?
STL:転職を考えていなかった中でestieに決めた一番大きな理由はどんなところですか?
岩成:自分の成長曲線を考えたときにestieであれば様々なことに挑戦できるだろうと感じました。3年Indeedにいるのと3年estieにいるのではどちらが成長できるかというところで後悔のないほうを選んだことを覚えています。あとは、貢献できることが大きいと感じたところですね。
一番はじめに平井と話をしたときにビジネスサイドがすごくしっかりしているなと感じました。自分自身が事業スケールの難しさに直面した経験もあり、この人たちはスタートアップ初めてなのになぜこんなにもよく考えられているんだろうと思いました。
esiteであれば事業を成長させていくための経験もできると強く感じましたね。
不動産業については正直なところ全く知りませんでしたが、話を聞いてみたらものすごく面白いという印象を持ちました。そして、ビジネスモデルがIndeedに少し似ているなとも感じました。
Indeedは世界中の求人データを統合していますが、estieが目指しているのはその不動産版ということで自分の経験を活かせると思いました。
代表の平井の印象も大きいですね。うまく表現するのが難しいのですが、彼が言っていることはなぜかわからないけど実現できる気がするんですよね。根拠があるわけではないですが、平井が言っているなら大丈夫でしょ!と感じることが多く、一緒に働きたいと思いました。
STL:業務委託でestieに関わっていたときと、正社員でジョインした後でマインド的になにか変わったことはありました?
岩成:そこの変化はあまりないです。副業だとオーナーシップに欠けてしまうと聞きますが、私自身そういった考えは全くないですね。開発に関わるということは、プロとしてオーナーシップをもってプロダクトを作ることだと思います。
当事者意識をもって自分のコードに責任を持つ、だから中途半端なものは作らないという考えがあるのでマインドの変化やコードの質に変化があることはありませんでした。関わる時間が増えたのでよりコミットできるようになったというのが一番の違いだと思っています。
入社後CTOになるまでの経歴
STL:岩成さんはestieに正式ジョインした当時CTOではなくVPoPでしたよね?
岩成:はい。入社したときはVPoPでした。PdMとしての経験はありませんでしたが、プロダクト・事業作りに深く入ることに興味があったので挑戦を決めました。
当時からVPoEとして青木(青木信)がおり、枠にとらわれずに挑戦をするためにもVPoPとVPoEの責務は明確にしておこうということで、どう役割分担すべきかについては青木、平井、私で相談しました。
VPoPとして、当時のestieはまだ着手できていないことも多く、非常に広い範囲で課題解決をしてきました。
例えば、既存のプロダクトが2つありそれがどう繋がっているのか言語化できていなかったので改めてプロダクトロードマップを作成しました。その他、プロダクトにおいてのセキュリティ観点で規定をまとめたり、QAプロセス・体制の構築を行ったり、さまざまなことを進めてきましたね。
QA体制を構築することはエンジニアリング的な要素が多いと思われるかもしれませんが、QA体制を整えることで毎日リリースができる状態になり、それが最終的にはプロダクトグロースに繋がることなのでQAの重要性や役割の伝搬など文化づくりにもトライしました。
今でもそうですが、毎四半期・毎月・毎週と自分が会社にとって一番レバレッジを効かせられるところはなにか考えています。当時も今以上にレバレッジを効かせられることは何かを考える中で、だんだんとVPoPよりもVPoEのほうがインパクトが大きいのではないかと思うようになりました。
プロダクトマネジメントの体系的なところはチーム全体に落とし込めてきていましたし、PdMが立ち上がっていたのでプロダクトの方向性を決める意思決定はPdMに委譲しVPoEに役割を変えることを決めました。
STL:estieの場合すでにVPoEには青木信さんがいると思いますが、2名体制ということですか?
岩成:はい。2名体制は珍しいですよね(笑)2021年の3月にVPoEを2名体制にしました。
青木信とは、技術マネジメント(岩成)、組織マネジメント(青木信)と切り分けました。とはいえ、組織とアーキテクチャは切り離せないので組織作りにおいては一緒にやっていました。
技術マネジメントはTechnology Leading、組織マネジメントは、Operation Managementという名前で役割分担をしていましたね。
STL:CTOになられたのはいつ頃ですか?
岩成:CTOになったのは2021年8月です。1年10ヶ月ほどCTOは不在でした。
それまではCTO不在でも開発組織がそこまで大きくなかったのでなんとかなっていましたが、だんだんと開発組織が大きくなる中で無理のある開発プロセスになったり、認識のズレが生じたりといくつかの問題が発生するようになりました。
さらなる事業成長を加速させていくためには、開発体制の構築や、あるべきチームの姿を描く必要があるよねという結論に至りました。
STL:岩成さんがCTOになるというのはすぐに決まったのですか?
岩成:そんなことはありません。当初は新しくCTOの方を採用しようとたくさんの方にお会いさせていただきました。みなさん非常に素晴らしいご経歴でした。
一方で今までの課題や文化を把握しつつ、スピード感をもった意思決定をするためには社内メンバーから選ぼうとなり、私に白羽の矢が立ったような感じですね。
STL:ご自身では、なぜ自分に白羽の矢が立ったと思われますか?
岩成:これはあくまで私の考えですが、入社してからQAの体制を整えたり、プロダクトロードマップを整理したりと開発組織全体の課題解決を推進していたのでそういった点ではチームからの信頼は得ていたと思います。
また開発組織の将来像というかあるべきチーム体制について前職の経験もあり自分なりのビジョンを持っていたところも大きいと思います。
Indeedは成長しているテック企業であり、そこで成長するための1つの「型」を経験できていたことは非常に良かったと感じています。
STL:2020年1月estieで業務委託スタート、2020年10月VPoPとしてジョイン、2021年3月VPoE就任、2021年8月CTOとさまざまな役割の変化を経験されてこられましたね。
CTOになったことで大きな変化はありましたか?
岩成:正直CTOになったからといって大きな変化はありません。estieの場合はその役割をやっていたら役職がついてくるということが多いからです。強いて言えば、管掌範囲が広くなったことでより強い組織・カルチャーをつくっていくことに意識が向いたということはあります。
それはCTOになったというよりも部門を任せてもらったという意味合いが強いかもしれません。
VPoPのときはPdM、VPoEのときはエンジニアリングだけだったのですが、エンジニアリング・デザイン・プロダクトと3つのセクションをすべてみるようになったので全体の組織設計を考える時間は増えました。
それよりも取締役になったことは大きな変化がありましたね。まだまだ不足している点もあるかもしれませんが、取締役として経営者目線を持つということは変わりました。
STL:具体的にどういった点が変わりました?
岩成:自分の中にあるCTO像ともリンクするところですが、やはり技術の専門家として事業を進めることが重要だと思っています。
この課題を解決できますか?という問いに答えること自体、スピード感としては遅いと思っています。受け身ではなく自らが課題に気づき、この技術的な課題を解決することで事業が大きく前進するから解きにいこうと意思決定することが必要だと思います。まだまだ未熟ですが…(笑)
個人的に周囲からフィードバックをもらって改善していくことが好きなので、たまに社内のメンバーに自分に足りないことはどんなことか?と投げかけるのですが、先日3人から同じようなフィードバックをもらいました。「もう少し好き勝手やってもいいのでは?」というようなフィードバックです。好き勝手というのは、経営者はロジックだけではなく「これがいいと思うからこうしよう!」と発言し、それを実現することを意味していると思います。
自分もやりきれていないので手探りではありますが、自分でこれだと思うことを示し、実現できる強さは必要だと思っています。今後は身につけていきたいところですね。
STL:今までよりも事業成長にコミットする意識が増えた中で、ビジネスサイドの経営陣とのコミュニケーションは何か変わりましたか?
岩成:そうですね。プロダクト作りは、つまりは事業を作ることなのでCTOになる前からよく代表の平井とは話をしていましたが、取締役の束原とのコミュニケーションは増えました。
それぞれが部門を持つようになったので部門をどう成長させていくか、開発部門と事業部門はどう連携していくのがいいか、全社的なカルチャーをより強化していくためには何をすべきか、といった話をすることが増えました。
以前のestieはまだ社員数も少なく”部門”を設けるフェーズではありませんでしたが、ある程度社員が増えてきて組織をしっかり作っていかないといけないフェーズになってきたので組織作りにおいて話し合うことが増えましたね。
STL:岩成さんのCTOの役割として、事業成長のために経営陣と部門の橋渡しをするようなこともありますか?
岩成:はい、少ない人数なので経営と執行が明確に分かれないのが要因ですが、今まではまさにブリッジ的な存在として動いていました。けれど今はその役割をVPoP/VPoE/VPoDに任せ始めたところです。
各セクションに落とし込み、それぞれのセクションの成長を加速するためには自分よりも各リーダーに任せたほうが組織としてスピード感のある意思決定ができると思いました。あとは自分の時間を他に使うことで全社の成長としてプラスだと判断しました。もちろん採用にはコミットしますが、今の組織をより強い組織にしていくことについては委譲してきています。
CTOとして一番向き合っていること
STL:今は一番何に時間を使っていますか?
岩成:未来のestieをより加速させていくための新しいプロダクト開発にコミットしています。今年の1月に、今よりももっと会社を伸ばしていかないといけないよね、と経営陣全体で反省したことがありました。そこで新しいプロダクト開発をプロジェクト的に動かしておりそこにコミットしています。
コミットの仕方としては今はコードを書いていますね。
おそらく1、2年後でもいいことだと思いますが、事業的にも技術的にも将来必ずぶち当たる壁が見えているので、前倒しで取り組んでいこうと意思決定しました。
そこに向き合うことで将来的には全社にとって大きなインパクトになると思っています。
とはいえ、これだけではなく他にも時間は使っています。既存事業の事業部CTOとしても最近はプロダクトのコードを書いています。
また、estieはマルチプロダクト戦略を実現するため、Whole Product構想を掲げているのですが、複数のプロダクトをうまく機能させるための技術選定もやっています。
できれば、新しいプロダクトを伸ばすことに向き合いたいと思っており、事業部CTOやWhole Product構想の技術選定は他のメンバーや新しいメンバーに委譲していきたいですね。
全社の事業成長を考えたときに、新しいプロダクトのソフトウェアエンジニアとしてではなく、PL責任を持ち新規プロダクトに関わる事業全体を成長させることが重要だと思っていますし、自分の成長としても重要だと思っています。
STL:事業部CTOとありましたが、estieの場合全社CTO(今の岩成さんのロール)と事業部CTOは別に置かれるのですか?
岩成:はい。現在複数の事業が存在していますが、事業部CTOは私も含めてCTO/VPoEが兼務しています。全社CTOと事業部CTOは何が違うかと言われたら正直まだ考え中なところもあります。
現時点の考えだと、全社CTOは複数の事業をバランスよくみて全体のプロダクトの課題を解いたり、各事業を繋いでいく上で何が重要かを意思決定する存在かなと思っています。
一方で事業部CTOは、1つの事業にコミットし事業の最大化を考える役割かなと思っています。
estieの場合1つの事業が生み出す収益が非常に大きく、1事業で1社分ぐらいのインパクトがあります。そのため全社CTOと比較して事業部CTOは管掌や意思決定の範囲が狭いということは全くありません。
Whole Product構想を実現する上では、全社CTO&事業部CTOといった背中を預け合う体制にしていくことがベストだと考えています。
これからさらに事業・組織成長をする上では、まず自分は次の新しいプロダクト(事業)を伸ばすことにコミットするため、既存事業は事業部CTOに委譲していきたいと思っています。
また、estieは役職よりも役割(なにをするか)を大事にする人が集まっており、新しい方が自分よりも現在の役職をやることが良いのであれば変わるべきだと私も思っています。
事業部CTOのポジションや考え方に興味がある方がいらっしゃれば、ぜひ気軽にお声がけください。
実は今年の1月からestieは再度VPoEも2名体制にしました。詳しくはこちらをご覧ください。
今後もフェーズや規模により体制は変化をしていくと思います。そのときに一番良いかたちを考えて実現していきたいと思います。
ー編集後記ー
「会社にとって一番レバレッジを効かせられるところはなにか考えている」という言葉が非常に印象的でした。当事者意識で事業に向き合い本気で課題解決を考えている岩成氏だからこそ様々なミッションを任されてきたのではないでしょうか。
またVPoE2名体制、全社CTO&事業部CTOといった体制は他のスタートアップでもあまり見たことがありませんでした。
「役職よりも役割(なにをするか)を大事にする」メンバーが集まり、事業成長を一番に考えたフレキシブルな意思決定ができるestieだからこそ実現できる形なのかもしれません。
estie社にご興味のある方はこちらをご覧ください。