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自宅出産のお話

 休載のお詫びではないのだが…、このところ日本語学校(2学期制)の秋学期が始まったばかりで、準備に追われている。今までの春学期は原則1コマ(計3時間)だけだったのが、今は3コマに増え、しかも初級だけでなく中上級もあるので、読解など教え方が難しくて四苦八苦している。放電ばかりで充電が追いつかないなんて、現役時代みたいだ。
 ここに書きたいネタとしては、大阪大学主催の小川洋子さんと金水敏さんの対談を聴いた感想とか、いくつかストックがあるのだが、メモが整理できていないし、あまり作品も読まずに言及するのは失礼だと思い、それは控えている。
 そんな中、旧友から連絡があり、久しぶりに会うことになった。天は二物を与えず、という言葉があるが、この人は建築家で漫画家という才のある人で「与えとるがな!」と言いたくなる。
 20~30年ぶり?に飲みながら話していたら、わが家の自宅出産話をずいぶん面白がって聞いてくれた。産まれた頃はミニ講座のような場所で話したり、女性情報誌に掲載されたりしたが、久方ぶりにウケたので記憶を反芻してみるのもよいかと思い、新たな話題ではないのだが、つなぎとして入れておきたい。私と妻のコメントを並列しただけなので、かなり重複しますがお許しを。

◇私のコメント

 出産する場所は、いま病院・助産院などの施設内が99%を占めています。うちの子どもたちは3人ともここに含まれておりません。全員「自宅出産」です。こう言うと「間に合わずに家で産まれてしもたんか?」とよくきかれますが、そうではなく計画的なものです。
 実は、私の連れあい自身が助産師でして、婦長さん(当時)や同僚に来てもらうことができたからです。最初は、私が逡巡している間に妻にうまくもっていかれた感じでしたが、よい経験をさせてもらったと思っています。
 もちろん準備はいろいろとやりました。ビデオで学習したり、病院のような器具を各種とりそろえて、それでも病院よりは格安に産めました。
 一人目のときは、畳の部屋で産んだのですが、いきむ時につかまるところがないんですね。助産師さんが「だんなさんのベルトにつかまりなさい」と言うので、私がひざをついて上にまたがったんです。
 そうするといきむ時はものすごい力なので、こちらも腰に力を入れないと引きずられます。ましてや下が畳なので滑りそうになります。すると、お産の律動が来るたびに私も一緒になって「うーん」と踏ん張る。まるで私がお産しているような錯覚に陥りました。そんなわけで、産まれたときは自分が産んだかのようにうれしく、「やれやれ」といった感じでした。
 二人目、三人目のときは四つんばいだったので、妻の腰をさすったり、うちわで扇いでいました。へその緒を切ったのは、上の子が助産師さん、真ん中の子が母親自身、下の子は私です。
 でもやっぱり、一人目の時に一緒に踏ん張ったことは、何物にも代え難い貴重な経験でした。(2008年6月27日、花園大学の授業にゲスト出演した時の記録より)

◇妻のコメント

 自宅出産の経験をもつ上司の影響で、自然なお産をしようと思うようになりました。お産にリスクがあると自宅では産めません。妊娠中リスクの無いように過ごしていたら、お産のときのリスクは少ないので、絶対に自宅でと決めていた私は、正常な状態を心がけ、お産を迎えました。ですから不安はありませんでした。
 一人目は、仰向けの状態で産みました。支えは、夫。馬乗りのような形になってもらい、腰のベルトをつかんでいました。いきむタイミングで力を入れるので、夫は引きずられないようにふんばってこらえていました。ですから波がくるたびに二人でいきみ、産んだような感じでした。
 二人目と三人目はソファーにもたれかかり、四つんばいの状態でしたので、重力に逆らわず、スルッと出てきてくれました。体に力を入れる必要がなかったせいで、産後の母体もとても楽でした。
 二人目以降、上の子も側についていてくれ、「がんばれ」と声をかけてくれたり、うちわで扇いでくれたり。特等席にかまえ、頭が見えたら「やったー!」と。
 子ども達も様々なことを感じてくれています。自宅だからこそ一緒に体験できたし、家族が増えた瞬間から一緒に生活しています。
 誰にでも自宅出産を勧めるつもりはありません。家族の理解や協力は絶対に必要ですし、妊婦自身も勉強をして、お産のことを知っていないと産めないからです。産前学級でも話すのですが、少子化の時代、産む機会が減ってきて一回限りのことかもしれません。後悔しないお産をするためにも、妊婦生活を楽しんでほしいのです。(2003年7月1日、大阪市立男女共同参画センター「クレオ大阪東」発行、「本の森」コラム)
 
 後日談を加えると、二人目の出産を目撃した当時3才の息子の話。陣痛が始まっても、お客さん(助産師さん)が到着しても、我関せず、と「ドラえもん」を見ていた彼。まわりが「もう産まれるよー」と言い出すと、くるりと向きを変えて、母親の両足の間に入り込み、間近で一部始終を見た。
 その夜、息子と風呂に入っていると、息子がさめざめと泣いている。どうしたん?ときくと、「僕もね、大きくなったらね、お腹が痛くなってね、血がいっぱい出てね…」という。「大丈夫、男の子は赤ちゃんを産まなくていいんだよ」となだめたが、ちょっと刺激的すぎたかな、と反省もした。
 でも、その後は、3人目の出産にも立ち会ってくれたし、きょうだいの中でも一番、のほほんと育っていったので、影響はないだろうと思う。いつか子どもたちのコメントももらわないといけないな…。