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ビートルズよもやま話2

 中秋の名月をゆっくり眺めたのは何年ぶりだろう。
 私がぼんやりしていると、助産師の妻がくたびれて仕事から帰ってきた。「やっぱり満月の威力はすごいわぁ…」とのこと。お産が多かったらしい。なんだか物思いに耽っていて申し訳ない。

 小学校だか中学校だか忘れたが、満月とススキの版画を彫った。満月はただの真ん丸になってしまうので、ススキを月にかぶらせてアクセントにした覚えがある。自分としては上々の出来だったが、保存しておけばよかったなぁ、もはや今では手先が老化しているので作れまい…。

 夜の話といえば、時々「ヒア・カムズ・ザ・サン」という小さなライブハウスに行っている。いくつかのハウスバンドが交代で、ビートルズだけを演奏する、ジョージの曲そのままの店名。ちなみにジョージには「ヒア・カムズ・ザ・ムーン」という曲もあり、以前、そのイントロを私は留守電の待ち受けにしていたが…。

 話を戻すと、ここと同じような店で、かつて梅田の外れにあった「キャバン・クラブ」は、私が大学に入った年にオープンし、学生には少々お高い店だったが、足繁く通った。
 もう閉店して何年も経つが、ここでジョージ役だったシューヘイさんがオーナーになって「ヒアカム」をつくり、コロナ禍を乗り越えて5周年を迎えたとのこと。
 バンドで演奏するのと経営するのは大違いだし、しばらく前は、厨房にも立ち、演奏時間になると出てきてギターを担いで、それはそれは大変そうだった。

 梅田にキャバン・クラブがあった頃は、オールディーズのライブ専門のケントスもあった。後年には、お初天神通のロンドン・タウンとか、茶屋町のボニーラもできたが、これらは長続きしなかった。
 グッズ販売だとゲット・バックという店もあった。そのあたりには後にジャニーズショップができた。しかし、それすら今はない。諸行無常である。

 先日行った時にジョン役だったトミーさんは、Tommy's GLASS ONION TV というサイトで、ビートルズなどの吹き替えを関西弁でやっており、これが実に面白い。世の中には器用な人がいるものだ。
 リンクを張ってもよいのだが、これはただの「公開日記」なので、ご興味あれば「ガラスのタマネギ」で検索してください。

 こういうライブの合間のMCを聞いて、いろいろとエピソードを教わった。その他、学生時代にはありとあらゆるビートルズ本を(立ち読みを含めて)読んだつもりだった。
 しかし、それから40年近く経つと、歴史というものには新発見・新事実が出てくる。時々あるのは、本人のインタビューに基づく資料が、客観的に見てどうやら勘違いだろう、というケースだ。

 以前も書いたが、日経BP社の『ザ・ビートルズ全曲バイブル 新版』をぼちぼちと読んでいる。
 この本は、コンピュータ解析までして、サウンドがどう作られたか、誰が何を演奏し、どのテイクが採用され、どうテープがつぎはぎされ、スピードを変えたり、加工されたかが、克明に記してある。
 ここまで分析・解体されたらかなわんな、と思いながら読んでいるが、データ解析の他にも「楽曲解説」「レコーディング」「史実」などの章立てで全曲のコメントがある。
 音楽や録音について無学な私には難解な本なので、まだ読了していないが、自分の知らなかったこと、思い込みやまちがいにいくつも気づいた。例えば…、

*And Your Bird Can Sing の Take 2 で、ポールが笑い転げているのは、直前に交通事故で歯が欠けたポールのことを、ジョンが "When your bike is broken" と替え歌にして揶揄ったから。
*She Said She Said の時はジョンとポールが口論して、出て行ったポールの代わりにジョージがベースを弾いた(この時すでに!)。
*Sgt. Pepper の頃からポールは、割とよくリード・ギターを弾いている。
*I Am the Walrus の間奏が1小節多い版は、(Rarities などで)結構早くから出回ったが、テイクの数としては少ないもの。
*White Album の I Will は、ベース音を楽器ではなく「口ずさんでいる」のだが、(私はそんなことをするのは、てっきりジョンだろうと思っていたら)ポールが全部やっている。
*Ob-la-di Ob-la-da は、とても幸せそうな歌詞の割には、なんだか声が狂気じみて聞こえるので、もしかして「家庭の幸福」をバカにしているのか?と思っていたら、テープ・スピードをわずかに変えていたとのこと(さすがに太宰治ではなかったな…)。

 すみません、マニアックすぎるので、これくらいにしますが、「へえー!」と唸ってしまう。
 この4人組は、あの時代にあって、おそるべき才能を発揮した( G.Martin を含めたら5人組か)。でも、今になってもこうして商業的に丸裸にさせられるのは、なんだか気の毒だ。
 それからジョンの神格化はやめてほしい。彼が手のつけられない「不良」であって、しかも今でいうDV夫というのも公知の事実だ。後年に、愛と平和を謳ったからといって免罪されるわけでないことは、本人が一番わかっていただろう。

 しかし、それにしても、時代的制約があるがゆえにだが、謎があったり、いまだに夢を与える特質をもつということは、やはり稀有なバンドなのだと思う。