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絵本作家 降矢ななさん

 若いときにピースボートに乗ったと書いたが、まだ始まって2年目のときで、今の「世界一周」などとは違う、純粋な戦跡巡りツアーだった。一度しか乗らなかったが、多士済々というか魅力的な乗客が多く、今も同じ船室のかたとお付き合いさせていただいている。
 当時のことでは、漫画家の石坂啓さんと話したり、まだ公開まもない『風の谷のナウシカ』を船内で観たり、まだ酒税が高かった「シーバス・リーガル」を飲んだりしたこと等々をおぼえている。

 なかでも、わずかな接点ではあったが、デビュー前の降矢ななさんと出会っていたのは、あとから考えると貴重な経験だったと思う。
 もの静かな人で、乗船者の動きをじっと観察されていた。そして、部屋の隅にひっそりとたたずみ、ずっと絵を描いておられた。
 たしか似顔絵だか数人まとめてだか、描いたものをもらったように思うのだが、残念なことにもはやどこへ行ったかわからない。

 最近、『絵本作家 降矢なな』(共同文化社、2023年)という本を、図書館で借りて知ったのだが、私が会った翌年に、長谷川摂子作・ふりやなな画『めっきらもっきら どおん どん』(福音館書店、1985年)でデビューされていたのだった。
 この絵本には、うちの子どもたちみんながお世話になった。何度も読んだ(読まされた)おぼえがある。さらに、同じく長谷川摂子さんとの『おっきょちゃんとかっぱ』もなじみ深いし、極めつけは、内田麟太郎さんとのコンビの『ともだちや』シリーズ。結構大きくなっていたのに、息子が好きだったような。
 お話の絵本なので、流れや動きを感じさせる画が必要だが、それが上手だし、構図や色使いもおもしろい。もう一つ、この本を読んで知ったのだが、『たびにでよう』などは、一枚の作品を4色4版に書き分け、版画のようにオフセット印刷していたという。カラースキャナーなど自動化の時代に、手描きとはびっくりである。

 長らくスロバキアに住まれ、チェコの民話を素材に『ヴォドニークの水の館』なども描かれている。水の精というのは、いろいろな作品で目にする。東欧で何か共通項などあるのだろうか。映画『水を抱く女』(ドイツ、2020年)をふと思い出した。学生時代、ドイツ・ロマン主義に傾倒したこともあるが、もはや忘却の彼方なので、また改めて調べ直したい。