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勝手にファンタジー小説。ハロウィン選挙⑥

朝になった。
何事もなく朝を迎えられるのって素晴らしいことだなって思う。

結局サントのおかげで私の身はだいぶ守られているのだ。
...多分。

今手元に飴はないが、確実にサントが保管してくれているだろう。
まあ、たった1個の飴だけど、私にとっての大事な飴ちゃんだ。


さて、今日は何をするかな…。
朝の支度をしているが、隣の部屋からは物音はしない。
もうサントはすでに宿を出て活動をしているようだった。

飴、大丈夫かな?持ち逃げされないよね。


そうなのだ。人間、悩みは尽きない。
・・・サントを信じると決めたんだ、サントの事は気にしないスタイル。
つまり信じるスタイルでいくことにする。

私は急いで着替えを済ませて外に出る。


カイト「おはよう!お姉ちゃん、行ってらっしゃい!」

学校へ向かう、元気なカイトの声が聞こえた。


ルナ「おはよー。いってらっしゃーーい!」

なんだか今日もいい日になりそうな予感がした。


といっても、私はこれといって何もすることがないんだよな。
外に出ればギラギラしてる偽善者たちの群れ。
はぁ。そうだった。

今は選挙戦の最中だった…なんだか現実に引き戻される思いです、はい。


ぐうぅう。


でも体は正直なもので。


あ、そういえば昨日のパン屋さん、うまく窯直せただろうか?
またおいでと言われていたので、様子を見に行ってみようか。


私は昨日行ったパン屋さんの方へ足を向ける。

ルナ「おはようございます~。
よかったらパンを頂けないでしょうか~?」

店主「あら、昨日の候補者さん。いらっしゃい。
あなたのおかげで、窯、ちゃんと直って、
今日はうまくパンが焼けていると思いますよ。」

ルナ「そうですか。それはよかったです。」

店主の元気な笑顔が眩しい。
せっかくなのでまたここでご馳走になっていくことにした。

昨日、あの後店を急遽閉店して、窯を冷やした後、修理を施したらしい。
今日のパンはどうだろうか…

一口口の中に入れてみる。

う、うまあま~~。

ほんのりと甘い柔らかなパン生地が、朝の空腹を満たしていく。
店主の入れてくれたコーヒーと相まって、私のモーニングは至極のひと時になった。

店主「どうだい、今日のパンは。
昨日と違って美味しいだろ?」

ルナ「はい、とてもおいしいです。
これなら毎日食べられます!」

店主「どれもこれも、あなたのおかげですよ、ルナさん。」

ルナ「あ、私の名前覚えていてくれてたんですね。」

店主「ああ、風の魔法を使える候補者さんだろ。すごく珍しいからね。
あ。そうだ。
ちょうど隣のおばあちゃんが家のことで困っていてね、
もしよかったら手伝いに行ってくれないかい。
もしかしたら、何かいいことがあるかもしれないよ。」

そう言うと、笑顔の店主はコーヒーのお代わりを入れて厨房の方へ消えた。
朝はかき入れ時なこともあって、仕事が忙しいようだ。

ここにはワッペンを付けたたくさんの候補者が買い物に来ているようだし。

なるほど、皆朝ごはんタイムなのね。

・・・にしても、こんなにお客さんが来る店なのに、なんで生焼けだってことを誰も忠告しなかったんだろ?


パンをちぎりながら、私はコーヒーを口に運ぶ。

うーーーーん、美味しい!!

今日はいい朝食にありつけた!
せっかくなので店主の言っていたおばあさんのおうちへ行ってみることにしてみよう。
どうせこの後やることも、行く当てもないのだ。


パン屋の横には、古いけど大きなお屋敷があって、おそらくここに住んでいるおばあさんがいるんだろう。
さっきの話の流れからすると、ここのおばあさんが何か困りごとがあるというのだが…


重めのドアノッカーを、私は2.3回ノックする。


・・・返事がない。


そっと扉を押してみると、扉は開いてしまった。

ルナ「おはようございまーす。
あの、ルナと言いますが、
どなたか、いらっしゃいますか~~??」

開いてしまったので思わず私は中に向かって声をかける。
しばらくしてパタパタと音がして、小さなおばあさんがやってきた。

おばあさん「おやおや、開いていたのかい。
つい田舎だからこうやってあけっぱなしにしてしまうんだよ。
おや、あなたは?」

ルナ「はじめまして。ルナと申します。
お隣のパン屋さんから、ここのおばあさんが何かお困りごとがあると聞いてやってきました。」

おばあさん「ああ、そうだったのかい。
実はね、ちょっと困ったことがあって…。」


ルナ「もし私に手伝えることがあればやりますよ!」


よくよく話を聞くと、このおばあさんはひとりでこの屋敷に住んでいるようだ。
大きいが古いこの屋敷はところどころ痛んでいたり、電球が切れていたりと、
おばあさん一人ではなかなか管理出るものではないようだった。

おばあさん「この家も私も、もう古くなってしまった。
私一人しか住んでないからね。
もうこのままでもいいんだけれど。」

ルナ「そんなことないですよ。
私が少し作業しますから、待っててくださいね。」


電球が切れていて、全体的にお屋敷は暗く見えた。
とりあえず、切れてる電球を変えていこう。夜になったらもっと暗くなるし、
電気がつくようになったら少しは気持ちも明るくなるのでは?

私は早速作業に取り掛かった。


おばあさん「すまないねぇ、助かるよ。
よかったら、昼ご飯を作ったので食べてっておくれ。」

ルナ「わあ、ありがとうございます。
でもいいんですか?」

おばあさん「いいんだよ。さあ、おあがり。」


私は作業の手を止めて、ありがたくご馳走になることにした。
おばあさんは私の為に温かいスープを作ってくれていた。
高い所に上るのはなかなか気を使って、思いのほか労力がいるもので、
温かいスープが体に染みた。

ルナ「おばあさん、ここの電球ほぼ全部切れちゃってますよ。
雷にでも打たれないと、こんな全部切れることなんてないんじゃないですかね?
こんなに電気って切れるもんなんですかね?」

おばあさん「実はねここ数年、
ハロウィンの選挙があるたびにこうなるのさ。
最初は切れるたびに変えるようにしていたけれど、
もう毎年のことで。
そして、私もこの体だ。
どうせまた切れるんなら変えないようにしたのさ。

よく使う所だけ変えて、あとはそのままにしていたんだよ。」

ルナ「ええ!!毎年ですか?!それは大変ですね。
でもなぜそうなってしまうんでしょうね?」

おばあさん「わからないんだよ。
毎年、ハロウィンの日に選挙があることはみんな知ってるんだが、
選挙の後のことがよく思い出せなくてね…。

去年の事も…よく思い出せなくてねぇ…。」

ルナ「思い出せない?」


なんだか変な話だ。
もしかしてハロウィンの日に何か起こっている??のだろうか??

ルナ「よ、よくわかりませんけど、
とりあえず、今日電球変えてしまいますから、待っててください。
きっとこれで夜も明るく過ごせますから。」

おばあさん「ルナさん、本当にありがとうねー。」


おばあさんはそういうとにっこりと笑顔をこちらに向けた。


作業が終わったのは15時頃だった。
まだ屋敷の修復作業が出来てはいないが、高所での作業を続けて結構神経を使ったため
今日はこの辺で終わりにしようと思ったのだ。

おばあさんにまた明日続きをしに来ると伝えに行くと、おばあさんは何かを私に差し出した。

おばあさん「とても助かったから、
これ、もらってくれるかい。」



おばあさんは金貨私に手渡した。

ルナ「え?お金ですか?
私、そんなつもりはなくて…」

おばあさん「いや、いいんだよ。
私の話し相手にもなってくれて、今日はとても楽しかったよ。
また来てくれた時にも、こうやってお給料をあげるから、また来ておくれよ。

こんなに広い屋敷を持っているんだから、
お金のことなんて気にせず、
これはあなたがもらっていいから。」

そう言われて、作業は終了した。
おばあさんが何かを手渡してきたとき、私はとっさに飴玉かと思った。
しかし、結果は金貨だった。

飴玉は飴玉で、金貨は金貨だ。

なのに、今はその価値がどちらが高いのか分からなくなっている。


飴玉っていったい何なんだろう??


私は考えながら、とぼとぼと宿屋へ向かって歩く。


・・・おい、ルナ!ルナだろ?・・・おい、ルナ! ルナ!!


声に気づき、とっさに周りを見回す。
考え事をしていて、呼ばれているのに全く気付かなかった。

サント「なんだ?考え事してたのか?
いくら昼間だからって、ぼーっとしてるのはあまりよくないと思うぜ。」

そこには同じ方向を目指している感じのサントがいた。
今日の活動はもう終わりらしく、私と同じく宿に帰るところなのだそうだ。

サントはあいかわらず、今日も飴玉をいくつか集めてきたらしい。
私に『今日の収穫は?』と聞いてきたとき、金貨を見せたら、

なるほど!

と笑って、小さな箱をスッと消していた。

残念ながら、今日の収穫はゼロなのである…。

サント「でもお金はお金だろ、すごいじゃないか。」

とサントは言っていた。
それは私も分かっているんだけど、
なんとなく解せない。

浮かない顔をしている私を励ますように、サントはバシバシと私の肩をたたいた。
ちょっと痛い。

こんな活動で私はこれから飴なんか集められるんだろうか…なんだか自信がなくなってきた。

宿屋に戻り、
自分の部屋で一息つこうかと思ったその時、

コンコンコン!

と小気味いいノックの音がした。


ルナ「はーい。」

ドアを開けると、カイト君の姿があった。

カイト「お姉ちゃん、こんにちわ。
今日、俺の友達が来てるから、会ってくれる?」


カイトの友達か。
まあ、これからすることもないし、子供と遊ぶのもいいか。

私は「いいよ」と言って、促されるままカイト君の自宅へと向かった。


カイト君のうちは宿屋の敷地内の裏側にある。
宿屋が母屋なら、カイトのうちは離れのような感じの、少しこじんまりとした建物になっている。

家に上がると、部屋へと案内された。

カイト「ただいまー。
連れてきたよ、ルナお姉ちゃん。」

ルナ「こんにちわー。お邪魔します。」


案内された部屋の中には、少し鋭い目つきをした、
カイトより少し年上っぽい少年が立っていた。


??「ふぅ~ん、コイツか、カイトをたぶらかしてる奴は。」

ルナ「え?たぶらかす?」

カイト「兄ちゃん、たぶらかされたりしてないって、本当にいい人だよ。」

??「候補者ってのはな。みんな下心があるって僕は知ってるから。
おまえ、カイトから何かもらったんだろ?
それ、今どこにやった?」

ルナ「え?な、なにかって、飴の事?」

??「そうだ、今それ、どこにある?」

ルナ「いや、それは大事にしまってあるよ。大切なものだから。」

??「ふ~ん。まあいいや。
僕はお前を信じないから。」


そう言うと少年は私につかみかかった。
とっさのことに私は反応できず、倒されてしまう。

ルナ「い、いたっ、な、何するの!!」

私は少年からポケットを確認され、その際に今日もらった金貨が出てきた。

??「ほらな、カイト、言っただろ。
こいつはお前からもらった飴をこの金貨に変えやがったんだ。
だから候補者は信じるなって言ったんだ。
なのに、お前は。」

ルナ「え?ねえ、ちょっと待って。
その金貨はね、今日一日働いた、私の大事なお金なの。
飴をお金に変える?
そんなことするわけないでしょ!
飴をもらうために頑張っているのに?
今日一日どう頑張ったって、もらえたのはその金貨一枚だけよ。
飴玉なんてどこにもないよ。

もう…、大事な金貨、返してよ。」

私は少年から金貨を奪い取ってポケットに入れた。
それでも少年は私を見下すような目つきで見ていた。

??「ふぅ~ん。
だったら、飴はまだあるんだね。
ねえ、どこにあるの?その飴。
今持ってきてよ。
あれ、僕のなんだ。ねえ、返してよ。」


私はカイトの方を見る。
カイトは悲しそうに私の方を見るだけだった。

(つづく)

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