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勝手にファンタジー小説。ハロウィン選挙⑤

よりにもよってサントと同じ宿に泊まってしまっていた。

正義感の強いサント。
きっと私の事を心配して色々何かやってくるに決まっている。

なんだか面倒くさいが、

宿がどこも満員御礼している今、もはやここから出ていく勇気は私には残っていないわけで。

仕方ない。
サントのことはなんとかスルーしていく方向でいこう!

部屋着に着替えながら私はそう思っていた。


コンコン


ノックの音だ。

はぁ。

きっとサントだろうな。
また候補者を降りるべきだってお話かしら??

仕方なくドアを開けると、
外にはサントではなく、
カイト君が立っていた。

カイト「おねえちゃんこんばんわ。
ちょっと、いい?」

ルナ「え、あれ、うん。
どうしたの?カイトくん。
何か言い忘れた事でもあった?」

カイト「いや、
別にそういうんじゃなくて、さ、

あ、あの、これ…。」


そう言って、小さな手から渡されたのは、例のあの飴玉だった。


ルナ「え!?
こ、こんなもの、もらえないよ。
それにね、私ちょうど宿を探していて、
今宿が見つかってとても助かっていたところなんだ。

多分、カイト君に会えなかったら、
今日は野宿していたかもしれない。
だからね、助けられたのは私の方で…。」

カイト「いや、もらってほしいんだ。
悪い奴にとられる前に、
いい人にこれ、持っててほしいから。

だから、俺はお姉ちゃんにあげたいと思って。」

ルナ「カイト君、これ、どうしたの?
この村って子供にも投票権というか、
そういう権利があるのかな?」

カイト「いいや、ないよ。
飴配られるのは大人達だけだし、
子供にはそういうのもらえないから。

それに、
飴なんて食べるのが子供じゃん!」

ニヤッと笑ったカイト君の顔はなんだか誇りに満ちていた。


カイト「でも、この飴はね、
『本物』だよ。
俺は、悪いこうほしゃって奴から、そういうのかっぱらうの得意だから!」


さっき膝小僧を怪我して泣いていた子供とは思えないほど、カイト君はたくましい表情をしている。


ルナ「…わかった。
じゃあ、これは私がもらうね。
あ、でも、そういうのが得意だからって、危険なことなんだから、
もうかっぱらうのはだめだよ。 

ぜっったいにね!!

本当に、ありがとね。」

カイト君は、
私が受け取るとほっとした表情になり、
自宅の方へ帰っていってしまった。

そうなのだ、子供だってこの異様な空気感には気づいているのだ。
何かは分からないけど、異様なことが起きている、そういう感覚。
それほど今この村ではおかしなことが起きているのだ。


コンコンコン


やれやれ、また来たか…。

今度もぶっきらぼうにドアを開ける。
どうせ待っているのはサントだろう。


ドアを開けると、やはり不機嫌そうな顔をしたサントが立っていた。


サント「いいから、ちょっとこい。」


そう言うと、また連れ出された私。

次は一体どこへ行くのやら…。


サントが言うには、宿屋の地下に食事できるスペースがあるらしい。

そこで一緒にご飯を食べながら話をすることになった。

別に私はひとりで食べるから
いいんだけど…(-_-;)

でも、部屋が隣なので逃げられないし…
仕方なし…。



席に着くと、おもむろにサントが私に話しかけてきた。

サント「ルナ、お前、1個でももらえたのか?」

ルナ「なになに~、開口一番がそれですか~?
そりゃぁ、ライバル同士ですけれども、
そのドストレートな質問がくるとは!?…

はぁ~ないですよ。
ないですよ~師匠~!」

サント「おま、こっちは真面目に聞いてんだぞ!
まだこの飴の価値、
お前は分かんねーのかもしれないけど、」

ルナ「飴の価値?!

まあ、そりゃぁ、この村を見て回って、
少しは分かってるつもりですけども…」

サント「ふ~ん、そうか。
じゃ、分かってんなら、
候補者のワッペンを昼間堂々とつけて歩いてるヤツが、
この飴を持ってたらどうなるかってことも、
ちゃんと分かってるんだろうな?」

ルナ「いや、どうなるかってそりゃ…」

サント「で、もう一度聞くけど、

飴は今持ってんの?持ってないの?」

ルナ「そ、そりゃ、
持ってるに決まってるじゃないですか。

わ、私を見くびらないでくださいよ。
あなたが思っている以上に、ちゃんと考えているんです…」

サント「そうか。
なら、俺と同じ宿に来てくれて、少し安心したよ。」

ルナ「え?なんです?口説いてます?
私の事どうこうしちゃいます?」

サント「口説いてねぇよ!
でも、冗談抜きで、ホントにこの飴はヤバいから。
持ってるんだったら、
気をつけておかなきゃだめだってことだよ。」

ルナ「そんなの、わ、分かってますよ。」

サント「飴はどうやって保管するつもりだ?」

ルナ「保管?
そんなの、肌身離さず、しまっておくに決まってるじゃないですか!」

サント「やっぱり…。
一応忠告しておくがな、
お前が来る前の部屋の使用者も候補者だった奴だ。

身ぐるみはがされたうえ、
飴はもちろん金までなくなったらしいぜ。」

ルナ「え、えええ~!」

サント「この村は昼間は偽善者でいっぱいだが、
夜になると犯罪者でいっぱいになる。」

ルナ「…。」

サント「候補者になるってことは、
そういう危険なことに巻き込まれる可能性があるってことだ。」

ルナ「な、なるほど…。
で、でも、そっちこそ、
その、飴は今どうしてんのよ? 

昼間、女性にもらってたじゃない?
きっとサントのことだからそれ以外にも飴は...」

サント「もちろんそれ以外の飴もある。
結構集めてるからな、俺は。
でも、持ち歩くなんてナンセンスだし、部屋に置いとくなんてことしたら
誰が入ってくるかもわかんないだろ。」

ルナ「う、うん…。」

サント「だから俺はこうやってる。」

サントはいつの間にか小さな小箱を取り出して、指でもてあそんでいた。


サント「こうやって持ち歩いてるんだよ。」


ルナ「…いや、

結局入れ物に入れて持ち歩いてるんじゃない。」

サント「ただの物入れにしないでほしいな。
こう見えても俺、光の魔法を使えてさ。

この箱も光の屈折によって作り出してるから、
自在に消せるし、
自在に出せる。

この箱は俺にしか扱えない。
俺の意識が途切れるとパッと消えるし、
意識がある時にしか外に出てこない。
鍵もこうやって光のカギで開ける。」

サントは私に人差し指を立ててみせた。
そして、その指から光の柱を出して見せた。

ルナ「な、なるほど。 
それだったら誰にも飴は取られないってことか。」


私はサントが光の魔法を使えることに内心ちょっと驚きつつ、話の続きを聞いていた。


サント「俺はルナに出会ってそんなに時間はたってないけど、
お前は悪い奴じゃないってことだけはなんとなくわかる。
頭も悪そうだしな。」

ルナ「頭を勝手に悪くしないでくださーーい。」

サント「まあ、それはいいとして、
だから、いい奴に嫌な思いはしてほしくないんだ。

本当は候補者を辞退してほしいと今でも思ってる。
でも、ルナはそれをしたくないんだろ?

だったら、ルナの持ってる飴は俺が保管する。
それでどうだろうか?
少しは安全性が増すと思うけど。」

ルナ「う、うーん。

でもさ、…それって、

私のを横取りするって魂胆??だったりして」

サント「いや、
いくら頭が悪い奴でも、

こんなに正々堂々と横取りの取引を持ち掛けないって!
だろ??
    
それに、悪い奴なら
確実にルナの寝込みを襲うね。」

ルナ「う、ううううう。」


確かに、サントの言う事は確かで
もし私の持っている飴が目当てなのなら、
何も言わずに力ずくで取っていくのが本当なのだ。

それに今の状況で安全な保管場所をすぐに確保することも困難だ。

ルナ「ねえ、じゃあさ、
ひとつ聞いていい?
そんな悪人ばかりの、こんな妙な選挙にさ、
なんでサントは参加してるわけ?

その理由次第で、どうするか決めるから。」

サント「ああ、その事か。
俺はこのハロウィン選挙を終わらせるために村おさになろうと思て。」

ルナ「ええっ!?」

サント「だって、見てみろよこの状況。
明らかに良くない。」

ルナ「た、確かにおかしいとは思うけど、
本当にそういう理由なの?」

サント「実は数年前、
俺の友達がこの選挙の事を知って、候補者になるって出かけて行ったんだ。
でも、その友達はその後戻ってこなかった。」

ルナ「え?戻ってこなかったの?」

サント「ああ。それ以来戻ってこない。
おそらく、候補者の誰もが戻っていないんだ....と思う。

俺は気になってこの村に訪れたよ。
こういう候補者がいなかったか?って、友達の聞き込みもたくさんしたよ。

けど、この選挙の候補者の個人情報ってほぼ皆無なんだ。

おまけにいくらだって嘘もつける。
    
どんな奴が村おさに立候補したかも分からず、
さらにたくさんの候補者に紛れてるから
友達の事を知ってる村人もいないんだ。」

ルナ「確かに、どこの誰かもわからない人達だもんね、候補者って。
それもほぼ、この村以外からやってきた人ばかり。」

サント「多分友達は、
この選挙の際に何かに巻き込まれたんだと思う。
それもこれもこんな変なことやってるのがおかしいんだ。

なのに村はいつまでもこの選挙を続けてる。
村おさになって、この村のことを決められる立場になれば、

このおかしな習慣も辞めさせられることができると思うんだ。
だから俺は、今ここにいるんだ。」



思った以上の正義感。

サントはどこか遠くを見ているような表情で、グラスの水を飲みほした。

なんとなくこの人は正義感が強いなと最初から思ってはいたが、
まさかここまでとは思ってなくて、
改めて自分の審美眼をほめてあげたい気持ちだ。

ルナ「分かった、その話信じるよ。
そして、これもあなたに預けることにする。」

私はオーロラ色の奇麗な紙に包まれたそれを、サントの小箱の上にポンと置いた。


ルナ「初めてもらった、とっても思い出深い飴なんだから、
なくさないでちゃんと保管しててよね。」

私はちょっと口をとがらせながらそっぽを向いて見せた。

サントは大事そうにその飴を、もう一つ作り出した別の小箱の中に入れていた。


サント「ところで、
話のついでだから聞くけど、
ルナはなんでこんな変な選挙にきたんだよ?」

ルナ「私?!
もちろんそりゃ、働きたくないから。
村おさになって、その後はまったりするに決まってるじゃん!」

サント「相変わらずお前は、そんな不純な動機か~」

ルナ「不純ってなによ!
私は真剣だし純粋だ~~!!」


後で聞いたことだが、

先に候補者として選挙に参加したサントの友達の動機も私と似て不純な動機で、

なんだかルナの事は放っておけないんだよな、とサントは笑って話していた。


(つづく)

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