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韓国に駐在員事務所を開設するときに気をつけたいこと

韓国に新たにビジネス拠点を設けよう、と考えて相談に来られる会社がたくさんあります。私が対応した数だけでも数百にのぼります。その中で典型的な相談のうちの一つが、駐在員事務所を開設しようと思っていますが、それでも良いでしょうか?というものです。この相談を受けた結果、当初の予定どおり駐在員事務所の形態での進出を行う会社は、おそらく半分にも満たないと思います。それは何故でしょうか? 

キーワードは恒久的施設(PE)です。

本稿では、駐在員事務所での進出がどうしていけないのか、を分かりやすく解説します。

駐在員事務所とは?

駐在員事務所とは、収益を上げるための直接的な営業活動は行わず、専ら予備的・補助的な活動を行うために韓国に設置する事務所のことを言います。ここでいう「予備的・補助的」活動の例として、市場調査・広告宣伝活動・情報収集・購買活動・物品の保管などが挙げられます。

駐在員事務所は現地法人や支店と異なり、商業登記が必要ありません。必要となる手続きは、以下の二つです。

1. 外国企業国内支社設置申告

外国法人が韓国内にその法人の連絡事務所を設置・運営するためには、外国為替取引法の規定により指定取引外国為替銀行に申告しなければなりません(外国為替取引規程第7-48号)。申告機関は指定取引外国為替銀行となります。指定取引外国為替銀行とは、連絡事務所の運営資金を日本から送金するときの受取口座を開設する銀行です。日系企業の場合には、日系銀行とするケースが多いようです。

2. 税務署への登録

上記1の設置申告が終わったら、所轄の税務署に連絡事務所設置を申告するとともに、固有番号指定申請を行わなければなりません。韓国では全ての事業者に対して「事業者登録番号」を付して課税関係の管理をします。一方、駐在員事務所は営業活動(事業活動)を行う主体では無いため、事業者登録番号の代わりに、固有番号という番号が付与されます。

この固有番号が付される前までは、銀行口座の開設もできませんし、事務用品の購入、電話の開通なども満足にできませんので、必須の手続きとなります。

恒久的施設(PE)とは?

恒久的施設とは、事業を行う一定の場所のことをいい、英語の「Permanent Establishment」の頭文字をとって、一般に「PE」と呼ばれます。ちなみに韓国では「固定事業場」という用語を使います。韓国人専門家と話しているときに「固定事業場」という言葉が出てきたら、PEのことと思ってください。

PEが税務的に重要となるのは、その有無によって課税関係が変わるためです。

例えば、日本企業が韓国企業から使用料(ロイヤルティ)を受け取る場合を考えてみましょう。この日本企業が韓国内に支店(すなわちPE)を有していない場合には、韓国企業が使用料を送金するときに10%の源泉税を差し引いて日本企業に送金します。これで韓国における課税は終了です。一方で、この日本企業が韓国内に支店を持っていて、当該使用料が支店に帰属するものであると認められる場合には、支店において通常の韓国法人税申告の所得に含めなければなりません。また、付加価値税も上乗せしなければなりません。

簡単にいうと、韓国にPEがあれば、普通の韓国企業と同様に税金を申告・納付しなければならない、ということです。

具体的にどのように判断されるの?

さて、駐在員事務所は、営業活動(事業活動)を行わない拠点なので、PEではありません。PEではないので、韓国で通常の法人税や付加価値税を申告する必要はありません。

しかし、PEではないと認められるための条件、「予備的・補助的」活動の範囲は具体的に何なのでしょうか? この線引きは必ずしも明確であるとは言い難いのが実情です。

例えば、補助的活動の一つとして「物品の保管」という活動があります。この規定を根拠として、うまく取引スキームを組むことで、PEではないと主張して課税を逃れることが可能になります。昔、アマゾンが日本で行なっていた取引形態です。アマゾンがPEの規定を利用して巨額の税金を逃れていることに対抗するため、日本は税制改正を行なっています。このときの報道資料を見ると、「これまでは、倉庫は準備的・補助的な活動としてPEではないとされていたが、倉庫の活動が相互に補完的な活動を行う場合には、各場所を一体とみなして準備的・補助的な性格かどうかを判断する」とされています。

また、タックスアンサーでも「日本国内に恒久的施設を有するかどうかを判定するに当たっては、形式的に行うのではなく機能的な側面を重視して判定することになります。例えば、事業活動の拠点となっているホテルの一室は、恒久的施設に該当しますが、単なる製品の貯蔵庫は恒久的施設に該当しないことになります。」と解説されています。

これらの取り扱いは、基本的に韓国でも同じです。従って、それぞれのケースに応じて、PEに該当するかどうかを慎重に検討する必要があります。

ところで、「営業活動」の「営業」の定義を、いわゆる「営業マン」の「営業」と混同しているケースがあります。「韓国の拠点は、アフターサービス対応を専門に行う技術者を置くだけで、営業はしません」とか「契約書や請求書の管理などの事務作業を行うだけです」といった事例です。が、これらは基本的に「営業活動」の一部とみなすべきでしょう。収益を獲得するための一連の活動に関わるようなことをするのであれば、営業活動をしている。すなわち、PEに該当すると考えるのが安全です。

駐在員事務所がPE認定された場合の税務リスク

それでは、駐在員事務所がPEとして認定された場合、どのような税務リスクがあるのでしょうか。税務リスクは主に2つ発生します。

1. 法人税

法人税は、本税の他に、申告不誠実加算税(本税の10%)および納付不誠実加算税(1日あたり0.025%)が課せられます。

ただし、法人税は、売上から原価・費用を控除した所得に対して課税されることから、算出される税額が小さいケースも考えられます。従って、会社によっては金額的に重要なリスクではないと判断されるかもしれません。ですが、次で述べる付加価値税が金額的に重要となるケースが多くなります。

2. 付加価値税

付加価値税は、日本でいう消費税に相当する税金です。韓国ではインボイス方式をとっているため、何かものを売ったときやサービスを提供した場合には、「税金計算書」を発行する義務があります。3ヶ月ごとに申告しますが、その3ヶ月間の間に発行した税金計算書の合計額と受け取った税金計算書の合計額との差額を納付する仕組みになっています。

駐在員事務所がPEと認定された場合、過去に渡ってこの税金計算書を発行していなかったとみなされることになり、本税(10%)に加えて、税金計算書未発行加算税(売上の2%)が課せられます。

(追記)ゼロ税率申告不誠実加算税は、売上の0.5%

まとめ

「韓国での本格的にビジネスするわけではなく、既存の商取引を補完する程度の役割だから、現地法人や支店などをわざわざ設立するまでもない。机ひとつあればそれで良い。」ということから、気軽に設置できる駐在員事務所を志向する日本企業が沢山あります。しかし、「既存の商取引を補完する」こと自体が事業活動になりますので、駐在員事務所ではPE認定リスクがどうしても付きまといます。

海外に支店や現地法人(子会社)を設立するためには、社内的な意思決定の負担が大きくなるのが一般的です。役員会の決議事項になっている会社も多くあると思います。そのため、実務的に駐在員事務所の設置で対応したいという事情はよくわかりますが、この記事で説明したような税務リスクを抱え込むことについては十分に理解したうえで進めることが重要となるでしょう。

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