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【韓国税法】仮払金にまつわる主要論点

韓国企業の税務申告書や決算書を見ると「仮払金(直訳すると『仮支給金』)」という勘定科目をよく見かけます。この仮払金に対する韓国税法の規定は、やや複雑です。韓国企業をM&Aするときの税務DDや韓国子会社を管理する際には、この仮払金に関して注意をすることが必要です。この記事では、この仮払金に関する税務上の主要な論点を紹介します。

仮払金とは

会計上の仮払金の定義は、金銭等の支出はあったが取引の内容が明らかでない場合に一時的に処理する勘定科目のことをいいます。これは韓国の会計でも同じです。

一方、韓国税法上の定義はこれとは異なります。そのため、税法基準で決算書を作っている韓国企業の決算書には、確定決算にも関わらず「仮払金」という勘定科目が表示されていることがあります。(表示されていなくても、試算表や総勘定元帳を見れば仮払金の有無はすぐに確認できます)また、仮払金という勘定科目ではなくても、税法上の仮払金とされるものもあります。

韓国税法上の仮払金とは、以下の通りです。

「特殊関係人に対して、名称の如何を問わず当該法人の業務に関連なく支払った仮払金等で、当該法人の業務に関連のない資金の貸付額」

ここでいう「特殊関係人」の定義はなかなか複雑なのですが、ザックリと説明すると、「役員、従業員、持分比率30%以上の株主」です。

例えば、従業員貸付金・役員貸付金などは、ここでいう仮払金に該当します。また、法人カードを個人使用した場合なんかも仮払金になりますし、オーナー企業のオーナーが会社のお金を引き出して個人で使用した場合の当該引き出し額も仮払金になります。

仮払金に対する基本的な税務上の取り扱い

仮払金は特殊関係者に対する「貸付」とみなしますので、適切な水準の金利を受け取ることが求められます。この適切な水準の金利を「認定利息率」といいます。認定利息率は企画財政部令で定められていますが、現在は4.6%となっています。したがって、仮払金の金額に4.6%を乗じた金額を受取利息として益金算入しなければなりません。従業員貸付金・役員貸付金などで契約書を交わしている場合であっても、当該貸付金利が4.6%未満の場合でも、差額部分については益金算入します。

この利息相当額につき、実際に該当する人間から回収できれば良いのですが、できなかった場合はどうなるのでしょうか?回収できない場合には、上記の益金算入調整の結果、税務上、未収利息が発生していることになりますが、1年以上に当該未収利息が回収できない場合には、当人に対する賞与として取り扱うことになります。個人に対する賞与なので、源泉徴収義務が発生するとともに、当該個人に関しては申告所得が増えることになります。

恐ろしい税金爆弾

仮払金の定義で、「特殊関係人に対する業務無関連の支出」と書きました。では、仮払金を残したまま特殊関係人ではなくなった場合はどうなるのでしょうか?例えば、会社にお金を返さないまま退社した場合。M&Aで買収した結果、元オーナー経営者が特殊関係人に該当しなくなった場合などのケースです。

結論から言うと、その人に対する賞与として取り扱うことになります。

税務処理としては、仮払金相当額を益金算入するとともに、同額をその人に対する賞与として調整します。法人税としては、益金算入額と損金算入額が同額なので税額に変わりはありません。(韓国は役員賞与であっても総会で決められた限度額以内であれば損金算入できます)

一方、賞与として取り扱われることになるため、(1) 会社は源泉税相当額を納付するとともに、(2)個人は確定申告により仮払金相当額の所得を申告する必要があります。

韓国の所得税率は、地方税を含めて最高46.2%です。

この制度を知らないと、こんな恐ろしいことが起こります。↓

韓国のオーナー企業を買収することになった。財務DDの結果、オーナーの個人使用経費が過去3年間で30億ウォン発見された。これについては、いったんオーナーに対する仮払金として取り扱い、オーナーからも返済する同意を得た。ただし、オーナーは手持ちの現金がないことから、株式売却後に当該売却資金を原資に返済することにした。ところが、オーナーが株式を売却した瞬間に特殊関係がなくなることから、当該30億ウォンはオーナーに対する賞与として見なされることから、会社は約10億ウォンの源泉税の納付義務が発生してしまった。

実際には、仮払金処理することはせずに、株式評価に反映させることになるとは思いますが、あくまでも可能性です。また、上の例ではなくても、すでに仮払金が計上されているような会社を買収する際には、その税効果に対する検討は、ディールスキームを決める上でも不可欠になります。

まとめ

今回は、韓国の税務上の仮払金制度に関して、概要をまとめてみました。仮払金が発生する理由は様々です。横領事件等の調査の結果、当事者から返済を受ける被害額を債権として計上しますが、当該債権も仮払金です。横領事件の場合、解雇や解任することで特殊関係者ではなくなるケースがありますが、その時の源泉税イッシューも頭に入れておく必要があります。

掘れば掘るほど、何かしらの税務イッシューが出てくるので大変ですが、知らなかったでは済まされないのが税金でもあります。あとでビックリしないためにも適宜、外部の専門家もうまく利用しながら検討しましょう。

(おわり)

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