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両翼形にまつわるエトセトラ


◉両翼形との出会い


もう何年前でしょうか。たぶん15年くらい前かもしれませんが、私が初めて両翼形というものに出会ったのは下記のサイトでした。


「スジ対子に有機性をもたらす」ってなんかカッコいいじゃないですか。

当時は両翼形やウイング形という言葉が一般化されていなかった気がするので、この著者が自力で導いた理論であったなら更に凄いと思います。

戦術系の理論は最近10年くらいでかなり進歩し洗練されたため、長時間が経過したサイトは閉鎖されていることも多い中、現在でも閲覧できるのは少し貴重かもしれません。

簡単に言うとスジ対子で挟んだ334566のような6枚を原形とし、スジ対子のそれぞれの牌に1枚ずつ(または片方のトイツに2枚)をくっつけることで、ヘッドが3でも6でも良くなる受け入れの広い8枚形(いわゆる両翼形)になるわけですね。


◉両翼形のパターン

私は8枚形の両翼形を下記の9つのパターンに分類しています(代表的な6つと3つの亜種)。なおウィング9枚形と呼ばれるものもありますが、形が違うので今回は割愛します。

※下の表の見方
334566にどの2枚を加えたかと、8枚部分でテンパイする牌の種類を示しています。

両翼形の6つの代表的なパターン
① 23345667 + ターツ + 1メンツ
:2と7を加えた形、134568受け
② 23345566 + ターツ + 1メンツ
:2と5を加えた形、14567受け
③ 13345667 + ターツ + 1メンツ
:1と7を加えた形、258受け
④ 13345566 + ターツ + 1メンツ
:1と5を加えた形、247受け
⑤ 13345668 + ターツ + 1メンツ
:1と8を加えた形、27受け
⑥ 22334566 + ターツ + 1メンツ
:22を加えた形、12346受け


①は3と6のそれぞれに1つ外側の牌をくっつけた形です。両翼形の中でも特にこれだけは押さえておきたい!という一番オーソドックスで強い形ですので、ここでは『キングオブ両翼形』と命名します。

②は3と6の片方の牌の1つ外側ともう片方の牌の1つ内側の牌をつけた形。良形受け入れが1種3枚減りますがイーペーコー受けがあり、こちらも良い形です。

③は3と6の片方の牌の2つ外側、もう片方の牌の1つ外側の牌をくっつけた形。受け入れ枚数はかなり減りますがピンフ確定の受けが残ります。

④は3と6の片方の牌の2つ外側、もう片方の牌の1つ内側の牌をくっつけた形。受け入れは③と同じですが、イーペーコー受けがある分③より少し強いです。

⑤は3をヘッドにすればカン7、6をヘッドにすればカン2になるので、リャンカンみたいなものです。受け入れは一番少ないです。

⑥は3と6のいずれかの牌の1つ外側のトイツを加えた形です。「両翼」と言えるかは微妙ですが、3か6に2枚くっつけるという定義には当てはまるのでこれも一応含めています。受け入れ枚数・イーペーコー受けなど、総合的にみて中々良い形です。

3つの亜種:多面待ちとして解釈が可能
⑦ 23334566 + ターツ + 1メンツ
:23を加えた形、123467受け
⑧ 33344566 + ターツ + 1メンツ
:34を加えた形、234567受け
⑨ 33444566+ ターツ + 1メンツ
:44を加えた形、234567受け


⑦は3と6のいずれかが暗刻になり、その1つ外側の牌をくっつけた形です。こうなるともはや両翼形というよりは「7枚形の多面待ち+1枚」とい解釈する方が良さそうですが、「334566に2枚を加える」という意味では合致するので亜種として取り上げました。受け入れは6種あるので広いです。

⑧は3と6のいずれかが暗刻になり、その1つ内側の牌をくっつけた形です。⑦と同様、暗刻含みの多面張である3334456に6をつけた形になっています。

⑨はスジ対子の間にある4か5のトイツを加えた形です。「334445+66」と「33+444566」の2種類に分けられるため、それぞれの待ちを合わせれば分かります。


全体の概要としてはざっとこんな感じになります。全てのパターンを語り出すと、5000文字を優に超える記事になってしまいますので、今回は①の両翼形について掘り下げていきたいと思います。

正直なところ既に周知されている内容ではありますが、両翼形は「いかに頭の中で整理するか?」が重要なのと、最近自分なりにプチ発見したこともあり、この記事を書くきっかけとなりました。


◉キングオブ両翼形を極める

では、①の23345667 + ターツ + 1メンツの形について考えていきます。

これは13枚からなる1シャンテン形ですので、実際はもう1枚加えた14枚の中から打牌選択をすることになります。

と言っても、その1枚が機能性の低い牌ならば当然それを切って上記の強い形に受けるだけですので、悩ましい牌姿の典型例はターツのフォロー牌になっている場合、すなわち複合ターツを形成しているケースとなります。

今回は紹介しきれませんが、もう1枚がターツのフォロー牌以外の場合でも残すべき有効牌のことがありますので(例えば7を引いた形など)、その点においても両翼形は派生形が多くて複雑になるということが言えそうです。

牌図1

マンズの中張牌があると、三麻派の興味が半減する恐れがあるのでw、キレイに絶一門に収めました。四麻の題材であれば素直に3色にバラけた形で理解すれば良いと思います。打牌候補は下記の3つです。

選択A:良形固定の打3s(=キングオブ両翼形)

選択B:雀頭固定の打4s

選択C:両翼形から1枚ほぐす打3p(打6p)

ということで各選択の特徴と、受け入れ枚数、得点期待値を見ていきます。

※受け入れ枚数:良形待ちになる枚数を示しています。カッコ表示があるものは悪形も含めたトータルの受け入れ枚数です。

※期待値:前回のnoteと同じく、親のドラなし6巡目(手変わり1枚考慮)の数値をツモアガリ確率計算機で求めました。

画像5

選択A:良形固定の打3s
・受け入れ枚数:8種26枚  
・得点期待値:1368      
・特徴
(1) 全てピンフがつく
(2)3面張や高めイーペーコーになる受けはない
(3) 25s先引きの際は14p待ちか58p待ちを任意に選べる
(4) テンパイ時に2pか7pで出やすいので、ドラが2pか7pの時は不利

以上、キングオブ両翼形について詳しく見てみました。最大の魅力はピンフ確定という安定感ですね。(3)や(4)などの細かい点も押さえておくと良いと思います。


選択B

選択B:雀頭固定の打4s
・受け入れ枚数:9種26枚  
・得点期待値:1643     
・特徴
(1) ピンフ3面張かつ高めイーペーコーが6枚、ピンフ3面張が8枚、ピンフ高めイーペーコーが6枚、のみ手の受け入れが6枚
(2) 3s先引きの際は14p待ちか58p待ちを任意に選べる
(3) テンパイ時に3pか6pで出やすいので、ドラが3pか6pの時は不利

選択Bはただのピンフではなく、3面張や高めイーペーコーのつく優秀な受け入れが多いのが最大の特徴で、選択Aよりも得点期待値がアップします。まさに『キングオブキング』です!。裏を返すと選択Aの形は真のキングではなかったということになりますね。ちなみに複合ターツが224sなどの愚形含みの場合は、更に雀頭固定が優位となりますので、この形の優秀さを頭に焼きつけておく必要があります。


選択C

選択C:両翼形から1枚ほぐす打3p(打6p)
・受け入れ枚数:8種25枚(11種36枚) 
・得点期待値:1483     
・特徴
(1) ピンフ3面張かつ高めイーペーコーが3枚、ピンフ3面張が4枚、ピンフ高めイーペーコーが3枚、暗刻含み3面張が2枚
(2) 愚形を含めて一番広いので、足止めリーチや終盤のテンパイ狙いの際は最有力
(3) 2sと4sをツモ切った場合はフリテンになる可能性あり。ツモ6sはこの場合は9sと入れ替えられるが、789sが789mなら4sを切る選択もある。

ピンズが2345667の形となりました。これはアレですね、3つ前の記事の「中ぶくれ+シュンツ」の形です。そちらの記事でも3を引けば両翼形になることに触れましたので、ここでめでたく繋がるわけです。ただし今回のように相方にリャンメントイツがある場合は、良形固定で両翼形を形成する選択Aよりも少し期待値が高くなりました。なぜそうなるかと言うと、くっつき1シャンテンとして既に十分強い形であるため、3面張や高めイーペーコーになる受けが計12枚ある分、得点期待値として高くなるからです。ただし愚形テンパイとなるツモでテンパイに取らなかった場合はフリテンのリスクがあるため、出力された期待値から少し差し引く必要はありそうです。しかしそれでも、選択Aに対して大きく劣ることはないと考えます。


ということは・・・ 

選択B > 選択C ≒選択A?

あれ、「選択Aの形ってキングオブ両翼形じゃなかったの?」という突っ込みがいかにもありそうですね。

これに対する回答としては、最初にパターン分けした(複合ターツを良形固定した場合の)6つの両翼形のパターンの中で強い形であるということを意味していました。また、良形固定する概念があれば②③④の3つの両翼形のパターンにおいては自然に最善打を選びやすく、⑤⑥についても最善打または次善打となるため、有力な選択肢になりやすいという含みがあります。あとは凄く良い形でありながらも、リャンメントイツがある場合には選択Bや選択Cといった「上には上がいる」という牌理の面白さを感じられる点も、キングを冠した所以であります。


それでは全てが分かったところで、復習問題をやりましょう

牌図2

牌図1との違いは789sが678sになっただけです。


ここまで読んでいただいた方なら、もうアレを選びますよね?


では、例によって各選択の分析をしてみましょう

選択A:良形固定の打3s
・受け入れ枚数:8種26枚
・得点期待値:2550

選択B
:雀頭固定の打4s
・受け入れ枚数:9種26枚
・得点期待値:2564   

選択C:両翼形から1枚ほぐす打3p

・受け入れ枚数:8種25枚(11種36枚)
・得点期待値:2618   


ざわざわ・・・


キングオブキング、剥奪事件発生!


まず始めに、なぜ選択Aは選択Bに肉薄することになったのか?。シミュレーターの気持ちwを読み解いてみることにします。

選択Aの株が上がった理由は、ツモ1p以外の受け入れにおいてタンピンが確定するからです。むむっ、こんなところにも強みがあったのですね。


「ガッハッハ、やっぱり俺はキングの器なのさ。同列だけどなw」

という声が聞こえてきそうです。

選択Bは依然として期待値の高い受け入れが多いものの、タンヤオが崩れる受けやピンフが崩れる受けがあり、ツモ6pに至っては1pであがるとノミ手になってしまうため、トータルで相殺されてしまう訳です。他の選択でタンヤオが濃厚となる手牌においては最善打になるとは限らないことを知っておく必要があります。とはいえほぼ五分の勝負ですので、「このパターンは雀頭固定」で覚えてしまっても大きな問題はありません。

選択Cは微差ながら一番優秀という結果になりました。今回はタンヤオがあるので愚形でもテンパイに取るケースが増えそうですが、タンヤオがあってもなくても意外と強い形ということは言えそうです。私はこのタイプの両翼形といえば、「選択Aか選択Bを選ぶのが常識!」と盲信していたので、今回改めて選択Cの存在を見直すことにしました。ちなみにタンヤオ手の選択Cにおける打3pと打6pには優劣があります。打3pにおけるツモ58pは147p待ち、打6pにおけるツモ258p待ちは14p待ちですが、打6pの方がタンヤオのつかないアガリパターンが増えますので、打3pが正着となります。

補足)3面トイツがある場合
・23345667p 234566s:打6s
シンプルに3面受けを評価。打3pや打2sでも大差はない。
・23345667p 234556s:打3p
くっつきにすることで、タンヤオが付きやすくなる。
・23345667p 345667s:打6s
タンヤオ確定の3面トイツなら3面張を固定する。345677も同様。


両翼形(ウイング形)といえば、ウザクさんかネマタさんが真っ先に頭に浮かびます。そして、ウザク本1(傑作何切る300選)には実に10問以上の両翼形に関する問題があります

それ以外の本もそれなりに目を通しているつもりですが、この牌図2の形について出題されているのを見たことがありません(つまり何切る問題になっているのは、非タンヤオかドラが両翼形に含まれている形です)。


それは何故か?


答えは簡単、「期待値が微差だから」ですね。何切る問題の読者というのは、つい分かりやすい正着打を求めてしまいがちです(自分もずっとそうでした)。だからそういう観点でいくとこれは不適切問題になるわけです。おそらく何切る本の出題者の方々も似たようなシミュレーションを繰り返してこのことは掌握されているはずです。

余談になりますが、私はこの世に『どっちでもいい何切る』の本があってもいいかなと思っているくらいです。このnoteでは「大差でないことを知ることが重要」という持論を何度か取り上げていますが、微差判断の追究に精を出すよりは、別の大差がつく判断をミスしないようにリソース配分した方が効率的と考えているからです。もし私がその本を書いていれば、今回の牌姿は間違いなく載せますね(笑)。


では最後に・・・

主に初級者の方へのTake home messageです。

・あれ、この手は何かがおかしいぞ?
・手牌をどこで区切ってよいのか分からない

と思ったときは冒頭のいずれかの両翼形になってないかどうかを確認してみてください。結構両翼形になってることが多いです(著者調べ)


それでは今回はこのあたりで。



参考図書)
傑作何切る300選  G.ウザク著 福地誠編



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