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統計データと局収支 (応用編)


~テーマ~
局収支は平均値から求めた計算結果
⇒ step up
⇒ 個別化した期待値についても考えてみる


前回の記事では

「局収支はどのようにして求められるか?」についての説明をしながら、「なぜハネマンはダマなのか?」について解説しました。

今回は、局収支の概略を理解しているという前提で、以下のテーマについて深く掘り下げてみたいと思います。


『良形低打点と愚形高打点を選べるときに、どちらでリーチをするのが得なのか?』

具体的には良形でピンフにするか、愚形で一気通貫(または三色同順)を付けるか?といった話です。

平面的には一定の見解が出ているトピックではありますが、私なりの解釈や注意点を交えながら話を進めていきたいと思います。

① ピンフか愚形の一通か

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この手は

・1pを切れば25p待ちのピンフ
・4pを切ればカン2p待ちの一気通貫ですが

どちらのテンパイに受ければ良いかについて

・ドラ0とドラ1
・四麻か三麻か

で検討してみます(三麻はツモ損あり、抜きドラありの天鳳三麻ルールです)。

前回は先制良形テンパイにおけるダマとリーチの比較でしたが、今回は良形待ちと愚形待ちの比較になります。

それぞれの局収支を求めるため、今回もみーにんさんの本から牌譜解析の結果を参照させていただきます。

では早速、子の8巡目先制の場合のデータです。

四麻       良形    愚形
和了率      0.57    0.43
放銃率      0.11               0.14
放銃時失点    6600       6600
被ツモ率     0.11               0.14
被ツモ時失点   2900       2900
横移動率     0.07    0.09
横移動時失点   1000     1000
流局率      0.14    0.20
流局時得点    1000          1000

↓ こちらは三麻のデータです。

三麻       良形    愚形
和了率      0.61    0.46
放銃率      0.12               0.17
放銃時失点       10900      10900
被ツモ率     0.13               0.17
被ツモ時失点   4500       4500
横移動率     0.04    0.05
横移動時失点   1000     1000
流局率      0.10    0.15
流局時得点          500            500


次に和了時得点ですが、それぞれ以下の通りとなります。

            四麻    三麻
リーチピンフドラ0  3700  3400
リーチピンフドラ1  6300  5600
リーチ一通ドラ0   7300  6500
リーチ一通ドラ1   9000  8000


局収支は、以下の式で計算することが可能です。

局収支=(A+E)-(B+C+D)

A:和了率x和了時得点
B:放銃率x放銃時失点
C:被ツモ率x被ツモ時失点
D:横移動率x横移動時失点
E:流局率x流局時得点


例えば、四麻のドラ0の場合を計算してみると、このようになります。

(1)リーチピンフドラ0
(0.57x3700+0.14x1000)
-(0.11x6600+0.11x2900+0.07x1000)
1134点
(2)リーチ一通ドラ0(愚形)
(0.43x7300+0.20x1000)
-(0.14x6600+0.14x2900+0.09x1000)
1919点

ちなみに、みーにんさんの『統計学のマージャン戦術』を参照すると、局収支はそれぞれ1100点と1900点と載っておりますので、私の計算の仕方が正しいことも確認できるかと思います。

② それぞれのケースにおける局収支

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では準備が整いましたので、それぞれのケースの局収支について見てみましょう。テンパイ時はいずれもリーチするものとします。

牌図1-1

                打1p    打4p   差
四麻  1134点  1919点  785点   
三麻    200点      425点     225点


ドラなしの場合、四麻では一通に受ける打4pリーチが優位となります。

これはセオリーとして覚えている人も多いかもしれませんが、こういう計算の裏付けがあったということになりますね。

中には「データなんて信用できねぇ。俺の経験則で感覚的に分かるわ」

という方も居らっしゃるかと思います。しかし、それは正確な定量化をしていないだけで、プレーヤーの内部では局収支に似た概念が判断基準にありますので、結局は同じことなのです。

ちなみに天鳳の三麻では局収支が微差となりました。三麻は失点時の影響が大きく(特に抜きドラがある場合)、局収支に大差がない場合はアガリ率を優先した方が半荘収支が安定するため、打1pリーチとする場面の方が多いかもしれません。ただし序盤の親など、条件が変われば打4pリーチの優位性が高まりますので、「三麻だからリャンメン」と形だけで安易に決めてしまうのも柔軟性に欠けると言えます。

また、麻雀において立体的判断が重要なのは言うまでもありませんが、それは平面での基準がある程度構築されて初めて活きること。平面が歪んでいれば、立体は更に歪んでしまうことは容易に想像がつくと思います。

牌図1-2

                打1p    打4p    差
四麻  2616点  2736点   120点
三麻  1551点     1115点     −436点


次にドラ1の場合ですが、四麻の局収支は微差という結果になりました。天鳳三麻では打1pとして良形のピンフで曲げた方が良いです。

③ その他の両天秤の形と、そこから浮かび上がる問題点


その他の「ピンフと一通の両天秤」には、下記の牌図2と牌図3の形があります。

牌図2

牌図2は、一通にするとカン2pで変わりませんが、ピンフにすると47p待ちになります。

牌図3

牌図3は、ピンフにすると25p待ちで変わりませんが、一通にするとカン5p待ちになります。

それぞれの局収支を計算すると、良形の場合も愚形の場合も、牌図1の数値と全て同じになります。


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読んで違和感を感じた方、それで正解です!

牌図2はリャンメンにしたときに、自分で2枚使いの47p待ちになり

牌図3はカンチャン待ちにしたときに、カン5p待ちとなります。

いずれも牌図1よりも待ちが悪くなっているのに、「局収支が同じになるとは何事だ?」という異論が出てきますよね。

もっと条件を絞って牌譜解析データを集めれば、理論上は可能なのかもしれませんが、とりあえず今回の局収支の計算の仕方ではこれが限界となります。


更にもう一つ、「いや待てよ?」となります。

そもそも最初に出ていた、良形待ちと愚形待ちの各種データというのは、実際どんな待ちのことを指しているのか?という疑問が湧いてくるかもしれません。

リャンメンにしても14待ちもあれば47待ちもあるし、愚形にしてもカン2待ちもあれば、カン5待ちもありますからね。

これに対する答えは、8巡目における「平均的な良形待ち」と「平均的な愚形待ち」の結果を表している、ということになります。

なぜなら、私が参照している牌譜解析の結果は、「全ての良形待ち」と「全ての愚形待ち」から得られたデータの平均だからです。

④ データの平均となっている具体的な形とは?


ではここで、8巡目における平均的な良形待ちと平均的な愚形待ちの目安について記載しておきます。

【8巡目における平均的な良形待ち】
(1) 三麻では
『データで勝つ三人麻雀』を参照します。アガリ率61%に近いラインを推定すると、以下の2つが代表的な形と言えそうです。
・2枚見えの14(69)待ち
・1枚見えの25(58)待ち

(2) 四麻では
三麻よりも端寄りの待ちと内寄りの待ちの格差がやや大きくなり、少しバランスが変わるので丁度ピッタリになるラインはお示しできません。興味のある方は有料になりますが、下記の記事も是非参照してみてください。

【8巡目における平均的な愚形待ち】
同じく『データで勝つ三人麻雀』より
・8巡目の愚形待ちのアガリ率は46.0%
・5~12巡目全体の愚形待ちのアガリ率の平均値は45.3%
・5~12巡目全体の「0枚見えの無筋37待ち」のアガリ率は45.6%

以上より、三麻における8巡目の平均的な愚形待ちの代表格は「0枚見えの無筋37待ち」であると推定できます。

四麻においても様々なデータを比較検討してみた結果、三麻とほぼ同様と考えて大きな問題はなさそうです。

【8巡目以外はどうなるのか?】
・良形待ち
待ち牌の種類と見えている枚数の組み合わせでパターンが多くなるので、一定の基準は示しづらいですが、上記の麻雀数理研究会の記事をよく読むとおおよそのイメージを掴むことは出来ると思います。
・愚形待ち
見えている枚数が1枚減ることで大幅にアガリ率がダウンするので、中盤に関しては上記の基準で概ね問題ありません。ただしカン28待ちだけは1枚見えでも、0枚見えの無筋37待ちに近いアガリ率を維持します。

⑤ 個別の牌姿のアガリ率と局収支を考えてみる


ここまで分かると以下のような応用が利きます。

例えば・・・

牌図1-2

0枚見えのカン2待ちは0枚見えの無筋37待ちより少しアガリ率が高くなるため(3%前後アップ)、先述した局収支よりも愚形側が少し有利になります。

関連した話題としては、『超実践麻雀何切る何鳴くドリル:雀ゴロK著』において

三色両天秤

上記の牌姿で、リーチピンフドラ1となる打1mよりも、リーチ三色ドラ1(またはダマ三色ドラ1)となる打4mを推奨していたことに繋がります。牌図1-②の説明で示した通り、ドラ1の場合は局収支的には微差になるはずですが、「カン2待ちである」ことと「序盤である」ことをミックスさせて、ある程度有意差がつくことを説明した問題であるといえます。

牌図2

牌図2では
・愚形側がカン2待ちで期待値アップ⤴️
・良形側が自身で2枚使いの47待ちで期待値ダウン⤵️

となるため、牌図1より更に愚形側が有利となります。不利であったドラ1の三麻でも逆転する可能性があるくらいの差になり得ると考えられます。

牌図3

牌図3では、0枚見えのカン5待ちは0枚見えの無筋37待ちよりアガリ率が下がるため(5%前後ダウン)、先述した局収支より愚形側が不利となります。一通の愚形リーチを考慮するのは四麻のドラ0の場合だけにとどめ、基本的にはピンフでリーチした方が良さそうという結論になります。


⑥ まとめ

このように対象としているデータの平均像がどのあたりかを把握することによって

実際の個別の牌姿をオーダーメイドで考えることができれば

推定局収支の精度が上がって、実戦にも役立て易くなるのではないでしょうか。


実はもう一つ別のテーマを用意していたのですが、ボリュームが大きくなり過ぎるので、次回へ持ち越しにしたいと思います。


参考図書) 
統計学のマージャン戦術 みーにん著
データで勝つ三人麻雀 みーにん著 福地誠編



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