見出し画像

恋愛感情を持たずに接していた人をどれくらいで忘れると思う?

高速道路教習で運転中、まだ高速に入る前、指導員さんが私にそう尋ねてきた。私はその質問に「めちゃくちゃタイプなら一生忘れないんじゃないんですか」と答えた。それは本当に一瞬で、質問されて答えるまでに5秒も掛かっていないように思う。なのに、その指導員さんの質問とそれに対する私の答えが一週間以上経っても頭からずっと離れない。多分それは、その後すぐに指導員さんの彼が「一生…」と考えるように呟いたからだろう。

彼がそう尋ねてくる前、香水の話をしてくれた。「めちゃくちゃ気になる子が香水送ってくれてさ、それがめちゃくちゃいい匂いですごい使いたいんだけど、冬限定だから買えないんだよね」と。その後に自分の勤める自動車学校に気になる子が教習に来たとして、指導員と教習生という関係を壊したくないし、仮に思い伝えたとて互いに気まずくなるだろうし。だから想いを伝えずそのまま卒業していくと思うんだけど、と言ったあとのタイトルになっている質問だった。私はもうその「気になる子」が香水を送ってきてくれた子なのか、全く違う別の子の話なのかは覚えていないのだけれど、前者のような気がしている。しているだけ。

文字に起こして初めて気付いたのだけれど、多分私の返しは答えになっていない。「どれくらいで忘れると思う?」という期間を問われている質問なのに「めちゃくちゃタイプなら」と指導員さんが相手のタイプの前提で話しているので、多分指導員さんが予想してた返答とは違ったんだろうなと今になって思う。多分、これは後悔の念に近い。でも私は純粋に、たぶん無意識に可能性を捨てて欲しくなかった。指導員さん、そんなに落ち込まなくて大丈夫ですよ。そんな意味を込めた返答だったんじゃないかと思う。

質問に対する彼の予想は2~3週間だった。私自身もそれくらいだと思う。でも自動車学校の指導員と教習生って学校の先生やはたまた彼氏彼女のような立ち位置に居るように個人的には思う。ほんの少しだけ特別な、遠い存在というか。多分指導員さんなんて本当に巡り合わせで(入校した時に適性検査をするのだけれど、それを元に指導員さんが決めるんじゃないかと思う。でも真実は知りたくない)奇跡に近いと思う。自分自身と同性か異性か、年齢は近いか離れているか、運転時に出る教習生の特性はなんなのか。そういう、教習生が知り得ないところで決められているとするなら、その指導員さんと出会った確率はめちゃくちゃに高いし、それに加えて一段階と二段階を最低12時間、19時間を指導員さんと時間を共にする。「最初に助手席に乗せたのは恋人ではなく、指導員」という言葉があるように、自分が思ってるよりも多く指導員さんと過ごして、話して、それなりの仲を深めていく。その間に教習生の印象に残るエピソードを植え付けられたのなら。いや、車を運転するという一生に一度の機会の中で、指導員さんと出会えて、運転の仕方を教えられて、最短最長で31時間を共にするというのは、もうそれだけで「指導員」という唯一無二の存在が私の中に刻まれる。あなたの教えが私の運転に繋がってる。なんて思えば、あなたは同級生や友人のような同等の繋がりではないし、学校の先生や恋人のような、その人しか担えない存在になる。だから「一生忘れないと思う」という言葉を伝えたように思う。


彼に小説を書いて欲しいと頼まれた。誰でもない自分を主人公に、ヒロインの名前も彼から与えられて、野球部のエースでお願いしたいと。生憎私は野球に詳しくないし、野球だけじゃ物語も膨らまないと思ったので初恋をテーマに持ってきた。その理由はもう定かではないのだけれど、結局ヒロインは物語の世界から居なくなってしまう。主人公は明るいのにどこか寂しさを纏っているし、ヒロインはその逆だ。その対比を書ければいいと思った。あとは何気ない瞬間をめちゃくちゃ綺麗に描写するだけ。それだけだ。私にはそれしかないし。どれだけ主人公の性格を明るくしようとも作者が同じであれば作風は似てきてしまうし。

つまり、なんだろう。多分期待しているのだ。彼が想ってるのは私じゃないかと。全然タイプではないけれど、全くという訳でもない。断言できない理由は、私自身、まず異性からというより人間性を見ていく。だから可能性としてはなくはないけど、現状としては何も無いのだ。ただ彼は恋愛話をしてくれた自動車学校の指導員という立ち位置にいる。

でももし仮に、私を想っているとするなら。状況的にすごく面白い。本人にすごく遠回しに「好きだ」と言っているのに当の本人は気付かないままだし、何も起きないまま。ただあるのは、彼を主人公にした約1万5000字の小説を本にして渡すだけだ。何も思ってないのに小説を書いてなんて言うのだろうか。そんな感情がぐるぐる回っているだけ。そこにどんな意味が込められているとか本人にしか分かりようがないけど、もし仮にそうだった場合が、すごくすごく面白いのだ。


性格の不一致なんて嘘だ。初対面で苗字が呼びにくいからと名前+さん付けが印象に残りすぎただけで、ものの見方はたぶん私と似ている。「楽しい仕事なんてないよね」「そうですよね」そんな会話ができるとは思ってなかった。適性検査で粗方私の性格を知っているであろう彼に「そんな事しないでしょ?」と言われたのがただただ驚きだった。高速道路教習では18歳の女の子が乗っていたのにタイトルになっている質問を私にしかしなかったし、一段階の指導員さんに口説かれたらどうする?と(どうしてそういう質問に至ったか経緯は覚えてないけれど)聞いたのは女の子だけだったし、あの時した会話が全部「私を想っている」という意味なら。

彼は相当に罪深い。



この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?